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第41話 厳戒態勢

 カンカン、カカカカカカン――

 カンカン、カカカカカカン――

 カンカン……


 街に警鐘が響き渡る。連打2回、早鐘6回は、「魔獣、災害級」を表すそう。

「ヤマウサギ1匹、銀貨1枚ね。警報が出たから以上で通常業務は縮小よ。それで、ニアちゃんはどうするの? ここの共同部屋が安全よ?」

 ダンデに獲物があるなら今のうちに納品しとけと言われ、ネケケさんに処理してもらってたところで、さっそく警報発令。

「うん、宿に戻る」

 共同部屋は賑わうそうだけど、それじゃボクはずっと隠れてなきゃいけないもんね。

「外出禁止じゃないけど、気を付けてね? 魔獣対策に人を割くぶん、治安も悪くなるから」

「こういうのよくある?」

「よくってわけじゃないけど、ここは周りが山だから数年に一度くらいはあるわね。ここのところは街の中にまで被害が出たことはないけど、オルキヌスウルフは昔被害が出てるの。新しい若いツガイが出来ると、狩場を求めて街に近付くことがあると言われてるわ。本来は人間の集落を襲うと必ず狩られてしまうのを理解してるくらいに賢い魔獣なんだけど、若者が無謀なのは人も魔獣も同じね」


 ◇ ◇ ◇


「A級さんかあ、強いんだろうね」

「うん、会ってみたい」

 宿に向かいながらニアと話す。今ちょうどA級冒険者が街にいて、討伐に参加するんだそう。猫族の女性で、ネケケさんと旧知の仲なんだとか。彼女がいるから魔獣のことはまず安心していいって――

 うん?

 なんか背後から見られてるような――?

 でも、気配を探ってもはっきりしない。まるでオルキヌスウルフの時と同じような――。まさかもう街の中に? いや、そんなはずないか。あんな巨大な魔獣がいたら大騒ぎだよ。

 よくよく気配を探っても、やっぱり特に何もない。

「フェイ?」

「ううん、なんでもない。ちょっと心配しすぎちゃったみたい」

 やっぱり気のせいだよね。オルキヌスウルフの事が忘れられないのかな。


 ◇ ◇ ◇


 ニアはベッドにうつ伏せに寝転んで肘をつき、枕元に本を広げてる。泉で買ったシロンのマンガ本。もう何回読んだだろう。

 ボクもニアの腕の間でニアの手に身体を預けて、一緒に読んでる。

 ニアは右手でページをめくりながら、左手に収まったボクの背中を指で撫でる。ニアの手に優しく握られているのはとても心地がいい。

『ファーリーチェーンジ!』

 マンガの主人公、狼獣人のマキが、お供の妖精を咥えて変身する。ほら、忍者がニンニンドロンと変化の術で巻物咥えるみたいな感じ。

 うゆっ?

 ニアの手がきゅっとボクを握る。振り返ってニアを見上げると、ボクを見てにまっと笑い、かぱっと開いた口が迫ってくる。

 ああ、また――

 かぷっとボクのおなかを横から咥えると、はむはむと甘噛みしてもて遊ぶ。甘噛みと言っても牙が立つから結構痛いんだけどぉ……ふにゃああ……

 ――トントン

 ドアがノックされた。

 ――あだだだ。思わずなのか、ドアに振り向いたニアの顎に少し力が入り、ボクは痛みに身を捩る。

「――ごめん」

 ニアはボクを解放した。ボクはちょっとだけ恨みがましい目でニアと目を合わせる。ドアの外は宿の女将さんだね。ニアがベッドから立ち上がると、ボクはニアの胸元に滑り込んだ。


「冒険者組合から呼び出しだって男が訪ねて来てるけど、心当たりはあるかい?」

「……あるようなないような?」

 ニアは眉間に皺を寄せて小首を傾げる。

「そうかい……まあ行って話を聞いとくれ」

 何だろう? 今さらニアに出来ることなんてないと思うけど。

 女将さんと一緒に宿のカウンターまで降りて行くと、男が待っていた。どこか間抜けそうな大男。

 トントントン

 ボクはニアの胸を叩いて合図する。ヤバい。この男はヤバい。

「おまえがニアか。支部長がお呼びだ。一緒に来い」

 嘘だ。平静を装ってるけど、ニアを見るその目は下卑た色に染まっている。ニアに向ける意識は陵辱の欲望を隠しもしてない。

 ニアの身震いがボクにも伝わる。ニアがボクを抱くようにして胸に手を当てた。ボクは意図を理解する。

「――わかった」

 ついて行くフリをして逃げ出そう。こいつが組合に行くはずがない。組合に逃げ込むのが安全だ。


 ・ ・ ・


「こっちだ」

 宿を出る。夜。通りに人の姿はない。

 男はニアの手を引くかのように手を伸ばしてきた。もちろんニアは手なんて出さないけど、男の手はそのままニアの二の腕を掴もうと伸びる。

 ふいっと身を躱してニアはそのまま駆け出した。

「あっ、こら、待てっ!」

 男が慌てて追ってくるけど、ドタバタと走るその足は速くない。これならラクに逃げ切れそう。

 ――と思ったら、行く手にもうひとり、ヒョロっとした男が姿を現した。

 ボクはニアの胸にしがみつく。ヤバい。この男は別の意味でもっとヤバい。こいつ、気配がわからなかった。そして今、姿を現したこいつの気配には覚えがある。ボクが豚の手下に売られるとき、あっという間に3人を手にかけたあいつだ。

「また会ったな猫娘」

「あのときの……」

 ニアも覚えがあるらしい。――そうか、囮になったときか。

「豚は地獄に落ちた」

 ニアが油断なく男を睨む。

「狸も処刑されたそうだな。ククッ、俺はそんなドジは踏まねえ。今回はヒモも付いてないもんなぁ」

 男の口元が吊り上がる。

「――っ」

 ニアが表情を消す。まずい。相手は数枚上だ。逃げ道を――

 ――!?

 身体が動かない!? 麻痺だ! いつの間に!?

 何事もないかのように男が近寄ってくる。

 ニアは動けない。ニアの胸に隠れてるボクも一緒に麻痺していた。

 男は大きな麻袋を取り出すと、ニアの身体を丸めるようにして突っ込み、軽く担ぐ。

 動けないニアは全く抵抗できなかった。

 そこにドタバタと大男が追い付いてくる。

「アニキ、アイツは!?」

「コレだ。行くぞ」

「お……ぐへへ、さすがアニキ。なあ、オラもそれ使っていいだろ?」

「ここを出てからだ。まったく、ガキなんて何がいいんだか……」

 まずい……なんとかして逃げ出さないと、またあの豚の時と同じことに……。


 ◇ ◇ ◇


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