表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

再建の始まり

「それじゃあ魔王子様、我が軍の状況、勇者率いる敵の配備を説明しますね!」


銀髪の女性――彼女の名前はリリスと名乗った――は丁寧に一礼し、手にしていた魔導端末のようなものを取り出した。それは、どこか古代の書物と機械が融合したような不思議な装置で、魔法陣のような光が淡く瞬いている。


「説明…って、なんだそれ?」恭介は、つい反射的に口を挟む。自衛官時代の経験から、何か情報端末のように見えたが、あまりにも異世界的すぎる形状に戸惑いを隠せなかった。


「これは魔導情報盤です。戦況や敵の情報、そして我が軍の配置などを記録しているものですよ。」リリスはその装置を宙に掲げ、魔力を込めた。すると、空中に立体的な地図が浮かび上がった。


「おお、すげえ!」ゴルドが目を輝かせて覗き込む。「何度見ても飽きないな!」


恭介も思わず目を細めてその地図を見た。赤い点と青い点が配置され、戦略的な要素が分かりやすく表示されている。まるで高度な電子地図を見ているかのようだ。


「こちらが我が軍の現在地、そしてここが敵軍――勇者率いる連合軍の前線拠点です。」リリスが指を動かすと、地図がズームインし、詳細な配置が浮かび上がった。「ご覧の通り、我が軍は現在、壊滅的な状態です。」


その言葉に、恭介は眉をひそめた。地図上で青い点――魔王軍の兵力を表しているものが、ほとんど散り散りになっている。数にしてわずか数百。それに対し、赤い点――連合軍の兵力は圧倒的だった。無数の点が波のように広がり、魔王軍を包囲するような形になっている。


「これが…我が軍の現状か。」恭介は呟いた。戦況図を見慣れている彼にとって、これはもう一目瞭然だった。


「はい。」リリスは悔しそうに唇を噛む。「かつては偉大なる魔王様の下で十万の兵を擁していましたが、今ではこの通り…。魔王様が倒されて以降、多くの兵が逃亡し、残った者たちは士気も低い状態です。」


「それに比べて連合軍のこの数…いや、これは戦える状況じゃない。」恭介は冷静に分析するように地図を見つめた。「連合軍の規模は我が軍の百倍以上だ。しかも、この包囲網を見る限り、戦術的にも練られている。」


「そうなんです。」リリスは肩を落とした。「勇者という存在が民衆に与える影響は大きく、多くの国や種族が連合軍に加わっています。我が軍には、もはや勝機が…」


「いや、待て。」恭介はリリスの言葉を遮った。その声には、確信に満ちた力強さがあった。「勝機がないとは限らない。むしろ、こういう状況だからこそ、やれることがある。」


「えっ?」リリスとゴルドは驚いた表情で恭介を見た。


「まず、敵の兵力が圧倒的だとしても、それを一箇所に集中させるのは不可能だ。」恭介は立ち上がり、地図を指差した。「敵の前線は広すぎる。この包囲網を見ても分かるが、各地点の兵力密度にはばらつきがあるはずだ。まずは、敵の薄い部分を狙い撃つ。」


「なるほど!」ゴルドは拳を打ち合わせて笑顔を見せた。「つまり、弱いとこからぶっ叩くってことか!」


「その通りだ。ただし、無計画に突っ込むわけじゃない。」恭介は冷静に続けた。「小規模な部隊を編成し、少数精鋭で奇襲をかける。そして、敵を混乱させ、その隙に士気を取り戻すんだ。」


「…なるほど。」リリスは真剣な表情で頷いた。「確かに、今の状況では正面からぶつかるのは無謀です。ですが、奇襲であれば可能性があるかもしれません。」


「だが、問題は兵士たちの士気だな。」恭介は腕を組んで考え込んだ。「士気が低いままでは、どんな作戦も成功しない。」


「そうなんです。」リリスは困ったように答えた。「多くの兵士たちは恐怖に怯え、戦う意欲を失っています。」


「なら、まずは俺たちの強さを見せるしかないな。」恭介は微笑みを浮かべた。「魔王軍の息子として、俺が最前線で戦えば、少しは士気も上がるだろう。」


「おお!さすが魔王子様!」ゴルドが力強く拳を振り上げた。「俺たち、あんたについていくぜ!」


「でも、魔王子様…」リリスは不安そうに言った。「本当に危険ではありませんか?勇者の軍勢は強大ですし…」


「俺は、戦うためにここに来たんだ。」恭介はきっぱりと言い放った。「それに、戦い方なら誰にも負けない自信がある。俺は元自衛官だ。戦場での経験なら十分だ。」


その言葉に、リリスはしばらく驚いた顔をしていたが、やがて微笑んだ。


「分かりました。魔王子様のお言葉、しかと受け止めました。まずは、奇襲作戦の準備を進めましょう。」


「よし、決まりだな!」ゴルドが再び笑顔を見せた。「俺も気合い入れて準備するぜ!」


こうして、恭介は魔王軍の再建という使命に向けて第一歩を踏み出すこととなった。しかし、その道は決して平坦ではない。勇者との戦い、魔王軍の内紛、そして新たな仲間との出会い――物語は、これから本格的に動き出していく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ