5.芽生え②
その後の数日間、ビアードたちはダイヤル王国で束の間の休息をとった。
宿でオフィリアの寝顔をみつつ、コーネリアスも眠りに落ちた。
ビアードもまた、警戒を怠ることはなかったが、
娘のように可愛がる二人の姿に静かな喜びを感じていた。
平穏な数日間はあっという間に過ぎた。
ビアードたちはフォースフォリア王国に向けて旅立とうとしていた。
**翌朝、馬車は岩壁の合間を縫う山道を、静かに進んでいた。
**彼らは、穏やかな旅の続きを予感していたが、その予感はすぐに裏切られることになる。
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ダイヤル王国を出て十数時間、ビアードは馬車を走らせた。
馬車は険しい岩山を縫う山道を順調に進み、夜が近づき周囲が暗くなるころ、
ついに山間部を抜けようとしていた。
「ビアード様、やっと山間を抜けますね!」
「スムーズに進めてなによりでしたな。」
山道を抜けた先は、月明かりに照らされた広大な草原だった。
草原を進んでいるとコーネリアスが何かに気づいた。
「なんでしょうか。右前方に人がいませんか??」
「ふむ。まずいことになっているやもしれませんな。少し馬車を急がせましょう。」
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「カレン!!大丈夫か!!バルカス!カレンの保護を最優先に!!」
「ああ!!わかってる!だけど手に負えねえ!荷物はだめだ!!」
ロイズとバルカスの焦燥した声が闇夜に響く。
カレンは既に左腕を深く負傷していた。屈強なバルカスも、
ざっと五十体以上にもなる魔狼の群れを相手に、防戦一方だった。
群れの大部分はアッシュ・ハウンドと呼ばれる灰色の下級種だったが、
一際大きく、影のように黒いシャドウ・ハウンドが一体、
群れを統率するように立ち、鋭い牙を剥き出しにしている
「これじゃジリ貧だ。ロイズ!!どうする!!向こうは狩りを熟知しているぞ。もうこれ以上は……!」
バルカスの叫びは、魔狼の群れの唸り声に掻き消された。
その絶望とともに、後方から馬車の車輪の音が近づいてくるのを、ロイズは微かに聞きつけた。
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馬車を囲む魔獣の中に、見覚えのある行商人のロイズと、二人の男女がいるのが見えた。
「あれは……! この前街で会った人だ!」
コーネリアスが声を上げた。魔獣に襲われているのは、他ならぬあのロイズたちの一行だった。
「コーネリアス殿、最優先は姫様の安全だ。 しかし放ってはおけぬ。少し揺れますぞ。」
そういってビアードは魔獣の群れに馬車を突っ込ませた。
「姫様の護衛とこのあたりのアッシュハウンドは私が抑えます。コーネリアス殿は彼らの援護に。」
「わかりました!!」
コーネリアスは光の剣を精製しながら馬車から飛び降り、ロイズたちの救助へ向かう。
コーネリアスは魔狼の群れの隙間を縫って駆けた。
その先に、ロイズと、屈強な護衛のバルカス、そして赤髪の助手カレンが身を潜めているのが見えた。
カレンは左腕を深く抑え、既に動けない様子だ。
「援護します!」
「お嬢さんは、あの時の...!剣を!?戦えるのか!?」
ロイズは驚き声を漏らす。
その刹那、コーネリアスは殺到するアッシュ・ハウンドの攻撃を躱しつつ、
光の剣を一閃させ、二匹のアッシュハウンドに攻撃する。
「おじさんは大丈夫?」
「ああ、なんとか!だが、仲間が一人負傷している。そして、ご覧の通り、この有様さ。」
苦笑いをしつつコーネリアスに微笑む。
一方、
「そんな攻撃では届かぬぞ。」
ビアードは馬車を背にアッシュハウンドを圧倒する。
その様子をみた親玉であるシャドウハウンドの大きな遠吠えとともにアッシュハウンドが動き出す。
二十匹足らずでロイズたちを包囲し、
残りのアッシュハウンドとシャドウハウンドはビアードを取り囲む。
「何をする気ですかな。考えようによっては・・・」
眉間に深い縦皺が刻まれ、ビアードは怒りを露わにする。
その瞬間、アッシュ・ハウンドの群れの中から、三匹の魔狼がビアードの剣を目掛けて特攻した。
ビアードは「単調。」と吐き捨て、その三匹を瞬時に斬り伏せた。
しかし、これはシャドウ・ハウンドの陽動だった。
三匹の特攻で生じた一瞬の死角を突き、
群れのリーダーであるシャドウ・ハウンドと一匹のアッシュハウンドが、
オフィリアを乗せた馬車の側面へと鋭い跳躍を見せた。
「お見事。」
ビアードは体勢を崩しながらも、一匹のアッシュハウンドを切り捨て、
シャドウ・ハウンドの攻撃を身を挺して防いだ。
ビアードは、噛みついたシャドウ・ハウンドを力任せに振り払う。体勢を立て直す隙もなく、
三匹のアッシュハウンドが更にビアードの目掛けて攻撃を行う。
二匹を切り捨てるが、そのうちの一匹がビアードの左足に深々と噛みついた。
足に攻撃を受けビアードは片膝を地につけた。
「ぐっ……!容易ではありませんな。」




