赤色の絨毯
しいなここみさま主催『いろはに企画』参加作品です。
その光景を何と言い表せばいいんだろうか?
ありきたりと言えばありきたりの秋の風景。
赤や黄色に色づいた楓や銀杏の葉が織りなすコントラスト。
背景は澄んだ空の蒼。
夏のものとは何処か違って見える涼しげな秋の雲。
きっとキャンバスの中央に描かれるのに脇役なのは、主役たる紅葉を飾る木々。
そう、主役は紅葉だ。
木々を鮮やかに彩り、アスファルトも土も同様に赤く紅く染めていく紅葉たち。
その下に何があってもこの光景は変わらないんだろう。
そう思わせる。
そんな真っ赤な絨毯の上を走る子どもが見えた。
はしゃぎたくなるのも解る。 そういう景色なのだ。
解るからこそ微笑ましくて、口元が弧を描くのが解る。
そんな僕の視界から子どもが消えた。
唐突に、前触れもなく ――落ちた?
(落とし穴!? 誰かの悪戯か! 悪質な!)
慌てて駆け寄り、落ち葉を退かす。
屈み込んで、両手を使って枯れ葉を放る。
すぐに見えてくるのはアスファルトの地面。
(まさかマンホールに!?)
だが見つからない。
子どもも穴も見つからない。
直径10m程の範囲を探したのに、見当たらない。
(そんなバカな……。
警察に行く……って、行ってどうする? なんて説明するんだ?)
取り敢えず、落ちた場所を改めて確認しようと、僕は元いた場所へ戻る。
――グニッ
何かを踏んだ感触。
足で軽く枯れ葉を払うと白い手が見えた。
慌てて枯れ葉を払うと、そこにいたのは知らない女性の遺体だった。 ご丁寧に胸に包丁が突き刺さったままのご遺体だった。
「うわああああああわわああわっ!?」
後ずさり転倒する。
そんな僕を突風が、紅葉の幕が覆い尽くし……。
気づくと辺り一面、元のように紅葉に覆われてしまっていた。
僕は恐る恐る遺体を覆う紅葉を退けようとしたが、ご遺体は探しても探しても見つからない。
「何なんだよ……ドッキリ?」
もう帰ろう。
紅い絨毯へ背を向け、我が家への帰路につこうとする僕は――
落ちた。
何処かへ。
ああ、紅葉の下には何があっても分からない……。
ホラー? ホラー……じゃない?
シュールって分類があればそっちにいきそうだけど、今の区分ならホラーでいい気がする。