第47話 魔力
「何そのデス鬼ごっこ、ボクだけ命がけじゃない?」
「あれ……もしかして魔力防御できない?」
「何それ、どうやんの?」
「魔力放出はできるよね? 飛んでるくらいだし」
「うん」
ぽわっと出してみせる。
「そこまで出来てるなら、あとはイメージ。それを固めてみて?」
手の周りに放出した魔力を……固める?
「んー……こう?」
あ、なんか上手くいったかも。
「それで弾いてみて、ほら」
シュンっと竹先が走る。
パキィン!
「……いったああい」
防ぐには防げたけど、涙目。
「でも今弾いたでしょ」
なるほど、感覚はわかる。
「相手の力を全部受け止めなくても、自分を弾けば流せるでしょ」
自分を……ああ、受け流すのか。なんとなくわかるかな?
「じゃあ実践してみよっか、いくよ!」
「わわわ、やるとか言ってな、おわっ!」
いきなりさっきのヤバい勢いで竹先が飛んで来たのを躱す。
こんなの弾くとか怖っ!
ヒュッ! ヒュヒュッ!
さらに連撃が来る。……冷静に見れば、避けるなら余裕あった。ヒラヒラと蝶のように舞って身を躱す。
「もう慣れたの、さっすが。じゃあ上げてくよっ!」
ビシュヒュンッヒュウッ!
竹棒が鞭のようにしなって幾重にも弧を描く。
ボクはそれも踊るように躱していく。
「あはははっ、凄いよフェイちゃん、最高!」
クローネは不意に止まると竹棒を投げ捨てた。スピードに耐えきれなかったのか、中程からもう棒じゃなくて繊維の束にバラけてしまっていた。
終わりかな、と思ったら――。
クローネが剣を抜いて満面の笑顔を浮かべる。
……え?
「トップ、行こっか」
「ちょ、ま……」
背筋を冷たいものが走った。
ブゥン!
剣の方が重いはずなのに、ははは、速っ!?
殺意がなければ死なないわけじゃないからね!?
うひッ!?
間一髪の紙一重!
――って、切っ先が戻って来るしッ!?
ッキィィン!
咄嗟に腕をクロスさせて固めた魔力で剣を弾く。というか、ボクの方が弾かれてクルクルと舞い上がる。
「ほら、もっと上手く流して」
言いながら、連続の突き。
シュシュシュ、キン!
こんどは弾いた反動を利用してさらに身を躱す。うん、だんだん慣れてきたぞ。
「すっごい、私のトップスピードについて来る人初めてだよ! よーし、勝負!」
ダンッ!
クローネが床板を踏み抜きながら踏み込む。
剣先が遅れて弧を描く。
――これはオルキヌスウルフ戦で見た剣筋が飛ぶやつ、騙されない!
風を纏っていきなりズレた剣筋。それを躱して腕にタッチ――えっ!?
ズレたと思った剣筋が戻る。そして小さく鋭い弧を描いてボクの正面へ――フェイントのフェイント!? 避けきれない!
ギィンッ!
咄嗟に全力で固めた魔力で受け止めた――けど、受け流せずに吹っ飛ばされる。
ドバキャッ!!
「がはぁっ」
空中で立て直す間もなく背中から壁に叩きつけられ、壁板を破ってめり込んだ。
――魔力防御してなきゃ死んでるって!
「――フェイっ!?」
ニアが全身の毛を逆立てて悲鳴を上げた。
ああー、だいじょぶだいじょぶ。
ボクは手だけを力なく上げてニアに応える。
「――ほっ」
ニアが安堵で脱力する。
「へっへー、私の勝ちぃ〜」
クローネが剣を上げて勝利宣言。
「でもフェイちゃんすごい。こんな楽しい手合わせ初めてだよー」
「ぼ、ボクはもうカンベンして欲しい……」
「ええー……」
クローネは不満顔だけど。
「こ・わ・さ・な・い・で、って言ったよねえ?」
その背後からネケケさん。あ、笑顔が黒い。
「あ、あはは、あは……」
ネケケさんの威圧にクローネがだんだん小さくなっていく……。
・ ・ ・
「気配隠蔽をブチ抜いたのもフェイちゃん?」
「オルキヌスウルフの? うん、なんとなくくらいだけど」
「あの隠蔽抜くとかもう人外の域――って妖精だもん人外だったねそういやアハハ」
「……人外認定は地味に傷付くなあ」
「そうだねゴメン。ともあれフェイちゃんだけならたいていは大丈夫そうだけど、問題はニアちゃんと一緒にいるときね。ニアちゃん特訓だね、頑張ろー」
ああ、ニアが落ち込んじゃってる。そりゃあね……。
ボクはニアの肩に乗って頬に頬を寄せる。
「フェイ……」
ニアは少し涙ぐんでた。
「ボクはずっとニアと一緒だからね?」
「だ、だって、私がいない方が……」
「ダメ、離さない」
ニアの顔にぎゅっと抱きつく。言わせないからね。
ひとりで逃げ回る人生なんてもうあり得ない。ボクにはニアが必要なの。
「でも、フォローするわけじゃなく、ニアちゃんも相当よ? さすが獣人、その歳で末恐ろしいよ。猫族の血がそれだけ濃けりゃ風の適性も絶対あるはずだから、頑張ろ」
やっとニアが顔を上げた。
「私も魔法使える……?」
「魔法はそう簡単じゃないけど、今に加えて魔力操作が出来るようになれば、あの男程度には負けなくなるよ」
「やる、やりたい、教えて」
「よーし、私がこの街にいる間に出来るように頑張ろっか」
「うん!」
「……ほう、面倒見のいい方じゃないお前がそこまで入れ込むか」
ダンデが口を挟む。そういやいたっけ。
「組合としちゃ助かるが、どういう吹き回しだ?」
「……過小評価ぁ」
「どういう意味だ」
「そのまんま。まあすぐにわかると思うよ」
「同じ猫族だとほっとけないよね、母性くすぐられちゃう。しかも全女の子憧れの的、妖精さんまでいるんだもの。ほっとけって方がムリ」
うん、確かにネケケさんの母性は豊満、間違いない。
「……」
ネケケさんの怪訝な視線。あ、なんかバレてる?
◇ ◇ ◇




