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第49話 お尋ね者

「はっ!」

「……おっ!?」

 ニアの剣を躱しながらクローネが感嘆の声を上げる。

「もう風のフェイント使うんだ、凄いよニアちゃん!」

 ボク抜きでニアの稽古。それでもニアは十二分に強くなってるみたい。非力はどうしようもないけど、元々スピードがあるのを魔力で底上げしてる。

 カッ――

 ニアの短剣をクローネが受け流す。

「ニアちゃんのスピード捌けるDランクはいないかもよ。やっぱ獣人は凄いや」

 ニアはEランクに上がったばかりだというのに、スピードだけならCランクに届きそうってことか。


 ――ん?


 ここは街から少し離れた森のほとり。ボクは木の枝に腰掛けて二人を見てる。それを誰かに見られてるような……。ボクのチートな気配察知でも、そんな気がする、程度の感覚。

 でも、さすがにもうわかる。これは気配を隠蔽してる相手。この感じはあいつだ。お尋ね者、シン。


 ◇ ◇ ◇


 結局、奴に動きはなかった。宿に戻って二人に話したけど、やっぱりクローネでもあの隠蔽は気付かなかったらしい。

「ちょうどいいね、これを卒業試験にしようか」

 僕たちを見ながらクローネは言った。

「二人にこれをあげるから、あいつを捕まえてみせて」

「……付与弾?」

 渡されたものを見てニアが聞く。

「そう。麻痺の最強のやつ。魔力込めたら2秒で発動するから上手く使ってね――って、フェイちゃんには大きいかあ」

 パチンコ玉サイズのそれを受け取ったものの、ボクにとってはサッカーボールサイズ。魔法収納もないボクじゃ持ち歩けないなあ。

「ニアが2つ持っててよ」

 ボクはそれをニアに渡す。クローネが続ける。

「捕獲の生死は問わない。生かして捕まえてもどうせ死罪の賞金首だし、麻痺させたらすぐ止めを刺すのをオススメするよ。逆に奴は商品である君たちを殺そうとはしないはずだから、その隙を利用すること。ま、捕まっちゃった時は私が助けるよ」

 

 ◇ ◇ ◇


「もう、ニアなんか知らない!」

 そんなボクにぷいとそっぽを向くニアから飛び去り、森の中へ。ニアはそのままスタスタと歩き去ってしまう。

 朝、今日は同行出来ないというクローネと別れ、ボクとニアは狩りに出た。でも、些細な事から喧嘩になってしまって……という作戦。

 あいつを誘い出すにしても、ボクがニアといたらまたニアを酷い目に合わせてボクを捕まえようとするだろう。それなら最初からボクが囮になれば、ニアは後回しにされるはず。

 ――ほら、案の定ボクの方に動いた。

 まあAランクと対等に渡り合うボクがそう簡単に捕まるわけないけどね。

 気付いてないフリで木の枝に腰掛けて様子を伺う。奴は気配を消したまま近付いてくる。

 さてどう出るか。ニアが潜んでるとこまで誘き出す作戦だ。ボクは初撃を避けて逃げ出さなきゃいけない。――いよいよ何かしてくるくらいに近付いた。気配隠蔽してる相手は意思も読めないんだよなあ。

 ――ん?


 ・ ・ ・


 ――あれ? 何がどうなった? ボク、気を失ってた? ここどこ? 何これ!?

 気が付くとボクは何かの中にいた。壺?

 そしてブヨブヨした何かに腰まで埋もれてる。飛び上がって抜け出そうと――飛べない!?

 飛ぼうとする前にブヨブヨした何かに魔力を吸われてしまう。足を動かそうとしたらぎゅうっと押さえ込まれた。動いた! ブヨブヨが動いた! 生きてるよコレ! 何これスライム!?

「気が付いたか。会いたかったぜ妖精」

 男、シンが上からボクを覗き込む。

「そいつは強力な魔獣も魔力ごと押さえ込んで苗床にするスライムだ、高かったんだぜ?」

 ななな苗床!? 苗床って何!?

「ククっ、心配すんな、産み付けられる前には売り飛ばしてやる。高度催眠の魔道具も高かったからな、お前を売らなきゃ割に合わねえ」

 産み付け!? な、何をどこにどうやって!? ああああ、動いてる、動いてる! 身体が埋まっていくんだけど!? ヤバいんじゃないのこれ!?

 くそっ、こんな周到に用意してたなんて。もし捕まったらボクがこいつを撹乱する三段構えの作戦だったのに、これじゃ二段目が遂行できない。こうなったら最後の三段目だ。……クローネ、助けてえぇ!


 ・ ・ ・


「……ほお」

 男の前にニアが姿を現して立ちはだかる。

「フェイを返してもらう」

「ククッ、手間が省けたな。ケモノ幼女は死体でいいんだとよ、育たないようにな」

「――何人殺した」

「覚えてねぇなあ、ガキ仕入れるために親殺したこともあったっけなあ」

「――っ!」

 ニアの尻尾が持ち上がり、怒りに耳が反る。

「むぐ……ニア、逃げて!」

 ボクの全身を飲み込んで押さえ込むスライムと格闘しながら、ボクはなんとか叫んだ。

 魔力を吸われるせいで魔力呼吸ができないから、顔を覆われると窒息しそうになる。スライムはボクを生かさず殺さず捕えるため、かろうじて呼吸できる程度には顔を出させるんだけど。

「フェイ、だいじょぶ。私が助ける」

「ダメ、意地になっちゃ……むぐぐ」

 闘うのは殺されない保証があればこそだよ! 逃げて! ニアが死んじゃう!

 スライムが蠢いてボクの全身をまさぐり始めた。ひいいい、苗床って、やっぱりそこ……!?

「あのクソAランクなら助けには来ねえぞ」

 え、どういうこと!?

「関係ない、お前は私が殺す」

 ニア、ダメだってば!

「はっ!」

 ニアが奔る。

 ダメえええ!


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