5.芽生え④
戦いは終わり、馬車の周囲には静寂が戻っていた。
バルカスは腰を下ろし、安堵の息を吐きながら空を見上げた。
「生き残ったのか。俺たちは。」
その言葉を聞き、ロイズはコーネリアスとビアードの元へ駆け寄った。
「みなさんご無事ですか。ご助力感謝します。
街といい、魔獣といい、助けられてばかりで。」
コーネリアスも地面に腰を下ろし、深い息を吐いた。
「ふぅー。疲れたー。それにしてもなんだったんだろう。やっぱり姫様の力?」
ロイズは周囲を見回し、興奮を抑えきれない様子で訊ねた。
「姫様ってどこかの王女殿下でも馬車に!?」
ロイズの詮索めいた問いに対し、ビアードは静かに答えた。
「訳あって詳しい話はお伝え出来ぬ。
しかし紛れもなく馬車にいらっしゃるのは王女殿下である。
詮索は控えてもらえるか。」
その言葉にロイズは驚きながらも頷いた。
「助けてもらった恩人を助けはしても困らせたくはないよ。胸に留めておこう。」
「助かる。」ビアードは短く応じた。
遠くから、カレンが魔石を拾い集めながら、こちらへやってくるのが見えた。
「ここでなにがあったんだろう。私たしか怪我をした気がしたんだけど。
気づいたら...なにこの魔石の量!?」
カレンは周囲に転がる大量の魔石を見て、驚きに目を見開いた。
「カレン!!大丈夫なのか!!傷の具合は!動いて大丈夫なのか!!」
バルカスは慌てて立ち上がり、カレンに駆け寄った。
「いや怪我をした気がしてるんだけど、ぴんぴんしてる。どこも怪我をしてないみたいだしなんだったんだろう。」カレンは不思議そうに自分の体を触った。
「きっと天からの光のおかげだね。神様が助けてくれたんだよ。」ロイズが答える。
戦闘の緊張感から解放され、三人は集まって談笑をはじめた。
ビアードは、シャドウ・ハウンドが残した魔石を拾い上げ、静かに呟いた。
「あの力、以前からお生まれのときの話は聞いていたが、真だったとは。
これほどまでの力。王が隠さなければならないと御思いになるのも納得できる。」
「本当にすごいよ、姫様は。魔法なのかな??」
コーネリアスは疑問を露わにし、馬車を見上げた。
「コーネリアス殿。背中の方に見えた剣はなんだったのですかな。
いつか聞いた剣の加護というやつでしょうか??」
ビアードがコーネリアスに尋ねる。
「おそらく…??自分でもよくわからないのですが、凄まじい力を感じました!!」 コーネリアスも説明に困りつつ、その未体験の力にわくわくしている様子が窺える。
彼女は、今しがた体験した黄金の光と天上の歌、
そして自らを突き動かした謎の感情の波動を思い出す。
コーネリアスは、会話から離れ、徐に馬車の扉を開けた。
中には、安らかに眠るオフィリアの姿があった。
コーネリアスは、そっとオフィリアの寝顔を覗き込み、
安堵と感謝を込めて微笑んだ。
「まさか姫様が私たちをお助けに。なんてね。でもありがとう。」
コーネリアスは馬車で眠るオフィリアにそっと囁いた。
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激しい戦闘の痕跡は、夜の闇に飲み込まれ、世界は嘘のように静まり返っていた。
馬車を風避けにした場所で、焚き火が穏やかに燃えている。
ビアードは、安らかに眠るオフィリアが乗る馬車の扉を軽く閉め、
コーネリアスの隣に静かに腰を下ろした。
奇跡的な治癒を経験したカレンは、無傷の腕を不思議そうに見つめながら呟く。
「本当にさっきまでの戦いが嘘みたい。ね、ロイズ?」
コーネリアスが、炎の赤色に染まった顔を上げ、静かに呟いた。
その瞳には、激しい緊張から解き放たれた安堵に満たされた光が宿っている。
ビアードは、小さく頷いた。
「私もよくわかってはおらぬが、
あれはまごうことなき姫様の力であることは確かだ。
ただ噂で聞いただけ。しかし出生の話はザファリアでは有名な話ではある。」
カレンは、驚きに目を見開いた。
「え、どういうこと!? 出生の話って……!
じゃあ、馬車に乗ってるのは、ザファリア帝国の王女様ってこと!?」
すかさずロイズが、厳しく声を挟んだ。
「よせ。詮索はしないとビアード殿とは話がついているだ。
命の恩人を困らせるんじゃない!」
カレンは口を尖らせたが、すぐに笑顔に戻る。
「はーい。わかってるよ。でも、私を助けてくれたんだよね。
それだけは確かだよ。それにしても、
なんて慈悲深い王女様なんだろう!一目みてもいいものなのかな!!」
「それはできませぬな。」
ビアードは短く、きっぱりと言い放った。
コーネリアスは、カレンの素直な気持ちを汲み取った。
「少しくらいだったらいいんじゃないんですか??姫様もきっとみんなが無事で喜ぶだろうし!!」
ビアードは、コーネリアスの純粋なオフィリアが喜ぶかもしれないという考えに、言葉を詰まらせた。
「ぬぅ……。」
ビアードは考えた。静寂があたりを包み込み皆息を飲む。少ししてビアードが口を開く。
「少しだけですぞ。くれぐれも失礼のないように。」
カレンは立ち上がり嬉しそうに馬車へ駆け寄った。
「じゃあ失礼しまーす!!」
カレンが馬車に駆け寄る姿をみて、ロイズも興奮を隠さずに言葉を放つ。
「じゃあ僕もっと。」
「うわああー!!かわいい!!名前は名前は!!」とカレンがささやいた。
「本当だ。あぁ、なんて美しいんだろう。」ロイズも感嘆の声を漏らす。
その瞬間、オフィリアが小さく目を開け、カレンの方を見てにっこりと微笑んだ。
「ねーねー!!名前はなんていうのー??うわああ!!こっちみて笑った!!ねえねえ!!こっちみて!!」カレンはさらに興奮した。
息を荒げながら慌ててビアードが詰め寄る。
「な、な、なんたる無礼を!!」
そのビアードの声を遮るように、コーネリアスが馬車へ乗り込みオフィリアについて話す。
「姫様の名前はオフィリアっていうんだよ!!かわいいよねえ!!本当にかわいい!!大きくなったら早くお話したいなー。」
ビアードは、楽しそうに笑い合うみんなの様子と、オフィリアの無邪気な笑顔を見て、諦めたように溜息をついた。
その騒ぎを見て、それまで静かに見守っていたバルカスが、
屈強な体を小さく丸めて馬車に乗り込んできた。
「命の恩人だ。俺も挨拶だけでもさせてもらおう。」
バルカスは、その厳つい顔を極限まで近づけ、変顔
――目を大きく見開き、口を大きく歪ませた鬼のような表情――
をオフィリアに向けた。
――その瞬間。
オフィリアの笑顔が消え、みるみるうちに目には大きな涙を浮かべた。
「うわー!!バルカスが泣かしたー!!あはは!!」カレンが笑い声をあげた。
**ビアードは、カレンの笑い声を聞いた途端、無言で腰の剣に手をかけ、
こぶしを硬く握り締めた。**彼の眉間の縦皺が深くなる。
「バルカス。ただでさえ君は怖いんだからだめだろう。」
ロイズが呆れたように笑った。
「姫様~。大丈夫だよー。顔は恐いけど悪い人じゃないからねー。」
コーネリアスがオフィリアを優しく抱きしめる。
バルカスは、コーネリアスのフォローに抗議する。
「こら、誰の顔が恐いだ??言うねー。嬢ちゃん。」
**ビアードは、もはや抑えられなくなっていた。
**怒りの炎を瞳に宿らせ、バルカスに詰め寄る。
「き、き、きさまああ!!言い残すことはないな!!」
「冗談だってビアードのおじき、勘弁しとくれよ~」バルカスはたじろぐ。
「ならん!!誰がおじきじゃ。貴様のおじきになった覚えはない!」
そのやり取りに、
カレン、ロイズ、コーネリアスの三人は思わず吹き出し、笑い声をあげた。
「あはははは!!喧嘩はほどほどにねー」カレンが賑やかに言った。
馬車の中では、コーネリアスに優しく抱きかかえられていたオフィリアが外の賑やかな声を聞きながら小さな声で笑っていた。




