003 魔族の女の子ガベラ
「本当に助けていただきありがとうございます。心ばかりですが、こちらをお受け取り下さい」
彼女の名前はガベラ。
森で出会った魔族。
青い髪色でショートカットが似合う可愛い女の子だ。
俺達は村に戻り、ガベラの話しをするために村長の家に来た。
村長は、まずガベラの怪我の手当をしなければと回復魔法を使える人を探しに行った。
ガベラはお礼としてお金をだした。
10万ゴールド……
「こんなに貰えないですよ。困っている人を助けるのは当たり前の事です。それに、あの魔人は僕達が倒したわけじゃないので……」
ネモアは遠慮しているが、倒したのは俺だし、受け取っても良いと思う。
「そうですか。ありがとうございます」
ガベラはあっさりお金を引っ込めた。
「……」
「……」
ネモアとアリウムは黙ってしまった。
一回の断りで引っ込めてしまうとは思わなかったようだ。
バタンとドアの音がしてドタドタと誰かが走って来る足音が聞こえる。
「おい。レニューを連れてきたぞ」
村長が回復魔法を使えるレニューをつれて戻ってきた。
レニューは14歳でジョブは《巫女》、回復魔法を使える。
姉のレスナと同い年で幼馴染みでもある。
ダークブラウンの髪を肩まで伸ばしている。
村で一ニを争う美少女だと、もっぱらの噂だ。
なお、一二を争うもう一人は我が姉のレスナ。
レスナとレニューはよく一緒にいるので、たまに訪れる旅人や冒険者はレスナとレニューの美貌に惚れて、声を掛けてくる。
だいたい、近くに親衛隊のような村人がいるので、そこで追い返されるのだが。
「レニューって来年冒険者になるの?」
俺は背もたれを前に椅子に腰を掛けながら、ガベラに回復魔法を掛けているレニューに話しかけた。
「えっ?うーん……」
レニューは少し考えてから答えた。
「なりたいけど……まだ分からないかなぁ」
「どうして?レスナと一緒にやれば良いじゃないか」
「うーん。お父さんがね、危ないし止めなさいって言うんだよね」
確かに危険かもしれないが、この世界では普通だと思う。
「そうなのか。でも、レニューなら大丈夫だよ」
壁にもたれかかって腕を組んでいるアリウムが会話に入って来た。
来年になれば、アリウム《暗黒騎士》ネモア《木こり》レスナ《剣士》レニュー《巫女》というパーティが完成する。《木こり》は分からないが、そこそこバランスの良いメンバーだと思う。
「冒険者ってさ。パーティ組んで行動するのが基本だろ。才能あれば上級のパーティからスカウトされるけど、中級以下のパーティに入ると伸び悩む事が多いらしい。下手なパーティに入るより新人同士で組んだ方が上手くいく事が多いらしいんだ」
アリウムが説明してくれた。
「そうなのよねぇ…」
レニューがため息をつく。
「アリウム・ネモア・レスナにレニュー、悪くないパーティだよな」
俺は思った事を言った。
「うん。そうだよね。アリウムとネモと私とレスナで…あ、ネモはちょっと違うか」
「木こりはダメかぁ〜」
ネモアは残念そうだ。
「木こりの一撃の攻撃力は高いんだぞ」
村長がネモアの肩に手を置いた。
「そ、そんな事は分かってますよ!」
ネモアが顔を赤くして言った。
俺とアリウムは顔を見合わせて笑った。
「俺が鍛えてやるって言ってるだろ」
兄であるネモアに対し、いつも上から目線の俺である。
「エーデルは何を言っているんだ?」
村長が不思議そうに聞いてきた。
「エーデル、村長に話していいのか?」
ネモアが小声で聞いた。
「もういいんじゃないかな。俺10歳で冒険者になりたいし」
「そうか……。村長、エーデルは転生者なんです」
「えぇっ?」「何と?」「転生者?」
レニュー、村長、回復魔法を受けているガベラが同時に声を上げた。
「そそ、それでアリウムかレスナにA級になって帯同してくれれば冒険者になれる」
「俺は?」
ネモアが聞いてくる。
「木こりは……」
頬を人差し指で擦りながら、言葉に詰まってしまった。
「木こりだって立派なジョブだ。木材が無い事には家は建てられないし、薪がないと火は起こせない。それに森の恵みは沢山ある。木こりは凄いジョブなんだ。自信を持て」
村長が励ましてくれる。
「ありがとうございます。頑張ります!」
兄の為に言ってくれるのが素直に嬉しい。
「よし!回復は終わったよ。感じはどう?」
レニューが立ち上がりガベラに聞く。
「あ、はい。大丈夫です。痛みも消えました。本当に助かりました。なんとお礼を申し上げて良いのか……」
「お気になさらずに。当然の事をしたまでよ」
「ガベラと言ったね。君は何故森の中にいたんだ?何故、魔人になるような者に追われていたんだ?」
村長が優しく問いかけた。
「あの、失礼ですが、その前に、私からお聞きしてよいでしょうか?」
「?」
全員が首を傾げた。
「貴方は先程、転生者と仰いましたが、それはどういう意味なのでしょう?」
「ああ、俺は異世界からの転生者。めちゃくちゃ強いんだぜ」
胸を張って答えた。
「そうなのですね。私は山脈の向こうの魔族の国パラクーパからやってきました。私は伯爵様のメイド見習いです。国のクーデターに一早く気付いた伯爵様から強い冒険者を雇って来るように仰せつけられ、山を越えてきたのです」
俺はその話を聞いて椅子から立ち上がった。
勢いよく立った為、椅子がパタンと倒れる。
そりゃ驚く。
「ちょっと待ってくれ。ガベラは魔人に追われてた。追って来た奴がクーデター側の者なら魔人化をクーデターに使ってるって事か!?」
全員の顔色が変わった。
「その通りです。魔族は人族の亜種です。魔族でも魔物の血を飲む事で魔人になります。クーデター派に何人か魔人化する者がいるようです。改革ではなく、悪き陰謀としか思えません」
ガベラが答える。
「そんな……」
皆が絶句する。
「まだ、組織は小さいようです。今の内に強い冒険者に依頼して組織を潰して欲しいのです」
ガベラは俺を見つめながら言った。
「一人で来たのかい?」
アリウムが聞いた。
「本当は3人で来ましたが、森で2人とはぐれてしまいました……」
ガベラが俯き、声を小さくしていった。
「探しに行こう」
俺はすぐに立ち上がった。
「駄目だ!エーデル!お前は自分の年齢を忘れているのか。いくら転生者でも子供が森の探索など危険過ぎる!」
村長が厳しい口調で言う。
「大丈夫だ」
俺は言い切った。
「大丈夫な訳があるまい。それに、いくら困っている相手とはいえ話を鵜呑みにするのは良くない。まずは我々で調べてからにしよう。ガベラさん、貴女の言う事が本当だという証拠は?」
村長がガベラに問う。
「本当だ。俺のヒーローの勘がそう言っている」
「な……」
村長が言葉を失う。
「何を言っても無駄なようだな。陽が沈む前には戻れよ。後、リーダーはアリウムだ。言う事を良く聞くんだぞ」
村長の話を聞いて、アリウムが溜め息を吐く。
「とんでもない弟だな」
ネモアを見て苦笑いをする。
「よろしくお願いします」
ガベラは頭を下げた。
「レスナも連れて行こう。どうせどこかで特訓してるだろ」
姉のレスナは家の手伝いをした後はいつも来年冒険者になる為の特訓をしている。
俺達はレスナに声を掛け、再び森へと向かった。