意地悪な私と、可愛いと溺愛するあなた
朝の光が窓から差し込むと、私はすぐに眉をひそめた。
「なにこれ…このドレス、絶対似合わないじゃない!」
侍女たちは小さく息を呑み、顔を見合わせる。
「アイナ様…お召し替えが必要かと……」
「必要も何も、これじゃ王女らしさゼロよ!」
私は髪を振り乱しながら鏡の前で暴れ、胸の内にあるイライラを全力でぶつける。
周囲の視線は冷たく、心の中で私は思った――ふふん、やっぱり私って嫌われ者。
「だって、私だって自分の思い通りにしたいの!」
そんな時、そっと扉が開き、ハルが入ってきた。
あの落ち着いた笑顔、どうしても胸がドキッとする。
「朝から大変だね、アイナ」
「な…なによ、その微笑み……!」
私は思わず目をそらす。普段なら、周囲の侍女や騎士たちの冷たい目に慣れているのに、ハルだけは違った。
「そんな君も可愛いよ」
――え? 可愛い?
私は一瞬、言葉を失った。
「そ、そんな…!誰が可愛いなんて言ったのよ!」
赤くなった頬を隠すように手を振るが、心臓が妙に早く打つ。
「でも…ほんとに、君は…」
ハルの声が耳元で柔らかく響く。
どうして……みんなは私のことを嫌っているのに、ハルだけは違うの?
そんな疑問が頭をよぎるたび、胸の奥がじんわり熱くなる。
――くっ、こんなこと考えてちゃ、悪役として失格よ!
私は気合を入れて、もう一度ぶりっ子全開で文句を言い始めた。
「いいえ、ハル!このドレス、絶対にダメ!変なの!嫌い!」
すると彼は笑顔で私の頬を軽く撫でる。
「嫌いなものも可愛いんだよ、アイナ」
――っ、そんなこと言われたら、胸が痛いじゃない!
私は悔しくて顔を背けた。だけど、なぜかその視線からは逃げられない。
周囲の冷たい視線も、今はどうでもよくなるくらい、ハルの存在が特別すぎる。
この日から、私はまた一歩、彼に惹かれていく――いや、惹かれざるを得ないのだと、自分の心が認めてしまうのを感じた。
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宮殿の庭園は、朝の光に照らされて淡い緑がきらめいていた。
私はふわりとドレスを揺らしながら歩く――まるで王女としての威厳を誇示するかのように。
「ハル、ちょっと見てよ!あの花壇、色が微妙じゃない?」
「微妙……かな?」
あの落ち着いた声に、思わず口を尖らせる。
「なによ、かな?じゃなくて、もっとなんとかしなさいよ!」
「君の言う通りにすると、また誰かが怒ると思うけど…」
私はわざと不機嫌な顔をして、口ごたえ。ぶりっ子全開だ。
――ふふん、これで少しはハルを困らせられるはず。
だが、彼は動じない。にこりと笑い、そっと手を差し出す。
「ほら、一緒に直そう」
――え、手…つないできた?
私は思わず顔が熱くなる。周囲の侍女たちは小さく息を呑み、王族や騎士たちも冷ややかな視線を送っている。
「アイナ様、またハル様を…」
「あの…ほんと、どうしてこう…」
私は心の中で舌打ちをする――くっ、誰も私の味方じゃないじゃない!
でも、ハルだけは違う。
手を取り、笑顔で花壇を直すその姿に、胸がぎゅっと締め付けられる。
「ほら、ここも少し曲がってるね」
「そ、そう…だけど、あなたが言うのは簡単よね!」
「いや、君の意地悪な顔も可愛いけど」
――っ、そんなこと言わないでよ!
私は思わず肩をすくめ、少しだけ背を向ける。
でも、彼の手はまだ離れず、私の手をぎゅっと握ったまま。
庭を歩きながら、私は少しずつ気づき始める。
意地悪を言えば言うほど、ぶりっ子ぶりを見せれば見せるほど、ハルは嬉しそうに微笑む――そして私を愛おしそうに見つめる。
「ハル……なんで、そんなに優しいのよ?」
「だって、君は僕にとって特別だから」
――特別……?
胸がぎゅんと痛む。
みんなは私を嫌っているのに、ハルだけは違う。
その温かさに、私は少しだけ心を預けたくなる。
でも、負けない。
「なによ、そんなこと言っても、私…私のぶりっ子を見抜いたわけじゃないんだからね!」
「うん、でもそれも全部可愛い」
――っ、もう…そんなこと言われたら、心が崩れるじゃない!
アイナのぶりっ子全開、意地悪心全開、周囲の冷たい視線も交えつつ、ハルの溺愛がじわじわ効いてくる甘々な日常。
この瞬間、私は確信する――どんなに悪役ぶりを発揮しても、ハルだけは私を特別に思ってくれている。
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その日の宮殿は、豪華な宴会の準備で華やいでいた。
シャンデリアの光がきらめき、床には深紅の絨毯が敷かれ、まるで私のために用意された舞台のよう――いや、私が主役であることは確かだから当然か。
「アイナ様、そろそろお入りください」
侍女の声に、私はふんっと鼻を鳴らす。
「まだ準備できてないわ!髪もまだ…!」
周囲の貴族や王族たちはため息をつき、陰口をこぼす。
「あの王女様は、いつも大騒ぎだ…」
「本当に…ウザイったらないわね」
――うるさい、うるさい、うるさいわ!
私は両手を振り回して怒るが、そんな私を横目にハルが静かに微笑む。
「大丈夫、アイナ」
「な…なによ、その余裕な笑み!」
「君が困っているとこも、全部かわいいな」
胸が熱くなる。周囲の冷たい視線も、まるで届かない。
――くっ、ハルだけが、私の味方…!
宴会が始まり、王族たちが会話をしている間、私は意地悪心からわざとお茶をひっくり返してみせた。
「わっ!なんで私の目の前にこんなことを…!」
「大丈夫?」
と駆け寄るハルの手に、私は小さく抵抗してみせる。
「べ、別に心配なんて…してないんだから!」
――ぶりっ子全開、意地悪心全開!
しかしハルは微笑みながら私の髪にそっと触れる。
「君のそんなところも可愛いな」
――っ、もう…心が崩れそうになるじゃない!
私は思わず目をそらすが、ハルは手を伸ばし、そっと頬にキスを落とす。
「な…なにそれ!」
「君が困る顔が好きだから」
冷たい視線の中での甘いキス。心がぎゅっと締め付けられる。
――くっ、みんなが嫌ってる中で、ハルだけが私を特別に見てくれている。
宴会が終わり、夜の庭園を散歩することになった。
月明かりの下、花々の香りが漂う静かな庭。
私はぶりっ子全開でハルにちょっかいを出す。
「ねぇ、手、つながないの?」
「つなぐよ、でも君が先に言わないと」
――え?
アイナの心臓は跳ねる。
「な、なによ、そんなこと言わないでよ…!」
「君が素直になるまで待つ」
その言葉に、私はつい…くすぐったくて笑ってしまう。
そしてふと、彼を見つめたまま、思い切って手を差し出す。
「…じゃあ、つないで」
ハルは微笑み、手を握ってくれる。
その温もりが心の奥まで伝わり、胸の奥がじんわり熱くなる。
「アイナ…君は、誰よりも愛らしいよ」
――っ、もう…そんなこと言われたら、素直にならざるを得ないじゃない!
甘々な散歩、手つなぎ、ハルの優しい言葉に、私は少しずつ心を預け始める。
そして心の奥で確信する――悪役ぶり全開の私でも、ハルだけは特別で、唯一無二の存在なのだと。
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夜の宮殿は静まり返り、月明かりだけが庭を淡く照らしていた。
私はゆっくり歩きながら、自分の心の奥のざわめきに気づいていた。
――なんで…私はこんなに胸が高鳴るの?
周囲は私の悪役ぶりを嫌い、冷たい視線を向けるのに、ハルだけは違う。
どんな意地悪もぶりっ子ぶりも、全部「可愛い」と笑って受け止めてくれる。
その温かさが、私の心の壁を少しずつ崩していた。
「ハル…」
思わず名前を呼ぶと、ハルは振り返り、柔らかく微笑む。
「どうしたの、アイナ?」
胸がぎゅっと締め付けられ、言葉がうまく出てこない。
「そ、その…私…」
――っ、恥ずかしい!でも、どうしても伝えたい気持ちがある。
私は思い切って、一歩彼に近づき、手を握った。
「…もう、我慢できない…!」
ハルの微笑みが一層柔らかくなる。
「うん、わかってる」
その瞬間、私は心の奥のすべてをさらけ出すように、彼に唇を重ねた。
柔らかく温かいその感触に、私の胸がぎゅんと高鳴る。
ハルはそっと私を抱きしめ、優しく手を回してくれる。
「アイナ…君が自分からキスしてくれるなんて、嬉しいよ」
「だ、だから…、これは…私…」
頬を赤くしながら、言葉が震える。
彼の腕の中で、私は初めて素直に甘えることができた。
冷たい視線や嫌味な囁きは、もうどうでもいい。
今はただ、ハルの優しさと愛情に包まれる幸福感で胸がいっぱいだった。
「ハル…ありがとう…」
「うん、僕もありがとう、アイナ」
心の奥底で固く閉ざしていた扉が、完全に開いた瞬間だった。
悪役ぶり全開の私でも、ハルの前では素直になれる――
それがこんなにも甘く、幸せなことだと初めて知った夜だった。
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翌朝、宮殿の光が差し込むと、私はまた少し不機嫌に目を覚ました。
「なんで朝からこんなに忙しいのよ…!」
侍女たちは小さくため息をつき、冷たい視線を向ける。
「アイナ様、また文句を…」
「あの王女様、本当に手に負えないわね」
――相変わらずだわ。
心の中で舌打ちしつつも、私は小さく笑みを浮かべる。
なぜなら、隣にはハルがいるから。
「おはよう、アイナ」
「なによ、その余裕な笑み…!」
でもその声に、胸の奥がきゅんと熱くなる。
「昨日は…ありがとう」
「何のこと?」
「…え、いや、昨日のことよ!」
私は顔を赤らめ、思わずそっぽを向く。
すると、ハルはそっと私の肩に手を回して寄り添う。
「どんなに周りが冷たくても、僕は君を守るから」
――っ、そんなこと言われたら、もう心が崩れるじゃない!
私は少しだけ彼に甘え、彼の腕の中で小さく息をつく。
庭を歩くと、昨日の宴会や散歩の光景が頭をよぎる。
「やっぱり、私、ハルのこと好きなんだな…」
心の中で小さくつぶやき、微笑む。
周囲は相変わらず冷たい視線を向けるが、もう気にならない。
なぜなら、私の特別はここにある――ハルだけが、私の全てを受け止め、守ってくれる。
「行こう、アイナ」
「え、どこへ?」
「君と一緒に、今日も楽しい一日を過ごすためさ」
手を取り、私は思わず笑顔になる。
悪役ぶり全開だった私が、ハルの溺愛で少しずつ変わり、心の壁を開いた。
今日もまた、甘い日常が二人を包む――そんな幸せな余韻の中で。
最後まで読んでくざさりありがとうございます!
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