022 織田信長とお市の方
「どうした。もう終わりなのか。つまらんのぅ。ならばこちらの番じゃの。いくぞ」
再び一瞬にして間合いを詰めてくる。
クソ、来るのは分かっていた筈なのに反応出来ない。
駄目だ、防げそうにもない。
ギィィィィィン!!
えっ、受け止めた?
誰だよ、一体誰が助けてくれたんだ。
振り向くと俺の影からリゾンが出てきている。
『マスター。リゾン様の忍術とスノーク様の影の合わせ技です』
ってタイミングがグッドなのかバットなのか、よりによってリゾンがくるのかよ。
テンマがリゾンを見て目を丸くしている。
気付いたようだ。
自分が相手にしようとしている者が誰なのか。
「お市か…」
「三郎兄様…」
二人は暫く見つめ合っていたが、先に口を開いたのはリゾンだった。
「何故、何故です?どうしてこのような事をなさっているのです?」
リゾンは涙を浮かべながら問う。
それに対してテンマは答える。
「もう儂はお前の兄ではない。織田信長という名も捨てた。今の名はテンマ。魔神アンラ・マンユと契約を交わしし、闇の魔神なり。邪魔をするなら容赦せんぞ」
そして、リゾンに斬りかかる。
俺が割って入ってソーラーブレイドで受ける。
今度は簡単に弾かれる事もなく、鍔迫り合いの状態に持ち込むことが出来た。
だが、凄いパワーだ。
押し返されそうだ。
リゾンが回り込んで横から攻撃を加えるも、テンマは後ろに飛んで避ける。
まだ余裕が有るみたいだ。このままでは不味いな。
「何が三郎兄様にあったと言うのですか!?教えてください。お願いします!!」
リゾンは涙を浮かべ懇願する。
「それは出来ぬ相談じゃのぅ。それにな……今更知ったところでどうにもならぬよ」
「一人で何かを背負おうとしているのではないですか?何故、孤独を自ら選ぶのです。何故、相談して下さらないのですか!」
「ふん、孤独か……。そんなものではないな」
そしてまたも刀を振り下ろす。
俺はその攻撃を受け止め続けるが、やはり徐々に押されていく。
リゾンの方を見てみると、リゾンの攻撃は全て避けられている。
想定外すぎる。
まさかここまで強い奴がいるなんて。
テンマがリゾンに目を向ける。
そしてリゾンに向かって走り出す。
「お市!お主でも容赦はせんぞ!」
まずいっ! リゾンを庇うには位置が悪すぎる。
突然、巨大な火の球がテンマを襲う。
テンマは刀を振って掻き消した。
火の球の放たれた方を見ると、テウルが神殿の外にいる。
バカヤローッ!来るなって言ってるだろ!
「命令だっ!お前達は逃げろっ!!」
大声で叫ぶ。
聞こえただろうか。
頼む。伝わってくれ。
ガベラがドラゴニュート化して飛んで来た。
「言う事を聞けっ!」
怒鳴りつける。
ガベラがテウルの方を振り向き目を光らせる。
するとテウルはカミール、スノーク、アイリスを乗せたまま引き返した。
「こらっ!テウル!」
カミールがテウルを怒っている声が聞こえるが、声は小さくなって行った。
「エーデル様。申し訳ございません。こうするしかありませんでした」
ガベラがそう言いながら降りて来た。
どうやらカミールが言う事を聞かず来てしまったみたいだ。
最終的にガベラのドラゴンナイトの力でテウルに命令して逃がしたみたいだ。
「テンマ。終わったぞ。お前はこれを持って行け。後は俺がやる」
「早かったではないか。儂らでこ奴らを片付けた方が良かろう?」
「万が一、お前と心臓に何か起きたら問題だ。このアテナからの繋がりは絶つわけにはいかん」
テンマは俺達の方を見てニヤリと笑う。
そして刀を鞘に納め、左手を天に掲げた。
「いでよ。アジ・ダハーカ」
「な、なんだあれは…」
神殿の外に禍々しい巨大な魔法陣が3つ現れ、それぞれから巨大なドラゴンの頭が出現する。
『マスター。アジ・ダハーカです』
アジ・ダハーカだと?
『アジ・ダハーカとは、3つの首を持つ巨大な黒い龍の姿であると言われています。その姿を見た者は死ぬとも言われている程恐れられている伝説の魔神です』
そんなのまで召喚できるのか。
テンマはディオスから心臓を受け取り一つのドラゴンの頭の上に乗った。
「ディオス。こいつらを置いていく。使ってやってくれ」
テンマが言うとアジ・ダハーカの2つの口が開き中から人影が出てきた。
魔族の美女二人。
そして2つの頭は消えた。
「ビーゼとナナエムだったな。俺一人で問題無いと思うが、まぁいいだろう」
ディオスが腰の剣を抜きながら言う。
「こいつもついでだ」
テンマが左手をかざすと、またも禍々しい魔法陣が出現し、フードを被った男が出現した。
「サルワのコピーか。もういい。テンマ、行け」
ディオスが言うとテンマを乗せたアジ・ダハーカの頭は魔法陣の中に消えて行った。
テンマは消える間際まで俺を薄笑いで見ていた。
あの野郎……
「兄様!三郎兄様!!」
消えていくテンマに向かってリゾンが叫んだ。
最後リゾンには目を向け無かった。
もう、お市の方の事を想ってはいないのか?
『マスター。テンマの事は一度忘れるべきです。目の前の4人、特にディオスは脅威です。また、ビーゼとナナエム2人の女魔族も魔神の実体化です。警告レベルです。サルワのコピーという存在も下位魔神級の力を持っています』
という事は今、目の前に魔神級が4人いる事になる。
そんな状況、勝てる見込みは無い。
Y.U.K.Iデータ収集の状況はどうなっている。
『マスター。神との交信によるデータ収集は莫大すぎて全てのデータを収集する事は不可能です。マスターにとって必要なデータのみを収集しておりますが、それでも膨大な量となります。現状では10パーセントに満たない量しか取得できていません』
10パーセントッ??
これはデータ収集は諦めて逃げる事を考えないとならないかもしれない。
『マスター。この世界の神が所有するデータの10パーセントです。データ量として200ゼタバイトを超えています。神の神殿に訪れた成果は大きいと思われます。現状はこの場から逃げる事に専念するのが最善の選択です。なお、メガ・ギガ・テラ・ペタ・エクサ・ゼタです』
めっちゃダウンロード出来てる!!
分かった!逃げよう!
とはいえ、相手は4人の魔神級、こちらは俺とガベラにリゾンの3人だけだ。
単純に逃げても回り込まれる。
何か良い方法があれば……
ディオスが動いた。
剣を振り上げ俺に向かって斬りかかってきた。
ソーラーブレイドで防ぐ。
速い!! ギリギリだった。
こいつもテンマに劣らずヤバい!
だが、リゾンに向かってサルワのコピーが、ガベラに向かってビーゼとナナエムが走り出した。
まずい!
その時であった。
俺の影からまた何か出てきた。
影だけど人間と変わらない姿の影。
出現と同時にがに股に開き、右手を突き出し左手を《くの字》に挙げて……
「いよぉぉぉぉっっ!」
「日本一のぉぉ桃太郎ぅ〜!」
「…………」
全員固まった……
『マスター。チャンスです。動いてください』
そうだ!!
スノークがモモを俺の影に忍ばせてくれていたようだ。
大英雄のアンデット、モモ。
まだ、どの程度の強さか分からにけど、魔神達は突然現れたこの変なアンデットに気を取られている。
この隙にリゾンを抱え、ガベラの元に走った。
リゾンはモモを指さして口をパクパクしている。
「なっ!何ですか!あれは??」
ガベラも驚いているようだ。
スノーク…ガベラにも説明していなかったのか…
ディオスもビーゼもナナエムも動きを止めている。
「時は戦国乱世、あるところに一人の侍がいた」
でた!モモの自分語り!
いいぞ!そのまま魔神達の意識を引き付けてくれ!
「彼は桃から生まれた桃太郎と名付けられ大切に育てらた。彼の名は後に天下一の英雄と呼ばれる。しかし……」
そこで言葉を切った。
って、ディオスもビーゼもナナエムも話を聞く態勢になっているし。
「しかし…何だ??」
ディオスが興味津々に聞いている。
興味あるのーーー?
「えっとですね。この話は続きがありまして、ある日突然、鬼ヶ島へ行けと言われますね〜」
「つまらん!」
ディオスがその場で剣を天に向かって振り上げた。
離れた場所にいるモモの真下からエネルギーの柱が立ち上がる。
モモが吹き飛んだ。
アンデットだから大丈夫かな。
って、そんなことより、今のは何なんだ!?
とんでもない威力だったぞ。
「いよおぉぉぉっ!」
ええぇぇぇ!?
地面に叩きつけられたモモが叫びながら起き上がって見得を切っている。
ディオスがモモを見てイラついている。
大ボスなのに短気すぎないか。
「森羅万象の歪みを知れっ!コズミックディストーション!!」
ディオスが剣を振り下ろしながら叫んだ。
モモの真上から漆黒の柱が降り注いでくる。
「危ない!!! 」
俺はリゾンとガベラを抱き抱え柱の範囲外に跳んだ。
モモが完全に消滅した…
灰だけが残って…
ありがとう。モモ。君のおかげで逃げる態勢が作れた。
後はタイミングを見て逃げるだけ…
アンデットだから大丈夫だよね…
散り散りになった灰が中央に集まっていき…
「いよおぉぉぉっ!」
はいーーっ??
復活早すぎるでしょう。
しかも無傷だし。
今度は両手を上げてポーズをとっている。
ディオスが更に怒りの表情になり、剣を構え走り出した。
モモめがけて。
「リゾン!ガベラ!全速で逃げるんだ。急げ!」
俺の声で二人が全力疾走を始めた。
モモとディオスの激しい戦闘が繰り広げられている。
ディオスの一方的な攻撃だが、再生するモモには効果が薄いようだ。
『マスター。スノーク様の影は暗黒属性の為、ディオスの暗黒属性の攻撃は効果が薄いようです。しかし、同属性にも関わらず少しずつダメージを蓄積させています』
炎に火炎でダメージを与えてるようなもんか。
恐ろしいな。
リゾンとガベラはだいぶ先に行ったな。
俺も追いかけよう。
逃げる俺達にビーゼ、ナナエム、サルワが追いかけて来た。
「ガベラ!飛べっ!」
ドラゴニュート化しているガベラは翼を広げて空高く舞い上がった。
俺もリゾンを抱えて空を飛ぶ。
ここは山頂、滑走路の必要が無い俺達が空に飛ぶには都合がいい。
それなりの成果は得た。
逃げ切れば勝ちだ。
このまま逃げ切れると思ったその時、空中に霧が出現した。
その霧が集まってサルワが目の前に出現した。
『マスター。サルワの瞬間移動です。霧状になって空中にも現れる事が可能です』
「ちいっ!」
サルワが右手をかざすと爪が伸びて襲いかかってきた。
咄嵯にかわすと、サルワはそのまま落下していった。
ん?
飛べるわけでは無いのか。
だが、すぐに霧が目の前に現れ、集まってサルワになり攻撃してくる。
くそっ、きりがない。
『マスター。神の神殿から離れる事に成功しました。ディオスは神の神殿の守護者のためここまでは追いかけてきません。ビーゼとナナエムはすぐに追いかけてくると思われますが、その間にサルワを倒してしまえばかなり有利に展開できます』
ビーゼとナナエムがここまで辿り着くにはどれくらいだ?
『この下ということならば、2分程で到着します』
2分で倒せる相手なのか?サルワのコピーは…
『サルワのコピーはミスティシャドウという霧の魔物にテンマが自分の血と、魔力を宿した魔石で作り出したものです。霧状態の時に雷系の攻撃か高熱で蒸発させる方法で弱体もしくは消滅可能です』
あれ?じゃあ、飛びながら霧になった時に攻撃すればいいのか。
「ガベラ!リゾンを頼む!」
抱えているリゾンをガベラに渡し、サルワの出現を待つ。
霧が目の前に現れた!
今がチャンス!
「くらえ!ブレードサンダーキックスピーーーンッ!」
全身に雷を宿らせ回転しながら、蹴りを放つと、バチバチッ!と、霧に電気が流れて行くのが見える。
『グギャアァァァ!』
サルワの叫び声が頭に響く。
まだ、霧は漂っていて、センサー反応もあるけど、かなりのダメージを与えたようだ。
霧がサルワを形成する前に落下していく。
形成速度が遅くなっているようだ。
よしっ!!
このまま飛んで逃げ切ればいいかな。
『マスター。ガベラ様の飛行時間は限界に近いです。マスターのみ地上に降りて追いかけてくるビーゼとナナエムを迎え撃つか、3人で降りて迎え撃つかを判断してください』
確かに。
俺はまだ飛べるけど、ガベラの飛行時間はもう限界に近いか。
山の上からの滑空とはいえ、ガベラは翼を支え続けるのに疲労している。
「ガベラ!限界まで飛んで、地上に降りたらそのまま逃げろ!」
「エーデル様はどうするのですっ?」
「ビーゼ、ナナエムを地上で迎え撃つ!お前達は逃げろ!今度はちゃんと言う事聞いて貰うぞ!」
ガベラは悔しそうに頷いた。
言う事聞かなかったのはカミールだけど。
ガベラはリゾンを抱えたまま飛んで行った。




