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第21話 マンガ

「やあ、ニア! よく来てくれたね。フェイも一緒かい?」

 シロンが大歓迎で出迎えてくれた。

「やあ」

 僕もニアの胸元から顔を出す。

「君たちに、ぜひ見て欲しいと思ってたんだ! ちょっと待ってて!」

 シロンはバタバタと奥に入っていった。

 ニアはまた丸テーブルの椅子によじ登って腰かける。

 ボクはふわっとニアの肩に座る。

「ほら、見てよ! フェイに教わったマンガってのを描いたんだよ! もう楽しくて楽しくて!」

 シロンが原稿の束を持ってきて机にバサッと置く。

 ええ、もう単行本1冊分くらいあるんじゃない?

 3日しか経ってないよ!?

 ニアが手に取って読み始めた。ボクも横から覗き込む。

 ――――。

 4コマ漫画の連作。

 妖精をお供に連れた獣人冒険者。

 妖精をひと噛みするとパワーアップして大人に変身、勧善懲悪ヒロインに!

 ホントは女の子なのに普段は男の子として振る舞ってて。

 なんかいろんな趣味が入りすぎな気もするけど…………面白い!

 獣人と妖精ってとこが引っかかるけど、まあ両オタクのシロンだし仕方ないか。

 ボクらとは似ても似つかないキャラだしね。


「……ん?」

 ボクはささっとニアの胸元に逃げ込む。

 誰か来たみたい。

「おいシロン、おるか?」

 やって来たのは、少し丸っこく恰幅のいい、人あたりの良さそうな半獣人さん。これで虎族なんだ。

「やあ、ボス。いらっしゃい」

 シロンが出迎える。

「うん? 来客とはめずら……おいシロン、お前まさか……」

「何もしてないよ! ねえニア!」

「?」

「ニアちゃんか。コイツにヘンなことされてへん?」

「ヘン? 何?」

「いや、ないならええんよ、気にせんといて」


「こちら、絵の取引をお任せしてる、ジョバンさん。お世話になってる絵描きが多くて、みんなボスって呼んでる」

「よろしゅう」

「で、こちらがニアちゃん。先日、例によって泉で知り合ったんだ」

「よろしく」


「ニアちゃん、ちょいとシロンと大人の話があるねん。ちょいとコイツ借りてもええか?」

「ん。じゃあ、これ読んでる」

 ニアはマンガの束を抱えて部屋の隅へ。

「すまんな……でな、シロン、お得意さんのガフベデ男爵のことなんやけどな」

 えっ……そうか、あの本があるくらいだもの、得意先なのか。

 ニアはマンガに夢中だけど、ボクはそっちが気になって耳を傾ける。

「あの人、やらかしてもうてな。もうアカンのよ、奴隷落ちや」

「ええっ? そんな、どういう……」

「よりにもよって人身売買や、しかも獣人の子供を手籠めにしてしもたと。……あの本の通りに」

「…………なんて……ことを……」

 シロンの顔が蒼白になる。そして、はっとしてこっちを、ニアを見る。

「……まさか……いや、そうか、そういう事か」

「なんやて、あの子がそうなんか?」

「そう……だと思う……」

「さすがに本人には聞かれへんか……」

「…………」

「そんでなシロン、当然あの本も見つかるやろう。ジブンもタダではすまんぞ」

「……ああ。僕のせいでもあるなら、償わなきゃいけない。ニアを……そんな目に……」

 ちょっとちょっと、ボクのときと反応違わない!?

「それにな、これがいちばん堪えるやろうけど、今度の妖精探索行も諦めなはれ」

「ああ。それはどっちにしろ、もうやめるつもりでいたんだ」

 シロンはそこだけはどこか朗らかに答えた。

「うん? どういう風の吹き回しや? ……そうか、妖精に会えたんか」

「えっ、いや、その……な、なん……」

 シロン、その反応はバレバレすぎだろ……あーあ……。

「やっぱりか。ジブンの妖精狂いがそうそう治るわけあれへん。それにな、昨日このへんで妖精目撃の噂が立ってな。ジブンが会ってても不思議やないわ。まあよかったやん、夢叶ったな」

「ええ……驚かない?」

「妖精いようがいまいが俺はどうでもええねん。俺が大事なのは、絵描きが好きに絵が描けて、それが売れて、食えることだけや」


「悪いのは空想と現実を混同した豚であって、空想は自由であるべきだと思うな。シロンは悪くないよ」

 ボクは我慢できずに口を挟んでしまった。

「ほう? 俺以外にその考え方する奴とは初めて会うたわ」

 ボクは二人の方に飛んで行き、机にふわりと舞い降りてジョバンに向き合う。

「……ホントに驚かないんだ?」

「驚いてんで。つまりシロンのあの本を見た当の妖精がそれ言うてるってコトやんな? 仰天や」

「そっちかよ。まあいいけど。それに、シロンの本はきれいさっぱり消去してきたから心配ないよ。支部長も不明だって言ってたし」

「えっ、ホントに!? ……た、助かったあ……でも、フェイにも、ニアにも、僕のせいで酷いことを……」

「だから、ボクはシロンのせいとは思ってないよ。ゾーニングの問題だよ」

「シロン悪くない。ブタにはやり返したから問題ない」

 ボクに付いてこっちに来ていたニアも言う。単に良い人悪い奴で分けてるだけな気もするけど。

「ほ、ホントかい……ありがとう……」

 シロンが深々と頭を下げる。お礼を言われる話でもないんだけどな。


「でもさ、食っていきたいなら、危ない相手に危ないもの売らなくても、これ刷ってフツーに売りゃいいじゃん」

 ボクはニアが持ってるマンガの原稿を指差す。

「さっきから気になっとったけど、何やそれ?」

「マンガだよ。ボクがちょっと教えただけで、シロンがこんなに描いちゃったんだ」

「ちょい見してみ」

「ん」

 ニアが束を渡す。

「ほお……何やこれ、おもろいやん、印刷で刷れるやん。千も刷れば1シル以下で、いやもっと……売れる、売れるでこれは!」

 ジョバンが立ち上がる。

「こうしちゃいられへん、すぐ印刷所を押さえんと。シロン、これどんどん描きや! いや、他の奴らにも描かせよ! 忙しくなるで! ほならな、フェイ、おおきにな!」


 ◇ ◇ ◇


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