009 牢の中にはラシューリ伯爵?
見張りの男とオダマの話している内容をセンサーで聞き取る前にY.U.K.Iから言われた。
『マスター。牢の中の人物を確認してください』
牢の中に居るのは……
ラシューリ伯爵!?!?
なんでこんなところにラシューリ伯爵が囚われてるんだよ!
今朝会ったばかりだぞ?
「ん?誰だ?」
驚いたさいに物音を立ててしまい、俺がいることがバレてしまった。
仕方がない。
ワイスフェイドオプティクスを解除して言う。
「貴様達悪人に名乗る名前は無い!とうっ!」
俺はジャンプし、見張りの男の顔に飛び蹴りを食らわす。
「ぐわっ!!……」
「な、何だ貴様はっ?」
魔法使いオダマが慌てている。
「闇の策略、背徳の陰謀!しかし、終止符を打つ者が現れん!正義の刃で闇を切り開く!異世界よりの使者、ブレードワイス見参!」
「いや、名前言ってる……」
牢の中のラシューリ伯爵が何か呟いたが気にしない。
「さあ、観念しろ悪党ども!もう逃げ場はないぞ!」
「お…の…れ……」
そう言うと、男は体を震えさせ体がぼんやりと光りだした。
体が二回りも多きくなり、筋肉ははち切れんばかりに膨張し、着ていた服を破り捨て、尻尾が生える。
瞳は赤く変色し、牙が生え、角が生え、爪が伸びていく。
そして、体中に鱗のような物が浮き出て来た。
まるで、ドラゴンのように……。
『マスター。魔族の男が魔人化しました。龍種の魔物の血を飲んだと推測します。現在、魔人としての能力は未知数ですが、戦闘力は高いと推測されます』
「俺は、俺は違うんだーっ!」
魔法使いオダマの方は逃げ出した。
違うって何だ?
まぁ、逃げたところでセンサーでいつでも探せる。
今はラシューリ伯爵と目の前の魔人だ。
「君!何者か知らないが逃げなさい!私の事はいいっ!」
ラシューリ伯爵が叫んでる。
「大丈夫です!安心して下さい!貴方を助けに来ました。」
「何?私を?」
魔人が凄まじい形相で襲いかかってきた。
「させんっ!!ブレード・バーニング・ナックル!」
ドガァーーンッ!!と轟音とともに魔人を吹っ飛ばした。
そのまま壁にめり込んでいる。
ラシューリ伯爵は目を丸くしている。
「こ、これは一体どういうことなんだ!?君は人間なのか?」
「ガアアアアァァァァァッッ!」
壁から叫び声が聞こえてきた。
そして、ゆっくりと魔人が起き上がる。
俺は牢を力ずくでこじ開ける。
鉄格子の2本を握り左右にグニャリと曲げた。
「ラシューリ伯爵、ここから早く避難してください。ここは危険です」
「分かった。ありがとう。私は逃げることにする。だが、屋敷には私の偽物がいる。どこかで落ち合えるか?」
「分かりました。必ず見つけます。」
「頼む。では、気をつけて。」
「はいっ!また後ほど。」
ラシューリ伯爵は逃げていってくれた。
そして、再び魔人と向き合う。
どうやら、ダメージは少ないようだ。
怒り狂っている。
目が血走り、口からはヨダレが垂れている。
こちらに向かって突進してきた。
伸びた爪を突き刺そうと貫手で攻撃してくる。
「グワアアアアッ!」
「遅い!」
軽々と避ける。
「ブレード・ライジング・インパクト!!」
バキィィーンッ!!!
雷を宿した拳で殴りつける。魔人は床に倒れ込んだ。
「グルルゥ……」
「まだ、生きてるか。」
魔人は床に落ちている大剣を拾った。
魔人化する前に男が背負っていた2メート以上の大剣だ。
普通の人間が使うには重すぎて使えないだろう。
力のある冒険者でも、両手で使うような大剣。
魔人はその大剣を片手で軽々と振り回して攻撃してくる。
凄いパワーだな。
だが、俺は魔人の横薙ぎの大剣攻撃を左手で受け止めた。
魔人は驚きの表情を見せる。
パワー負けはしてないようだ。
「ブレード・ストロング・ソバット!」
魔人の大剣攻撃の力を利用して後ろ回し蹴り!
ドゴーーーン!とまたも壁に打ち付けられた魔人。
魔人は立ち上がるが足元はふらついている。
今がチャンス!
「ソーラーブレイド!」
『ソーラーブレイドを可動します。エネルギーチャージ完了しました』
左腰のソーラーブレイドを抜く。
テテテテ♩テテテテ♩テテテテ♩テテテテ♩
いつも通り、ソーラーブレイドを抜くと体から音楽が流れる。
俺はソーラーブレイドを構え魔人に斬りかかる。
魔人も攻撃してくるが動きが鈍く簡単に避けれる。
「ブレイド・ストライク!」
一刀両断。
「グアアアアアアアアアアーーッ!」
魔人は爆発して跡形もなく消え去った。
『マスター。お疲れ様でした。ミッションクリアです』
「よし、終わったな。」
俺はラシューリ伯爵を探すことにした。
ラシューリ伯爵は無事だろうか。
とりあえず、センサーを使って調べてみる。
「おっ!反応があったぞ。」
外の森の辺りにいる。
「森の中は魔物が多い!急ごう!」
急いでラシューリ伯爵の元へ向かった。
俺はラシューリ伯爵と合流した後、抱えて飛んでガベラの所に戻ってきた。
「え?ラシューリ伯爵?」
「詳しい話は伯爵から聞いてくれ。では、さらばだ」
そう言って俺は飛び立った。
「秘密にしてる理由は何なのかしら…」
飛び際にセンカが何か言ってた気がしたが、よく聞こえなかった。
センサーで魔法使いオダマの位置を探る。
まだ、伯爵の屋敷の魔法研究室には行っていない。
かなり離れた場所にいるのですぐには屋敷には戻れないだろう。
俺は変身を解いて一度集会の見張りの定位置に戻る。
なお、集会の結果は僅差でセンカが優勝だったようだ。
「センカ!優勝おめでとう!」
センカの元に行き茶化す。
センカは頭を抱えて悩んでいた。
集会とクーデターは関係ないようなので、場所を移す事にした。
ラシューリ伯爵に変装してもらい、カフェでお茶を飲みながら話をする。
ラシューリ伯爵はガベラ達が冒険者を探す旅に出た直後に拉致されて偽物とすり替えられたらしい。
クーデターは伯爵領を乗っ取り、国を乗っ取るつもりのようだ。
ちょっと計画が浅はかな気もするが……。
「正直、信じられません。お屋敷にいる伯爵が偽物なんて……でも、今目の前にいるラシューリ伯爵が本物なのは間違いないです」
「監禁されてたところを、謎のヒーローに助けられたという事ですね。拉致したのはどんな奴らですか?」
ガベラに続きレスナがラシューリ伯爵に聞く。
「それが分からない。気がついたら牢屋に閉じ込められていた」
オダマではないのか?
偽物のラシューリ伯爵がオダマは信用できると言ってたわけだが、偽物はどう考えてもクーデター側。
牢の小屋にいたのだからオダマは黒だろう。
だが、本物のラシューリ伯爵も、オダマは考え難いと言う。
確かに、あの小心そうな男がクーデターを企むとは考え難い。
そういう事なら合点も行が…
「とにかく屋敷の偽物を捕まえよう。皆、ラシューリ伯爵と一緒に屋敷に向かって欲しい」
「その言い方、エーデルは別行動するつもり?」
レニューが俺を見て言った。
「ああ、ちょっと気にな事がある」
「ふぅー」と溜息をついてアリウムが言う。
「しょうがない。屋敷に向かうか」
「待て、転生者とは聞いたが彼は子供だぞ。1人で行動するのは無謀だ」
ラシューリ伯爵が止めに入る。
「エーデルなら大丈夫です。このままでも私達より強いですし」
レスナが言った。
このままでも?
まるで俺が変身できるのを知っているような口ぶりだった。
渋々ラシューリ伯爵は納得してくれた。
皆は屋敷に向かい移動を開始した。
ブレードワイスに変身してオダマを探す。
センサーでキャッチする。
やはり屋敷とは違う場所にいる。
反応は2つある。
『マスター。不可解な現象をキャッチしたため不確定情報をお伝えしかねます。現場で確認してください。1つの生命反応が弱まっているのは確かです』
1つの生命反応が弱まっている?
死にそうということか!
何が起きているんだ!?
قەھرىمان
俺はオダマの反応に近づいて行く。
辿り着いたのは何かの施設。
中に入ると作りは魔法研究室に似ている。
『マスター。おそらく魔法研究室の別施設と思われます』
オダマが言っていた別の施設ってこれか?
部屋の奥に行くと人がいる。
倒れている男……
『マスター。男は死亡しています!』
急いで駆け寄り脈を取る。
確かに死んでいるようだ。
死んでいる……
オダマが……
「死んでるだとっ!? どういうことだっ!?」