005 魔族の国パラクーパ
村長の家で、村長とネモア・レスナ・アリウム・レニュー・センカと魔族3人と俺は話し合っていた。
「駄目だ。いくらエーデルが転生者だからといって、国のクーデターを止めるクエストなんて危険過ぎる。ましてやクーデター派の者が魔人化するなんて。大人の冒険者に依頼すべきだ。」
眉間にシワを寄せて村長が言う。
「確かにそうね。でも、エーデルにしたら絶好のチャンスよね」
レスナが意見を言う。
「10歳で冒険者になる為の功績か?」
アリウムが聞く。
「この村の冒険者ギルドで依頼を出して、ネモ兄とアリウムとセンカのパーティが受ける。それにあたしとレニューとエーデルが付いていくって」
「ば、ばかな話しをするんじゃない!新米3人と14歳の登録前2人、8歳のエーデルでそんな大きなクエストを受けられる訳が無いだろう!」
レスナが提案した言葉に村長が声を荒げて言う。
まあ、普通はそうだよな。
村長も昔は冒険者だったらしく、子供の無謀さに怒ってるみたいだ。
「でも、転生者・暗黒騎士・パラディン・剣士・巫女がいるパーティなんて、なかなか無いです。首都マカレに行ってもこれ以上のパーティと契約するのは難しいと思います」
レスナは自信満々に言った。
「経験が少なすぎる。5年は早い」
村長が言う。
「村長。1ヶ月。皆んなで修行して成果を見せる。それで判断してくれ」
俺は村長に言った。
「……」
黙考しているが、提案を考えてくれているわけではなく、反論の言葉を考えているのだろう。
「村長、俺はこの世界を救う為に転生してきたはずだ。クーデターの阻止くらい簡単に出来ないでどうする」
俺の真剣さが伝わったようで、しばらく考えた後口を開いた。
「わかった。ただし、条件がある。もし成果にワシが納得出来なければ、この話の事は忘れて貰う。いいか?ネモア・レスナ・アリウム・レニュー・センカ・エーデル」
山脈の麓にあるこの村サンパールは魔族領との境に近い。
首都マカレまでの往復を考えれば1ヶ月の有余はある。
1ヶ月で必ず結果を出す。
「ああ。約束しよう。」
俺は力強く答えた。
村長はまだ何か言いたげだったが、それ以上何も言わなかった。
قەھرىمان
「むぅ…」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事である。
1ヶ月間の修行の成果を見せつけられた村長は頭を抱えていた。
俺達は冒険者ギルドにある依頼をだした。
【模擬戦・B級以上5名以上の冒険者求む。勝敗関わらず報酬100万ゴールド・勝てば1,000万】
ネモア・アリウム・レスナ・レニュー・センカの模擬戦の対戦相手を募集した。
この依頼に受注が殺到して、結果A級が5人集まったが、ネモア達はこのA級5人に勝ったのだ。
「村長。これで文句はないでしょう?」
レスナが笑顔で言う。
「……分かった。認める。だが、絶対に無理はするな。生きて帰って来いよ!」
1ヶ月の修行は伊達ではなかった。
何せ俺はこっそりブレードワイスに変身して5人と魔族3人も鍛えに鍛えまくったからね。
Y.U.K.Iに最適な修行方法を考えて貰ったのも大きい。
特にネモアは、とんでもない能力を生み出して、そのおかげでかなり強くなった。
木こり能力を使い、クサビをハンマーで叩きつけてクサビを飛ばす遠距離攻撃なる技を開発した。
クサビを上に投げてハンマーで打つ。
野球のノックみたいだ。
しかもいいコントロール。
あんたプロ野球選手になれるよ。
プロ野球無いけど。
この世界で遠距離武器は存在しない。
魔法があるし、弓では魔物を倒せないからだ。
レニューの親父さんは最後まで反対していたが、最後は折れてくれた。
なお、俺達の家の両親はお金で解決している模様。
まあ、仕方ないよね。
ネモア、レスナ、俺以外にも7人兄妹がいて貧乏だし。
ネモアが冒険者として大きな仕事を受け、レスナと俺を連れて行く。
報酬として前金500万ゴールドを両親に渡した事で両親も許してくれた。
出資はガベラの魔石である。
こうして俺達は魔族領のクーデターを潰すために出発したのだった。
冒険者になって半年にも満たない新人3人、冒険者にまだなっていない2人、8歳の子供によるクーデターの鎮圧という無謀な挑戦が始まる。
まぁ、日本でも昔は12歳で元服といって成人扱いになった例もあるから、大丈夫だろう……たぶん。
最悪俺がブレードワイスになれば国ごと消せるけど……。
قەھرىمان
魔族の国にやってきた。
俺達の村サンパールは山脈の麓にあり、山脈を越えると魔族領に入る。
普通なら数週間かかるのだろうが、戦闘力ならすでにA級冒険者並みのアリウムパーティと魔族のガベラ達3人、そして俺。
5日間で魔族の国パラクーパにたどり着くことが出来た。
魔族は人間と見た目同じだが、髪の色がカラフルで赤・青・緑など色とりどりだったりする。
人間と髪色は被らないので金髪やブラウンはいないが、黒髪だけはいる。
黒髪もたまにいて、黒髪だとちょっと見た感じ人間と区別がつかない。
日本人とアジア人みたいなもんかな。
魔族は、遥か昔は凶暴だったらしく人間と争いを繰り返していたらしい。
今は落ち着いていて世界中でも人間と魔族は共存すべきという声が上がっているそうだ。
だが、まだまだ魔族差別があったりと問題は残っている。
魔族側も人間を忌み嫌う者もいるので一概には言えないが。
人間が魔族領に入ると警戒される。
だが、子供である事が幸いしたのか、あまり警戒されていないようだ。
8歳の俺はもちろん、最年長のネモア・アリウム・センカも15歳。
まだまだあどけなさが残っている。
魔族の子供達に挨拶されたり、手を振ってもらったりした。
ガベラが子供同士の交流という形で入国審査を通したので簡単に入れた。
伯爵のメイド見習いは意外と権力を持っているようだ。
石畳の道路やレンガ造りの建物、テントが並び露店もある。
人通りもそれなりにあり、賑わいを見せている。
「結構普通だね」
「ああ、人間の町と変わらないな」
「うん、でもなんか雰囲気悪いよ?」
そう、魔族領内の雰囲気はあまり良いとは言い難かった。
なんとなく空気が悪い。
すれ違う魔族の人達の表情は暗く元気が無いようだった。
「!!」
「エーデル君どうかした?」
君付けで俺を呼ぶのはセンカだ。
「いや、なんでもない……」
と言うが、俺達をじっと見つめている視線がある。
こちらを監視している。
目を合わせてはいけない。警戒が強くなるだけだ。
しかし、相手の顔や特徴は見ておかないと。
屋台の焼き鳥を物珍しいそうに見るふりをしながらチラッと確認する。
身長は180cmくらいだろうか。 年齢は30代後半といったところ。
髭面で筋肉質。
頭はスキンヘッド。
全身黒い鎧を着ている。
剣を携えていて腰のベルトに差している。
体格が良い為かなり強そうな感じに見える。
「エーデル君、焼き鳥欲しいの?あんなに強いのにやっぱり子供なんだね」
クスッと笑うセンカ。
「えっ!?あー…食べた事無かったから興味あったんだ…でもお金持ってなくて」
慌てて誤魔化す。
「私、おかげさまで結構稼げてるからおごってあげる!」
そう言って串を2本買って1本くれた。
おかげさまでというのは、修行中にクエストをガンガン受注して稼ぎまくったのだ。
特訓とクエストのルーティンワークをこなし、1ヶ月で1,000万ゴールドほど稼いでいた。
毎日魔物を倒していれば、その程度の金額にはなるだろう。
だが、俺は今無一文。
センカにおごってもらった。
「センカ、駄目よエーデルを甘やかしちゃ」
レスナが注意する。
「センカはエーデル大好きだからな」
アリウムが茶化した。
「ちょ、ちょっと何言ってんのよ。別に私は……その……子供として可愛いと思ってるだけで、そういうのじゃ無いわよ。もう、アリウムまで変なこと言わないでよね!」
慌てながら否定する。
俺は、またチラリと監視している男を見る。
男は少し離れた所で様子を伺いながら、さっきと同じ体勢で立っていた。
やはりクーデター側の人間か。
間違いない。俺のヒーローの勘が言っている。
今はどうする事も出来ないが、顔は覚えた。
ブレードワイスのセンサーで見つけられる。