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第38話 真実

「マンガの反響がもの凄いんだよ! いくら刷っても足りないんだ。フェイのおかげだよ!」

 例によって丸テーブルを囲むと、シロンは興奮気味だった。

「これ?」

 ニアがさっき買ってきた本を取り出す。

「ニアも買ってくれたんだ、ありがとう!」

 本当に嬉しそう。

「どうして妖精を噛むと大人になる? リーファ痛そう」

 ニアがマンガの内容に疑問をぶつける。

「それはまだ明かされてない秘密が……いや、言っちゃったら楽しみがなくなるからナイショ」

「むう。でもフェイ噛んでも変身しなかった」

「ぶっ……そ、それは……試したの?」

 シロンが噴き出してボクを見る。ボクは思わずプイっと顔を逸らした。なぜか赤面して耳まで熱い。

 上目遣いに視線だけでシロンの表情を伺うと、また目が合った。なぜかシロンの顔がどんどん赤くなっていく。

「ちょ……へ、ヘンな想像してない!?」

「いいい、いや、そんなことないよ!?」

 そんなボクとシロンをきょとんと見ているニア。

「ニアも! よい子はマネしちゃいけません!」

「むう。美味しいのに」

「う、うらやま……」

 キッ!

 シロンが何か言おうとするのを眼力で黙らせる。

「そんな! ことより! 今日は聞きたいことがあって来たの!」


 ・ ・ ・


「王宮の関わりか……そうだね、もっと正確に話そう。君たちにとっては身の振り方に関わる事だ。僕の推測も入ってるからね」


 ~ ~ ~


 泉の妖精フェイがミヤノで暮らしていた頃。

 ミヤノは泉のほとりの小さな村だった。

 妖精は村で気ままに暮らしていた。

 村を自由に飛び回ったり、手伝いをしていた子供たちを連れて遊び回ったり、村人の家に勝手に入り込んだり、作物を勝手に食べたり。

 それでも村人と妖精は仲が良かった。

 妖精の微々たる『被害』に怒る村人はいなかった。

 それには現実的な理由もあった。

 村人は身体を壊すと妖精に血をもらっていた。

 小さな布切れにわずかな血を付けてもらい、それを水に溶いて飲むと病によく効いた。

 そして、世界に蔓延した疫病は、そんな村をも飲み込んだ。

 ここまでは、断片的な記録を集めてわかったこと。

 そして、誰もが知る、おとぎ話。

 妖精は自ら泉に身を投げ、その生涯を閉じた――事になっている。

 おとぎ話以前の妖精に関する記録は断片的ながらも残っているのに、おとぎ話に関する記録はほとんど残っていない。

 まるで隠蔽されたかのように。

 唯一、逃げた妖精を捕えたという記録がかろうじて見つかった。

 それは、おとぎ話が偽りであることを示している。


 ~ ~ ~


「シロンは、どうして王宮が黒幕だと思うの?」

 ボクは率直に疑問をぶつけた。

「それは……確かに推測に過ぎない。物語で王宮が不自然に美化して描かれていることもあるけど、もうひとつ根拠があるんだ。今の憲法が制定されたのも時期が同じなんだよ。憲法が妖精を国民と定めていないのは知ってるよね」

「なるほど……。でもさ、それでも推測は推測のままだよね」

「そうだね」

「昔の王宮はミヤノの近くにあった?」

 ニアが疑問を挟んだ。ボクも勝手にそうだと思い込んでたけど……。

「いや、当時から王都は今のウジシャッコだよ」

「え……遠いよね?」

 ボクは違和感を確認する。

「ヒジュから1週間くらいだからそんなに遠くは……待てよ、当時は……」

「王都からミヤノの泉に身を投げるって不自然じゃない?」

「確かに……。今ならそんなに遠く感じないけど、当時はヒジュからの道も整備されてないし、南街道も今ほどは……」

「泉のフェイは最初から最後までミヤノを離れてないと考える方が自然じゃない?」

「そうか……そうすると誰が妖精を……」

「……ミヤノの村人しかいなくない?」

「いや、だって、ミヤノの村人は妖精と仲が良かったのは間違いなく……」

「でも、村人は妖精の血で病気が治るのを知ってたんだよね? ……それに、村人以外は知らなかったんじゃない?」

「ああ、確かに! そうか、知ってたら王宮は最初から動くはずだ! そんな、じゃあ……妖精は、仲が良かったはずの村人に捕えられ、挙句に殺されたと……」

 シロンが顔を蒼白にして呟いた。

「そんな……酷い……」


「逃げた妖精を捕まえた、その記録は当時のミヤノ村長の息子の日記と思われる断片なんだ……なんてことだ……」

 シロンは残酷な真実に打ちひしがれてる。泉の妖精への思い入れも大きいんだろうな。本人かもしれないボクが言うのもなんだけど。

「ねえ、こうは考えられない? 妖精への仕打ちはどうあれ、村人は国を救ったことになるよね。だから王宮は村人を庇ったんじゃないかな。妖精が国民ではないならば……『人』ではないならば、村人は罪に問われることはない。だから憲法をそう定めた、と」

「……ぐうっ。確かに、理屈は通る……」

 シロンはまだ信じたくないのか、唇を噛み締めていた。

 でも、ボクとしては……。

「そうだとすればだよ? 今、王宮がボクを狙う理由はないよね?」

 シロンがはっとしてボクを見る。

「……そうか! 確かにそうだ! すまない、僕は君たちに余計なことを吹き込んでいたことに……」

「いや、それはいいんだよ。シロンに聞かなきゃ全く何も知らなかったんだから」

「でも、僕の勝手な憶測で……」

「どっちにしろ隠れなきゃいけないのは変わらないから同じだよ。変態豚みたいなのいるし、美食家も怖かったし……」

 ボクはあの寒気を思い出して身震いする。

「え、いったいどんな目に……」

 バタン!

 そのとき、突然玄関がノックもなく開くと――

「シロン! 儲かりまっか!? ボチボチでんがな、ワハハハハ!」

 ボスことジョバンの陽気な声が響いた。


 ◇ ◇ ◇


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