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異世界行っても変身ヒーロー  作者: 謎の小顔整体師
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007 魔法研究室

 3人は外に出てスラムの奥に歩いていった。

 だが、俺は気になり、建物内を探索する。

 この部屋の壁、どう考えても隠し部屋がある。

 だってこの壁の位置、建物の真ん中なんだぜ。

 普通に考えればおかしいだろ。

 反対側に入口があるわけでもない。

 こんなバレバレの作りなのに、誰も気がつかないなんてあり得るのだろうか?

 ネモア達は気づかず去って行ったが……。


『マスター。音の反響を利用して空間認識が可能です』


 なるほど。

 壁をコンコンと叩いてみた。

 センサーで音を追う。

 やっぱり空洞になっている。


 面倒臭いからブチ破るか?

 あ、誰か来た!

 俺の後ろから魔族の男がやって来た。

 姿を消しているため気付かれることはない。

 魔族は俺の目の前を通り過ぎ、床に手を伸ばすと床の隠し蓋が開いた。


 俺も魔族の横で覗く。

 うおっ?10キーボタンじゃん。

 何でこんな科学的な代物がこの世界に……。


 魔族の男は4桁の番号を入力した。


 何も起きない…


 魔族の男は首を傾げている。


 もう一度4桁の番号を入れてみるがやはり何も起こらない。


 首を傾げている。


 まさか4桁の暗証番号を忘れたんじゃないだろうな……


『マスター。10キーボタンは機械のようです。マスターが触れれば解明可能と思われます。邪魔なのでこの男を始末しますか?』


 いやいや、それはまずいだろ。

 ここは大人しく見守ろう。


 魔族の男が5回程入力すると壁が動き出した。

 おお、やっと動いたよ。

 暗証番号忘れるなよ。


 隠し部屋に入ると階段が下に向かって伸びていた。

 降りてみるとそこには広い空間があった。

 かなり大きい。

 天井までの高さが20メートル位ある。

 そして中央には台座があり、その上に何か沢山置いてある。


 何だあれ?


 ワイスフェイドオプティクスを掛けた状態で、近付いて行く。


『マスター。これは心臓です。全部で50個あります。強烈なエネルギーを感じます。しかるべき施設で研究する事を推奨いたします。邪魔なのでこの男を始末しますか?』


 Y.U.K.Iの目的の為の論理的判断は倫理観より優先されてしまう。


 魔族の男は心臓を一つ持って出て行った。

 このまま男を追うか?

 男が外に出てから心臓を調べるか?


『ブレードワイスのセンサー有効範囲は50キロメートルです。男の追跡は多少時間をロスしても問題ありません。心臓に接触することをお勧め致します』


 心臓を一つ手に持ってみた。

 動いている。

 禍々しい色をしている。

 スゲー気持ち悪い。


『マスター。気持ち悪いという感情は、病原体や有害な物質を避けるための生存戦略として進化してきました。しかし、マスターはこの世界において物理的な危険や病気を避ける必要はごく僅かと考えます。よって心臓に対して感情を持つことは必要ありません』


 そう言われてもねぇ。

 触ってみると硬いけど弾力がある。

 ゴムみたいにグニョッとしていて、生暖かい。

 渋々袋に入れた。


 そして、男の捜索を始めた。

 だが、センサーを最大にしても反応がない。

 半径50キロ以内にはいないみたいだ。

 あの僅かな時間でどうやって50キロも移動したんだ? 全く感知出来ない。


『マスター。申し訳ございません。私の誤算でした。臆見になりますが転移魔法を使用した可能性が高いと思います』


 転移魔法なんてあるの?


『現時点の知り得る情報では、可能性は低いのですが、別の世界からこちらの世界に来た事を考えると、有り得ない話ではありません。ただし、かなりの魔力を消費する筈です』


 仕方が無いので俺はネモア達の後を追った。

 ネモア達も何も無かったのか折り返して戻って来ている。

 という事はレニューの感じた気配はこの心臓のせいなのか? そうかもしれない。

 ネモア達より先にレスナ達のところに戻らないと。


「随分長いトイレだったね」


 レスナが言う。


「アリウム達追っかけてたんでしょ?」


 レニューも言う。

 う、バレてる。


「エーデルからさっきの嫌な感じがするわ。隠さないで話して!」


 レニューが続けて話す。

 俺はネモア達が戻ってきてから、心臓の話す事にした。


「うわっ!気持ち悪い!その心臓なんなの!?」


 レスナが顔をしかめて言った。


「この心臓から凄い魔力を感じます。お屋敷に戻って魔法研究室の方に調べて貰いましょう。何か分かるかもしれません。それにしてもエーデル様、よくこんな気持ちの悪い物を持ってこれましたね。私なら絶対無理です。」


 ガベラが言う。

 魔法研究室なんてあるんだ。


قەھرىمان


 伯爵の屋敷に戻り心臓の入った袋をオダマという名前の魔法使いに渡した。


「確かに凄い魔力を感じます。魔法研究室で調べさせて頂きたいと思います」


 そう言って魔法使いオダマは去って行った。


 この世界の魔法を今まで勉強していない。

 魔法研究室なんてあるなら、この機会に学んでみるか。

 俺の視覚から入った情報は自動でY.U.K.Iのデーターベースに保存される。

 変身しなくても、素の状態での情報蓄積が可能だ。

 なので、理解できなくても本を捲るだけでY.U.K.Iにはインプットされる。

 でも、変身しないとY.U.K.Iとは会話出来ないんだよ。

 素の状態で色々出来るようになるには、努力が要るということだ。


قەھرىمان


 数日が経った。

 クーデター側が近々集会をやるらしい。

 俺達が調べてもクーデターの動きは掴めなかったのだが、伯爵家の諜報機関が情報を掴んだ。

 その話を魔法使いのオダマがガベラに教えてくれた。

 俺は毎日クーデターの動きを調べる事と、魔法研究室に通う事を両立させていた。

 せめて魔力を感じられるようになりたいので勉強と心臓に関しての情報収集をしたい。

 心臓は何なのか一向に分からない。

 クーデターと関係はあるのだろうか?

 というか、心臓の事をちゃんと調べているのか?

 魔法研究室に毎日来ているが、誰も何も言わない。

 どうなっているんだ?


「心臓の件はどうなってますか?」


 魔法使いオダマに聞いてみた。


「ああ、それなら大丈夫ですよ。今、別の施設で調査中です」


 別の施設?


「それよりも、もうすぐ集会が開かれます。気をつけて下さい」


 それよりも?


 このオダマという魔法使い、魔法研究室の室長らしいが、どうも好きになれない。

 見た目だけはイケおじなんだが…

 ラシューリ伯爵はオダマは信用できると言っていた。


 でも、数日間見続けているが、オダマって仕事してないんじゃないか?


「おい、これやっとけよ」


 部下の研究員に横柄な態度で命令するオダマ。


「キャァ!」


 すれ違いざまに女性の研究員の尻を触っているオダマ。

 転生者であり客人という事で俺には丁寧に接するが、他の人にはこんなだ。

 何なんだこいつ…。

 まるで昭和の無能中間管理職のような奴だな。

 イメージだけで昭和にそんな奴が本当にいたのかどうかは知らないけど。

 この世界にもパワハラとかセクハラがあるのかなぁ。


قەھرىمان


「ねぇ、もう私、ここの研究室辞めようと思うんだけど……」

「僕も正直考えてるけど……」

「皆の気持ち分かるけど、でも今の研究って土壌改良の魔法研究だからさ。国全体に関わる重要な研究だと思うんだよ。穀物が育てられる土地が増えれば飢えが無くなるんだからさ」


 と、研究員達3人が会議室のような部屋で話しているのを聞いた。


「やぁ、君達、ちょっといいかい?」


 と、俺が声をかけると、彼等はビクッと驚いていた。


「あ、エーデル君!」

「おい、エーデルさんは転生者だ。見た目と違って年上だから君付けなんて失礼だろう」


 研究員の一人が言う。


「いや、気にしないで。それより、何かあったの?」

「いえ、あの……実は、もうここにいるのは限界かと思って……」


 女性研究員が言いづらそうに話す。


「おい、エーデルさんに変な話するなよ」


 男性研究員が小声で注意する。


「だって…」


 女性研究員が目に涙を浮かべている。


「ん~。よかったら話し聞かせてくれないかな」


 と言うと、ポツリポツリと話し出した。


 彼女の名前はルチカ。

 綺麗な紫色の髪をした美人。

 年齢はまだ20代前半。


 ルチカは人間の国の学校で勉強したらしい。

 そして魔族では珍しいジョブの解放者であった。


 魔族でも解放の儀式は行えるが、魔族の国に解放の間は無く、人間の国でジョブを解放しなければならない。

 あまり魔族がジョブを解放しないのは、魔族が人間の作ったシステムを利用する事を嫌忌する者が多い為である。

 解放の間を使うと周りから嫌われるって事だ。

 解放されたジョブは《研究者》だったそうだ。

 ルチカはこの魔族の国パラクーパの貧困問題に取り組みたいと思い、人間の国で勉強に励んだ。

 魔族差別で様々なイジメや嫌がらせがあったようだが、彼女はめげずに頑張った。

 人間の国では魔族差別を受け、魔族の国では解放差別を受ける。

 それでもルチカは魔族の国の為に頑張りたかった。


 そして、勉強を終えて母国に戻り魔法研究室で働いているという。

 しかし、ここでの生活には疑問を感じていた。

 上司オダマはセクハラまがいの行動どころか、ルチカの研究成果を奪う事ばかり考えている。

 ルチカは精神的にかなり追い詰めれられていた。


「あの…室長には黙っていて貰えますか?」


 隣の男性研究員が言った。


「あぁ、正直俺もオダマの事は好きになれない。たださ、人生ってずっといい事が続く事は無いし、嫌な事も続かない。良い時もあれば悪い時もある。辞めるのはいつでも出来るし、俺達がいる間に何か変わるかも知れないから、もう少し様子見ようぜ」


 ルチカはコクリと静かにうなずいていた。

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