008 魔法使いオダマを追いかけろ!
この魔族の国パラクーパにギルドは無い。
ギルドとは組合の事であり、冒険者ギルド・商人ギルド・職人ギルド等が存在する。
ギルドは国を超えた組織で世界国際連盟が統括している。
だが、世界国際連盟は人間の組織であり魔族の国は加盟できない。
ギルドが無いので冒険者としてのクエストも受けられない。
俺達はラシューリ伯爵の依頼を直接受ける形になっている。
もちろん、クーデターを阻止して伯爵の助力になる事が第一目的なのだが、他の依頼をこなし目的のカモフラージュをする意味合いもある。
今日は森の中の洞窟にいる魔物討伐依頼を受けた。
魔物といってもゴブリン等の弱いものではない。
強力な魔物オーガである。
オーガ1体の討伐にB級〜C級の冒険者が3人ほど必要といった難易度である。
さらにオーガは個体差が激しいので実際はもっと難易度が高い。
更に群れる魔物で何匹いるか分からない。
不確定な強さも相まってオーガ討伐クエストは危険度が非常に高いのだ。
トカゲの尻尾切りならぬオーガの騙し切りという冒険者の業界用語があるらしい。
オーガの討伐に行かせてその冒険者達を始末するという非道極まりない事象だ。
そんなオーガの討伐だが、アリウムパーティは実質A級パーティだし、俺もついてるから問題無いだろう。
「あれ?地図はここで間違い無いけど、洞窟なんて見当たらないぞ?」
ネモアが言った。
地図は魔法使いのオダマに目の前で指定地点を書き込んで貰い渡された。
岩山の麓は木が無く開けた場所になっていて見通しはいい。
周りを見渡しても洞窟らしきものは見えない。
魔法研究室の室長で魔法使いのオダマ……
俺達を騙すという事はあるだろうか?
そんな理由があるか?
もしや、クーデター側の魔族?
いや、あの昭和の無能中間管理職臭のするオダマにそんな大それた事ができるとは思えない。
「何か嫌な感じがする。気を引き締めて」
レニューがそう言って皆に注意を促したその時だった。
「グォーッ!!」
突然森の中から巨大なオーガが数十体現れ襲いかかって来た。
「ヤバいっ!全員戦闘態勢っ!!」
アリウムの声で全員が臨戦体制に入った。
目の前に現れたオーガは2m50cmほどあり、普通のオーガよりかなり大きい。
更に武器を持っている。
石の斧だが、知能の低いオーガが何故持っているのだろう。
「ブホオッーー!!」
一体のオーガが奇声を上げて吹っ飛んでいった。
ネモアがハンマーで殴り飛ばしたのだ。
ネモアの斧は刃の反対側が打撃用のハンマーになっており、その部分を使ったようだ。
「動脈は切るなよ!誤って血を飲んだら大変な事になる!」
アリウムは言いながら剣を振るい次々と斬り伏せていく。
優しくてリーダー役のアリウムだが、暗黒騎士という似つかわしくないジョブのせいか戦闘中は悪人顔。
薄ら笑いをしながらグレートソードを振り回す姿はかなり怖い。
顔を覆う兜を着けた方が良かったのではないだろうか。
魔物の返り血を浴びずに済むし今度提案しよう。
というかミスリルの武器を持った皆の強さにビックリだ。
パラディンのセンカはオーガ達を引きつけつつ、攻撃をかわし反撃をしている。
剣士のレスナは軽いミスリルソードと相性がいいのか、軽やかな動きでオーガを切り刻んでいく。
そしてレニュー、巫女のスキル鼓舞を使い皆の強化を行っている。
チームワークもいい。
これは凄いパーティになるな。
俺はというと、素のままでオーガ10体ほど倒しているのだが。
一応俺もミスリルソードを買って貰ったのだけど、使う必要も無いし、何か勿体ない気がして腰の飾りと化している。
「何とか片付いたかな。でも、洞窟じゃなかったけど、このオーガ達で依頼はいいのかな?」
アリウムが疑問を口にする。
確かに、依頼はこの辺りにある洞窟の中のオーガを討伐する事だった。
だが、指定の場所に洞窟は見当たらないし、オーガだけが現れた。
「とりあえず、オーガの角を回収してから洞窟探してみよう」
俺の提案に他の仲間も同意してくれた。
قەھرىمان
結局、洞窟は見つからず伯爵の屋敷に戻ってきた。
「何?洞窟が無かった?」
報告を受けた伯爵が驚いている。
「はい。森の奥にオーガの群れがいたのですが、そこには洞窟はありませんでした」
「そうなのか……。オダマ、どういう事だ?」
ラシューリ伯爵は魔法使いオダマを問い詰める。
「すいません。地図は私の部下が書きました。室長の私の責任です。申し訳ありません。私の知る限りでは、この辺に洞窟は無いはずなのですが……」
うおおおっ!マジかこいつ!地図に指定ポイントを書いたのはお前だろ! 責任転嫁もいいところだよ。
こんな奴が上司だと部下も大変だろう。
قەھرىمان
今日はクーデター側の集会がある。
場所は町の広場。
クーデター側の人間が集って何を話すのだろう。
というか、クーデターを起こそうとしている奴らが、こんな人目につく広場で集会して良いのだろうか。
俺達は物影から様子を伺っている。
アリウムとネモアとスノーク。
レスナとレニュー。
センカとガベラ。
俺は単独。
四方から観察している。
魔族の3人、ガベラ・スノーク・カミールも俺との修行で結構強くなったのだが、アリウムパーティに比べるとまだ見劣りする。
安全を考えて配置を考えた。
アリウムとネモアと一緒ならスノークは安全だろうし、守備力の高いセンカとガベラがタッグを組むのも安全度が増すだろう。
さすがに8歳のカミールはお留守番である。
あ、誰か出てきた。
あれは……。
ロリコン親父!?
「皆!よく集まってくれた!皆も知っての通り、先日からこの伯爵領に人族の者達が出入りしている!」
大声で叫んでいる。
周りには、沢山の人達がいる。
あのロリコン親父、クーデター側の者だったのか!
やはり俺のヒーローの勘が正しかったか!
「特に、この3人!」
男は3枚の紙を取り出し広げた。
うおっ?
レスナ、レニュー、センカの3人の似顔絵が描いてある。
そっくりだ!
ひょっとしてジョブに《似顔絵師》とかあるのかな?
「さぁっ!誰が一番可愛いか決めようじゃないかっ!」
えーーーーっ!! なんだそりゃ?
物影で隠れて見てるレスナ、レニュー、センカも豪快にズッコけている。
あぁ、3列になって投票してるよ。
っていうか、そんな事でわざわざ集めたのか?
「……」
まて、この集会の情報は伯爵家の諜報機関がつかんだものだ。
諜報機関がポンコツだった?
諜報機関が騙された?
いや、まさか……
「チェンジ・ブレード」
『マスター。集会所周辺に伯爵側の人物は我々しかいません。他にも諜報部員や隠密を忍ばせるのが妥当なはずです』
どういう事だ?
集会の情報をガベラに提供したのは……。
あの魔法使いオダマだ!!
くそっ! そういうことか。
あいつは、最初からクーデター側なのか。
『マスター。謀であれば、敵襲の可能性、もしくはこちらの動きを封じて何か策動している可能性があります。この集会で敵襲の可能性は低いと思われるため策動の線が強いと思われます』
ブレードワイスのセンサーは半径50キロだ!
魔法使いオダマ!お前の事はここからでもサーチできるぞ!
『マスター。魔法使いオダマの反応を捕捉しました』
見つけたぞ!
屋敷ではない。別の場所だ。
ここは皆に任せて俺は魔法使いオダマの所にいく。
قەھرىمان
伯爵の屋敷から少し離れた森の中。
探知した場所は、森の奥深くにある小屋。
中に3人の生体反応がある。
姿を消して建物の中に入ってみると、地下への階段があり、その先に部屋があった。
牢があり、1人閉じ込められている。
他に男が2人いる。
1人は魔法使いオダマだ。
何か言い争いをしているように見える。
オダマがもう1人の男に杖を構えてねちっこく絡んでいるようだ。
また部下にパワハラでもしてるのだろうか。