1.歩み①
フォースフォリア王国には、肌を刺すような本格的な寒さが迫っていた。しかし、王国の国民は、備蓄の心配も寒さの不安もなく、暖かな平穏の中で活気に満ちていた。
国民の笑い声は、整備された街道を抜けてどこまでも響いていた。国王エドワードのもとに待望の御子が生まれたことは国民に知らされていたが、まだその御身を拝んだものはいなかった。
――オフィリア亡命から13年が経過しようとしていた。
王城 王女の私室
「姫様、ついに半年後ですね。大丈夫そうですか??」
ベッドに座るオフィリアに向かってコーネリアスが声をかける。
オフィリアは、そう答える代わりに、細く震える両手をコーネリアスに向けた。
「だ、大丈夫じゃないよ。見て、この手……。」
「武者震いということですね。安心しました。」
コーネリアスは冷静に微笑む。
「安心しないで?!むしろ不安でしかないんですけど!!」オフィリアは悲鳴に近い声を上げる。
「大丈夫ですよ。姫様の可愛さで国民はみなメロメロです。」
「絶対悪く言われるよ!!いきなりでてきて、『誰だ!!このチビ』って!!」
「任せてください。そういった輩は私の刀で。」コーネリアスは少し楽し気に腰の剣へ手を伸ばした。
「それ問題になっちゃうから!!大問題になっちゃうから!!」オフィリアは手を慌ただしく動かしながら制止した。
コーネリアスは、くすりと笑って剣から手を放した。オフィリアは額に手を当て、深い息を吐いた。
「それはそうと、今日も街を見に行きますか??」
「うんっ!!色々と試したいこともあるし!」オフィリアの目に光が宿る。
「承知しました。じゃあ早くその寝間着から着替えてください。」
「はぁーい。」
オフィリアはベッドから飛び降り、部屋の奥にある着替えの準備を整えた。
華やかな王女の衣装ではなく、庶民の娘と見分けがつかない、目立たない地味な外套が用意されていた。
数分後、部屋に戻ってきたオフィリアは、見違えるような姿になっていた。
頭にはフードを深くかぶり、顔立ちは隠されている。その姿は、高貴な王女というより、**街で見かける少女のような姿だった。
コーネリアスもまた、簡素な旅装に着替えていた。
「準備はよろしいですか、姫様。」
「うんっ!頑張ろう!」
オフィリアはそう言うと、部屋の隅にある絨毯の下に隠された仕掛けに手を触れた。鈍い音を立てて、壁の一部が内部へと沈み、暗い秘密の通路が現れる。
二人は、周囲に人影がないことを確認し、その通路の中へと静かに滑り込んだ。彼女たちの足音が石畳に小さく響くだけで、それは王国の誰も知らぬ日課だった。




