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第40話 鯱狼

 ヒュンッ――ドスッ

「当たった!」

 ニアが歓声を上げた。

 弓の音に反応して逃げ出そうとしたヤマウサギ。その後脚の付け根に矢が突き立った。バランスを崩して倒れ込み片足で懸命に空を蹴るウサギに駆け寄り、ニアは短剣でその首を切った。動かなくなったウサギを逆さにぶら下げて血を抜き、収納に仕舞う。

「やったね、ニア」

「うん!」

 初の獲物に笑顔が浮かぶ。いやあ、意外と苦労したよね。


 セリスと別れてシロンやジョバンと会った日から、今日で1週間。

 ニアは依頼を受けるよりも、狩りにこだわった。

 まず武器屋を再訪してあの無愛想なおっさんに狩りの相談をした。――ニア、勇気あるよなあ、ボクはあの人怖いんだけど。


 ~ ~ ~

「小動物なら罠でもいいが、それを専門にするつもりはないんだろう? ならこっちを使え」

 おっさんはニアに弓を持たせた。

「引いてみろ。放すなよ。引けるか?」

「――うん」

「こう持って、こう引いて、放す。そうしないと弦で怪我をする。練習しろ」

 ~ ~ ~


 組合の練習場には弓の練習用の的があった。

 3日ほど練習するとそれなりに様になってきたんで、狩りに出てみた。

 結果は散々。動かない的に当たっても、素早い小動物に狙いをつけられなかった。

 また3日ほど、今度は素早く狙いをつける練習をして、今日の狩り。3匹目にして、やっと、ようやく、矢が当たったんだ。セリスとの冒険を挟んで、最初の狩りから3週間近く。やっと冒険者としてスタートを切れた。――先にそれ以上の体験しちゃったけどね。


 ・ ・ ・


「ニア、誰か来る」

 奥の方から山道を降りてくる。気配を探ると……3人パーティの冒険者かな。

 ボクらは以前ロアグリズリーに遭遇したのを警戒して、なるべく山の浅いところしか入らないようにしてる。このあたりは彼らにとってはもう山を出たも同然だろう、周りを警戒する様子もなく歩いてくる。

 あっちの力量もわからないし、変に隠れていて警戒されるのは厄介かもしれない。

「ニア、道に出て姿を見せよう――えっ!?」

 何か――気配が読めないけど、もの凄くヤバい何かが山の奥からかなりの勢いで迫ってくる。

「ニア、待った、動かないで!」

「? わかった」

 ボクはその気配に集中する。大きい……気がするんだけど、はっきりわからない。気配を隠蔽してる? よくわからないけど、彼らの背後に迫ってる。

 木と木の間の茂みに身を隠したニアとボクの視界に、3人の姿が遠く確認できた。

 そして、数瞬を置かずに現れた巨大なシルエットが重なったと思うと、一人の上半身が消えていた。

「――!?」

「――っ!」

 悲鳴と怒号。

 彼らはボクたちに背を向けた巨大な魔獣と対峙して剣を抜こうとした。でも、踵を返した魔獣がもう一度飛び掛かる方が早かった。

「~~ぁぁぁ!」

 ボリリッ、ゴリッ

 魔獣が口にくわえた一人を無造作に噛み砕く。骨が砕ける音と断末魔がここまで届く。

 最後の一人は道の横の木の幹に大きな赤い花を咲かせて、すでに息絶えていた。

 巨大な狼型の魔獣だ。体長5mはありそう。身体は漆黒で、腹が鮮やかに白く、首から肩にかけて両側に大きなアーモンド形の白斑がある。この模様は、シャチだ。シャチそっくりだ。

 魔獣の視線が一瞬こっちに向いた。ニアが手に持つ弓を持ち上げようとする。

「ニア! ダメ!」

「あ……ぅ……」

 ボクはニアの腕に飛びついて全身で抑え込んだ。

 ニアはあまりの出来事に呆然としている。弓を向けようとしたのも無意識だったみたい。

 魔獣はちらりとこっちを見たけど、目の前の食事ほど興味を引かれなかったようだ。

 今なら逃げられる。だから敵意を向けちゃいけない。

「ニア、ゆっくり……ゆっくり離れよう」

「……う……うん」

 そっと、そーっと、後ずさる。

 魔獣は食事を続けながら、こっちにも意識は払ってる。でもそれだけだ。追ってくる意志は見えない。

 魔獣の視界から脱した。

 ニアの足がだんだん速くなる。いつしか全力で走っていた。

「ニア、大丈夫。追ってくる気配はなさそうだよ」

「はあ……はあ……はあ……」

 それでも、息を切らしながら、ニアは走るのを止めなかった。


 ◇ ◇ ◇


「オルキヌスウルフ……災害級だぞ、大ゴトだ」

 冒険者組合の受付でニアが魔獣のことを報告すると、すぐに支部長室に連れてこられた。

 ニアとボクが支部長のダンデにどんな魔獣か説明すると、ダンデの表情がみるみる渋くなった。

「街に危害が及ぶ恐れがある魔獣は災害級と呼ぶ。その中でもオルキヌスウルフは街の外壁を軽く越えてくるまずい相手だ。すぐに高位冒険者を集めて討伐隊を組まにゃならんな」

 ダンデは考えを巡らすと、立ち上がった。

「討伐隊はC級以上だ。ニア、フェイ、お前らは宿なりここなりに籠ってろ。表を出歩くのもなるべく控えた方がいい。じきに街にもそう通達が回る」


 ◇ ◇ ◇


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