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第50話 ピンチ

 それはシンが腰の曲刀に手をやるのと同時だった。

 ニアが風を纏って一気に間合いを詰める。

 シンの目が見開かれる。ニアのスピードが想定外だったか。

 ニアの踏み込みを追うように短剣の切っ先が弧を描き、シンの喉元に向けて跳ね上がる。

 シンは腰から抜いた流れのまま曲刀で受け流そうとしたけど、躱すようにニアの剣の軌道がずれる。クローネの剣筋をもうモノに!?

 でもシンの顔に焦りはなかった。読んでいたとばかりに曲刀が軌道を追う。

 そうだ、コイツはあの時、クローネの剣を見てるんだ。

 刃と刃が交錯すると思ったその瞬間。ニアの剣の軌道がもう一度ずれた。

 フェイントのフェイント! ニア、そこまで!

「――っ!」

 初めて、シンの表情が歪む。曲刀を戻しきれず、かろうじて剣と急所の間に腕を入れた。ニアの剣がそれを切り裂く。――浅いっ!

 シンはバランスを崩しながらのけ反る事で斬撃を逃がしていた。

 ニアはシンの胸を蹴って反転、離脱する。シンはその勢いを利用して後ろ手を地面に付き、身体を一回転して体制を立て直す。

 二人は間合いを置いて再び向き合った。

「――っそガキゃああ!!」


 ・ ・ ・


(ニア凄い、アイツと渡り合えてる! でも無茶しないで……!)

 ボクはそんな二人の傍に放置された壺の中、スライムに押さえ込まれて声も出せない。

 緊迫した二人なんてどこ吹く風で、スライムはボクの身体をまさぐってる。

 ニアもピンチだけど、ボクも意外とピンチだよ!?

 ボクを包み込むスライムは、粘液質というよりはモチのようなハリがある。

 その表面が波打つように盛り上がって、ボクの身体のあちこちを圧迫する。

 腕を捏ねたかと思うと、脚……ぐええ、おなかそんなに押さえないで……うぐっ、胸をそんなに締め上げたら苦し……え、あ、ちょ……胸をそんなに捏ね回したらぁ……ひやっ、先っちょヤだ……

 え、こいつ、もしかしてボクの反応探ってる!?

 そんな胸ばっか執拗に捏ねないでぇ……。


 ・ ・ ・


 シンが吠えた。

 ニアがまた風のように間合いを詰める。

 シンが曲刀を正面から叩き付けるようにニアに踏み込んだ。

 パワー差で押し切るつもりか。

 ニアは曲刀を受け流して身を躱しながら剣を走らせ、腕の傷を狙う。

 でもシンはそれを気にしないかのように力強く曲刀を横に薙いだ。

 ニアは一度間合いを取らざるを得ない。

 その時、シンの気配が消えた。ニアの目の前にいるのに、気配が見えない。

 一瞬の混乱と躊躇。

 その隙をシンが逃すはずもない。

 曲刀を逆向きに鎌のように使い、その切っ先がニアの腋、防具の隙間に吸い込まれる。


 ――ガァン!


 曲刀が弾かれ、ニアが横に吹っ飛ぶ。いや、自ら飛ぶことで衝撃を逃がしたんだ。

 ニアは咄嗟の魔法防御で切先を受け止めていた。

 でも、手で押さえた腋から鮮血が滴る。止め切れてなかった。

 腕と腋、痛み分けで二人が三たび向き合う。


 ・ ・ ・


「んむーっ! んーっ!」

(……ニア! 今負けたらボクが治癒に行けない! 今からでも逃げて!)

 今のがアイツの暗殺技! あれで心臓狙うのか!

 ニアは攻撃に魔力を乗せるのはめきめき上手くなったけど、魔法防御はあまり得意じゃないみたいだった。

 今のも危なかった、稽古じゃあんなに防御出来てなかったもの……いにゃあああ!?

 ふ、服に入って来たあああ、なんでそんなに胸にご執心なんだよおお!?


 ぬちょん

(うひゃあっ!?)


 スライムが肌に直接触れてきたと思うと、胸のところだけが粘液質の冷たいぬるぬるに覆われた。

 同時に、背中を支えるようにスライムが広がり、ぬるぬるが肌の表面を滑りながら、前と後ろから膨らみをぐにぐにと圧迫する。

 ちょ……それダメ……

 ぬるぬると胸を捏ね回しながら、ぬるぬるが胸からおなかへ、さらにその下へと広がっていく。


 ビクっ!


 そして、粘液質のスライムが下着の中に直接触れたとき、思わず身体が跳ねてしまった。

 ボクのその反応に、スライムの矛先が変わる。


 ひゃあああああ!?


 スライムが下着の中で前から後ろに広がって下腹部を包み込んでしまう。

 蠢くぬるぬるが盛り上がって突起を作り、あちこち押し付けてくる。

 や、やめ、あっ……それは、それだけは……


 ・ ・ ・


 互いに目線を外さず睨み合う。

 三たび、動いたのはまたニアだった。

 ニアを追うように切っ先が弧を描く。

「同じ手っ!」

 シンが叫んで踏み込む。ニアの剣の切っ先が飛ぶようにずれる。

 それを正面から迎え撃とうとしたシンにニアがさらに低く踏み込むと、魔力を纏った鋭い蹴り上げがシンの股間を狙った。

 得意の局所蹴りをフェイントにしたつもりだったのか。

 そのまま剣はニアごと曲刀に弾かれる。

 シンは蹴りをガードもせずノーダメージ。

 地面を転がって立て直すニアに、シンが嘲笑を向ける。

「そんな子供騙しが効くと思って――なっ!?」

 突然、シンが崩れるように倒れ込んだ。

 そこには小さな球体が転がっていた。

 そう、それはニアが魔力を込めて蹴り込んだ――付与弾。


 ・ ・ ・


(やった! ニア、やった! すごい! えらい! ひやあああ、ダメ、それ以上は!)


 ――!?


 ソレがアレを貫くかと思った刹那。

 身体の力が全て抜けた。

 同時にスライムの動きもピタリと止まる。

「フェイ、大丈夫?」

 ニアが上から壺の中のボクを覗き込む。

 そう、もうひとつの付与弾でスライムを麻痺させてくれたんだ。

 ――ボクごとだけど。


 ◇ ◇ ◇


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