020 とある村のアンデット
次の日の朝、ラシューリ伯爵邸を出発した。
そして3日間の行程を経て、目的地の南スレカ大陸東の岬の近くまでやってきた。
近くといってもまだ70キロはある。
空の上から見下すと岬付近に山が見える。
「街というか村かしら?建物らしきものが沢山見えるけど……」
確かに小さな集落のようなものがいくつか点在している。
「この下の集落に一度降りよう。山の上にあるなら念の為朝早く行った方がいいだろう。今日はもうすぐ夕暮れだしね」
人間には認識されず、魔族だけに認識されている神の神殿。
何か大きな秘密が隠されているに違いない。
出来れば50キロメートル以内に入ってセンサーで神の神殿をサーチしたいが、逆に探知されるリスクもあるから、少し離れた所に降りることにした。
何がいるか、何が起こるか分からないから慎重に行動しようと思う。
まぁ、50キロも探知できる奴が俺以外にいるとは思わないが。
「そうですね。それが良いと思います」
ガベラが賛同してくれた。
集落らしき場所から少し離れて着陸する。
近くにいた鳥達が一斉に飛び立った。
いきなり大きな飛竜が現れれば驚くのも当然かもしれない。
カミールがテウルを魔石に宿すのを確認し、俺達6人は徒歩で集落に向かった。
「何っ?」
集落の入り口から突然火球の魔法弾が何発も飛んできた。
俺は咄嵯に腕に炎を纏い弾き返す。
「一旦下がるぞ。スノーク、影で探索してくれ!」
「もう10匹ほど潜り込ませた。とにかく下がろう」
優秀だなスノークは。
俺達は急いで集落から離れた。
しかし何なんだ?
敵と勘違いされたのか?
変身してセンサーでサーチするか?
スノークを見ると何とも言えない顔をしている。
苦笑いというか……呆れているというか……。
「人がいない。いるのはアンデットだけだ。ゾンビとかスケルトンばかりがウヨウヨしているよ」
それで何故その顔を…
って、ネクロマンサーだからか! そりゃそうだな。
「ここは俺に任せてここで待機していてくれ」
そう言って集落に歩いていくスノーク。
「え?彼に任せていいの?大丈夫なのかしら?」
アイリスが心配してるが、まぁ問題ないだろう。
スノークが集落に近づいていくと、今度は剣を持ったスケルトンが襲ってきた。
しかし、スノークは慌てる様子もなく左手を差し出す。
「控えよ」
途端、スケルトンの動きは止まり、片膝をついて頭を下げる。
おお、流石はネクロマンサー。
カッコいいな。
その後、次々にアンデッド達が襲ってくるが、スノークが手をかざすと全て動きを止め、その場でひざまずく。
集落中のアンデット達を支配下に置いたらしい。
「おーい!皆来てくれーっ!」
奥に入って行ったスノークから声がかかる。
集落に入って行くと100体以上のアンデット達がひざまずいて道を開けている。
スケルトンにこんな事をさせたら余計怖いだろう。
集落の中央にスノークが待って居たので、話を聞くことにした。
スノークはアンデット達から話が聞けるようである。
アンデット達はどのくらいの時が経っているのか分からないらしい。
この集落は昔は村だったようだ。
神の神殿を守る為の屈強な部族が住んでいた。
ある日、この周辺は強烈な悪意に包まれ、凶暴な魔神や魔物が現れ暴れ回った。
神獣が守る為に戦ったが、魔神の力が強く村は壊滅してしまった。
その後の事はわからない。
ただ、この村と神殿を守るという使命だけを果たそうとアンデットとして彷徨っていたのだという。
「チェンジ・ブレード!」
いきなり変身した俺に驚く仲間達。
ブレードワイスの方がY.U.K.Iとの会話がスムーズに出来る。
生身のままだと俺からアクセスしないとダメだからね。
さて、予測、推測、推論、推察、あらゆる可能性を考えよう。
『マスター。何からお答えしましょうか?』
そうだなぁ……。
神の神殿とは何か?
この村が魔神や魔物に襲われた理由は?
それは神の神殿と関わりがあるのか?
神獣って何の事か?
『現時点のデータで推測出来る事もあるのですが、神の神殿に行けば更に詳しく分かると思います。ただし、アンデット達の話から推測すると神の神殿は魔神に支配されている可能性が高いです』
ふむ。
『まず、この世界には魔神と呼ばれる悪神の存在があります。そして善神と悪神の戦いの言い伝えは事実と考えて間違いないでしょう。悪神側の筆頭にアンラ・マンユがいるのも確実です。そして、アンラ・マンユは善神を悪神に堕落させる能力があるのも確定的です』
堕落ってのは、善神をアンラ・マンユの仲間にさせる能力という事か?
『はい。その通りです。実際ヴァーラーヒーが魔神としてこの世界に召喚されています。ヴァラーヒーはヒンドゥー教の七母天の一神です。我々の前世の地球では善神として認知されていますが、この世界では魔神として我々の前に現れました』
ルチカか…
『神の神殿が神と交信出来る場所であるのなら、その交信する力を使ってアンラ・マンユは善神達と交信し、堕落させることが出来るのでしょう。その力を得る為にこの村共々神の神殿は魔神達に攻め込まれた。と、考えられます』
そうすると神の神殿は魔神達の重要拠点でもあり得るのか。
『はい。その通りです。その為、強力な守護者が存在すると推測出来ます』
思い付きで来てしまったけど、危険な場所だったのか?
『危険な場所である可能性は非常に高いですが、神と交信できる場所であるのなら私がデータ通信出来る可能性もあります。ハイリスクハイリターンではありますが、マスターの知りたい情報を得る可能性は高いと思います』
そうか。なら行くしかないな。
しかし、戦力的に未知数だ。
『マスター。その為に少しでも我々の戦力を増強すべきと提案いたします』
今日の明日で戦力増強は厳しい気がするが……。
『マスター。左手の廃屋を調べてみてください』
Y.U.K.Iの指示に従い、廃屋の方に近づいていく。
「あ!解放の間だ!」
『数十年放置されていますが、簡単な修復で利用可能になります。リゾン様が解放の儀式を行うのであれば、今すぐ可能です』
なるほど。この村は人間の村だから解放の間があるのは当然だ。
リゾンが儀式を行うならこの解放の間は有効活用できる。
「リゾン。やってみるか?」
俺は振り向いた。
リゾンは頷くが、ガベラが声を掛ける。
「姫。魔族が儀式を行うという事は、人生を大きく変える事になります。よろしいですか?後戻り出来ませんよ」
真剣に見つめ合う二人。
魔族が解放の儀式を行うと、他の魔族から嫌われる。
魔族からも差別を受ける事になる。
「ガベラ、貴女が言っても説得力無いわよ。私だけが解放して無いの。私は皆と一緒に旅をするって決めたの。もう覚悟は決めてあるわ」
リゾンの強い決意の言葉を聞いて、ガベラも頷き返した。
Y.U.K.Iの指示通り解放の間を修復し、リゾンが儀式を行う。
【ニンジャ】
忍者キターー!! マジで!? ヤバい。テンション上がるんですけど。
リゾンのジョブはニンジャであった。
女の子だからくノ一かな。
くノ一でお姫様でお市の方の転生者。
でも、ガベラ・スノーク・カミールに比べて見劣りするジョブな気がする。
ガベラ達はスーパーチートジョブなのに、リゾンのニンジャは普通のジョブに見える。
『マスター。ガベラ様達の儀式は《巫女》であるレニュー様の加護により、祝福された特別なものです』
なっ…先に言ってくれ。
レニューが解放の儀式に関わるとレアジョブになるって事か!
レニューと合流してから解放の儀式をした方が良かったかも……。
『いえ、マスター。ニンジャのジョブがドラゴンナイト・ネクロマンサー・魔物使いの王に劣るとは限りません。特にお市の方であったリゾン様には最適なジョブかもしれません』
そうなのか?Y.U.K.Iが言うならきっとそうなんだろ。
「あの…ニンジャって何かしら…?」
まさかのリゾンの一言。
何で元戦国時代の姫様が知らないんだよ!
『マスター。忍者とは日本の昭和中期に普及した呼称です。忍び・乱破・素破・草・奪口・かまり等の呼称で認識可能かと思われます。しかし、この世界のニンジャがどのような能力を持っているかは未知数です。先入観を持つより自身の魔力感知で特性を認知する方が賢明でしょう』
「リゾン。ニンジャが何かより、自分の魔力を感じて何が出来るか感じた方が可能性が広がると思う」
俺の言葉を聞いて、リゾンは目を瞑り集中しているようだ。
…………
………
……
…
長い!
もう30分以上経っているぞ。
「たぶん、出来る事が多いんだと思う。ガベラに見てて貰って、俺達は食事の準備とかしよう」
もう夕陽も落ち始めている。
今日はここで野営だな。
テントを張って、キャンプファイヤーを作り飯の支度を始めた。
食事が出来上がる頃リゾンとガベラが解放の間から出てきた。
「ごめんなさい。何もお手伝いしないで」
「問題無いよ。それよりもどうだった?ニンジャの能力は?」
「後で説明するね。まずはご飯を食べよう!」
食後にリゾンの話を聞かせてもらった。
ニンジャのスキルはかなり多いらしい。
【感知】
【気配遮断】
【忍術魔法】
【体術】
【罠解除】
などなど
特に忍術魔法。
分身とか影移動とかファンタジーな忍術も使えるらしい。
この後、リゾンのスキルの実践訓練を行いながら、明日の予定を決めたのだった。
勢いで来てしまったけど、神の神殿、かなり危険な場所かもしれない。
魔神がいるかもしれないし。
魔神の神殿……
洒落になってないな……
最悪の事態を想定しておかないといけないかもしれない。




