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第28話 破壊神

 そこは安らぎであり、ボクの終着点。

 還りたいという、根源的な欲求。


『時ガ来タカ、アルイハ否カ。鍵ヨ、ソノ身ヲ捧ゲヨ』


 鍵、それがボクの存在する理由そのもの。

 同時に、ここがボクの還るところ。


(……! ……イ!)


 ……うん?


「フェイっ!!!」


 えっ、ニア?

 ボクは我に返った。


「フェイ、駄目!!! 逃げて、フェイ!」


 ……あ。

 夢から醒めたように、周りを見る。

 ボクは開いた破壊神の口の中にいた。

 無数に蠢く触手の中心にある肉の塊。目も鼻も顔もないそこに、口だけが開いていた。

 ぬめった赤い肉壁の洞穴の中。奥は狭くなって喉へと落ち込んでいる。

 歯は見当たらないけど、ボクがぺたんと座り込んでいる柔らかく湿った生温かい肉は、大きな舌の上だ。

 ボクは抗えない運命に導かれるように、自らここに来た。

 ――でも、ニアが呼んでる。ボクは振り返る。

 ニアはボクを引き戻そうとして、破壊神の触手に捕えられたんだった。

 ニアが泣いてる。ボクを呼んでる。心が痛む。

 破壊神の口が閉じていく。


「フェイ!! いやあああ……!!!」


 ニアが見えなくなる。ニアの絶叫が遠くなる。

 まるで部屋の天井が落ちてくるように肉壁が上から迫ってきて、圧倒的な質量に押し倒されて潰される。

 ぬめる柔らかい肉壁に上下から挟まれ、舌が蠢いてボクを喉奥に運ぶ。

 足の方から狭い肉の穴に落ち込んでいく。

 ボクの全身を絞るように締め上げながら、肉の穴がボクを奥へと押し込んでいく。


 ぐちゅん――


 やがてボクは肉の窪みに落ち込んだ。

 蠢くその肉は全面が触手で覆われていた。

 ボクの身体が触手に沈んでいく。

 触手は服の内側に入り込んで全身を包む。

 下半身から、口から鼻から、耳から目から、ありとあらゆるところから大小の触手が入ってくる。

 不思議と痛みも不快感も恐怖もない。

 ボクの意識の輪郭がぼやけて、破壊神の意識と融合した。


『我ト等シキ女神ノ子ヨ。女神ガ育テタ世界ヲ見セテオクレ』

 破壊神の意識がボクの記憶を呼び起こしていく。

 こっちの世界に生まれてからの出来事がフラッシュアニメのように再生されていく。

『……ナント、汝ハ生マレタバカリデハナイカ。アア、女神ノ御手ノ跡ガマダ新シイ』

 遠い昔を懐かしむような感情。

 破壊神とは。

 彼の記憶もまた、ボクに流れ込んでくる。

 彼もひとりの人格……転生者。

『世界ハ壮健ナノダナ。ソノ時ハマダ遠カロウ』

 破壊神は、その使命の時ではないと判断した。

 ――ボクは理解した。

 この世界は、地球世界という「成功例」を模倣して作られている。

 でも、地球世界ほど緻密でも大規模でもない。

 例えば、地球世界と違って星の外は「用意されていない」。

 例えば、面倒な物理法則は、魔法という「便利な理屈」で置き換えられている。

 そして、人類が育ちすぎて世界の範囲を逸脱しないよう、破壊神が用意されている。

 人類の手がそこに届きそうになったら、文明を破壊して世界を延命しなければならない。

 はみ出してしまったら、女神は世界を消さなければならないから。


『鍵ヨ。妖精ヨ。汝ハ役目ヲ果タシタ。ココデ輪廻ノ輪ニ還ルノガ本道ダガ、汝ノ意志ハ尊重サレル。コノママ留マルコトモ出来ル。選択セヨ』

 それでも、ボクはこの世界をもっと知りたい。

 ニアと一緒に。

『ヨカロウ。ソレハアルイハ辛イ道トナロウ。シカシ、先程カラ客人ガ汝ヲ返セト泣イテオル。我デハドウスルコトモ出来ヌノデ、助カル』

 ボクは鍵であり、破壊神の目でもある。

 その「役目」から解放されることよりも、それを負うことを選んだ。

 ――だって、要は好きに生きてりゃいいってことでしょ?

『汝ガソウ思ウノナラ、ソレデ良イ。気ガ変ワッタラマタ来ルガイイ』


 融合していた破壊神の意識が分離する。

 身体中から触手が離れていく。

 触手がボクを運び、再び肉の穴を通って口に戻ってきた。

 ボクは開いた口から飛び出す。

「うあああああ、ああああ……」

 ニアは床に伏して、声を上げて泣いていた。

「ニア!」

「……フェイ!?」

 ボクの声にニアがガバっと身を起こす。

 その胸にボクは勢いよく飛び込んだ。

「フェイ! フェイ! 無事なの!?」

「ニア! ニア!」

 ボクも涙があふれて、ニアの名を呼ぶのが精一杯。

「フェイ……よかった」

 ニアがボクをぎゅっときつく抱きしめる。

 ……破壊神の中より苦しいよ。


 ニアがボクを抱いて、未だ呆然としているセリスに歩み寄る。

 すると、3人をまた転移の光が包んだ。


『マタ会オウゾ、友ヨ』


 友達認定かよ!?

 垣間見えた彼の前世は敬虔な神官だったようだ。

 ――ボクより貧乏クジが酷くね?


 ◇ ◇ ◇


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