002 変身!ブレードワイス見参!
「という事が、昨日あってね」
ネモアは、幼馴染で一緒に冒険者になったアリウムと話をしている。
昨晩、転生者の正体を明かしネモアとレスナとの模擬戦をした事の件だ。
アリウムはいつもネモアと一緒に遊んでいたので、俺ももっと小さい頃から知っているもう一人の兄貴のような存在だ。
ブラウンのミドルヘアで、背も高くイケメン。
体も引き締まったいい男。
「動きに隙が無いからな。前からエーデルは凄い強いんじゃないかとは思っていたけど、そこまでか」
アリウムは呟く。
「って事でさ。今日のクエスト俺も連れてってよ」
「まぁ、いいんじゃないか。ただ、無理はするなよ。それと、もし危ないと思ったら逃げてくれ」
アリウムのジョブは暗黒騎士というレアジョブで才能が凄いらしい。
軍からのスカウトが後を絶たないとのことだ。
今日ネモアとアリウムが行くクエストは森の木材採取。
この村サンパールの周辺は森が多く、木材はこの村の大事な資源だ。
だが、森の中は魔物が多いので危険が伴う。
その為、冒険者に木こりの護衛クエストが多く発注されるが、木こりで冒険者のネモアが行くと効率がよく、報酬が割高になるのだ。
قەھرىمان
「じゃあ、行くか」
アリウムはそう言い歩き出す。
アリウムが先陣を切り、後ろにネモアが続く。
俺は一番後ろを歩く。
森の中に入り杣道を進む。
杣道ってのは、木こりが木を伐採する際切り倒した木材を運ぶ為の道だ。
けもの道みたいな道で、一般人には足場が悪くちょっと危ない。
森の中は少し薄暗いが、木漏れ日は心地よい。
小鳥のさえずりが聞こえる。
魔物に臆する事の無い俺にとって、ピクニックに近い感じだった。
「木材の伐採場まであとどれくらいなんだ?」
杣道を進みながらアリウムがネモアに聞く。
「そうだね……。そろそろ見えてくると思うんだけど」
話しながら歩いているとガサガサっと音がして、木の上から魔物が下りてきた。
「フォレストウルフ……」
狼型の魔物だ。
「あらよっと!」
木から駆け降りてきたフォレストウルフに合わせて首に蹴りを入れる。
「ギャウン!」
フォレストウルフは断末魔をあげて絶命する。
弱いなー。
「うわ。本当に凄いんだな」
アリウムも認めてくれたようだ。
そこから暫く歩くと視界に何かが入る。
横を見ると草や木でよく見えないが、人の手が見えた気がした。
「あれ?誰かいるぞ」
2人に声を潜めて話す。
「本当だ。誰だろう。こんな所にいるなんて……」
ネモアは不安そうな顔をしている。
アリウムは武器を構える。
俺は気配を消し、ゆっくり近付く。
1人の女性がいた。
女性というより10代前半の女の子。
青い髪の毛の女の子が木にもたれかかり座っている。
服装は汚れている。
怪我をしているようだ。
「魔族の女の子?」
ネモアが呟く。
魔族というのは魔力が多いだけの人間と変わらない種族である。
俺達の村サンパールから山脈を越えると魔族の国があるので、魔族と遭遇することは珍しくはない。
「おい!大丈夫か!」
アリウムは女の子に駆け寄る。
女の子はアリウムを見ると弱々しい声で喋る。
「あなた……人族ですか……?」
「ああ。俺は人間だ。安心してくれ。君の名前は?」
アリウムは優しく話しかける。
「お願い。あなた達はここから逃げて下さい。もうすぐ……」
気を失ってしまった。
「どうするの?」
ネモアはアリウムに問いかける。
「取り敢えず、村に連れて行こう」
アリウムはそう答えると、女性を抱え立ち上がる。
「ほら、お前も手伝え。」
「はいよ。任せとけ」
俺はアリウムから女性を受け取り抱き抱える。
「あれ?軽々持ち上げてるけど、結構重いんじゃ…」
ネモアは不思議がる。
だから俺は転生者でスーパーヒーローなんだってば。
「時間はまだ早いから村に戻って木材採取はまた後で来よう」
来た道を戻る事にした。
だが、少し歩くと強烈な悪意を感じ取る。
「な、なんだよ……この感じ……」
ネモアが震えて声を絞り出す。
アリウムは背負っている大剣を抜いた。
「その娘を…置いていけ…」
後ろから男の声。
低く、とても冷たい声。
この世界に来て初めて感じる圧倒的な殺意。
こんな殺意を向けられたら、新米冒険者のネモアとアリウムは恐怖で動けないだろう。
と思ったが、アリウムは振り向かずに答える。
「断る」
きゃーっ!
何このイケメン! カッコいいじゃないか。
女に生まれてたら惚れてたね。
「なら…仕方がない…死ね…」
剣を持った男が駆け寄って来る。
赤い髪、魔族だ。
魔族の男は両手で持ったロングソードを振り下ろしてきた。
アリウムは振り向きざまに大剣で受け止める。
ギィィィンッツと激しい金属音が鳴り響き鍔迫り合いになる。
「何者だ!?」
「ぐぐぐ……があああぁぁ!!!」
問いに答えず叫び出した魔族の男。
震え出したと思うとぼんやりと光を帯びてくる。
筋肉ははち切れんばかりに膨張し、体が二回りも大きくなる。
着ていた服を破り捨て、頭から角が生え始めた。
瞳は赤く変色し、鬼のような顔つきになる。
怪物に変身した!!
「うわぁぁっ!化け物だ!」
突然現れた怪物にネモアは腰を抜かして叫んだ。
「魔人?」
魔物の血を飲んだ人間を魔人と恐れられている。
この世界では、魔物の血を飲むと強靭な力を得る事ができる。
だが、稀な例外を除き、精神が支配されてしまったり、怪物になってしまい、魔物のように人間を襲う存在となる。
目の前にいるのは明らかに魔人、人間の敵だ。
「逃げろ!エーデルッ!!」
アリウムが叫んでいる。
逃げるわけにはいかないのだが……
あっ!そうか!
俺は女の子を抱えその場から逃げた。
「逃がすか!……」
魔人の声が聞こえるが、俺は構わず走った。
少し離れたところで、気を失ったままの女の子を降ろす。
「ここで待っててね」
右手と左手を十字に交差させる。
そして右手を前に突き出し、左手を天にかざし叫ぶ。
「チェーンジ・ブレーーードッ」
眩いばかりの白い光に包まれる。
光が収まると、白銀の鎧に身を包んだ姿に変わった。
『マスター!お久しぶりです。早速ですがお兄様とお友達に命の危険が迫っています。急ぎましょう』
脳内に直接語り掛けて来たのは、ナビゲーションシステムAIのY.U.K.I(Your Ultimate Knowledge Interface)。
何故、この世界でもY.U.K.Iが継承されているのか……考えている暇は無さそうだ。
俺の脳裏に危機的状況が映し出されている。
2人が危ない!!
ネモアとアリウムのところに戻る。
「楽に…してやる…」
倒れているアリウムに魔人はゆっくり近づき、ロングソードを振り上げている。
「待ていっ!」と飛び蹴りが炸裂。
魔人が吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
「……何者だ…」
魔人は驚きながら起き上がり、こちらを睨みつける。
「貴様に名乗る名は無いっ!」
「なに?……」
ビシッとポーズを決める。
「正義と希望の炎を燃やし、悪しき者を裁く刃!異世界よりの使者、ブレードワイス見参!!」
「言ってる」
「名前言ってる」
ネモアとアリウムが何か呟いているが、気にしない。
「お前が何者か知らんが……死ねぇぇぇえ!……」
魔人から凄まじい魔力が吹き出す。
何か仕掛けてくるつもりだ!
「させんっ!!とうっ!!」
高く飛び上がって蹴りを繰り出す。
「ブレード・ストローーング・キィィッック!!!」
渾身の一撃。
右足に伝わる衝撃は確実にダメージが入った証!!
「ぐおぉおお!……」
魔人は後方へ大きく飛ばされ大木に叩き付けられる。
倒れたまま動かない。
やったか?
「ぐぅ…お…おのれ…」
ブレード・ストロング・キックを食らって起き上がるだと?
前世なら中ボスくらいまでなら倒せる威力はあるはずだが……
『マスター。この世界は魔力で身体能力が底上げされるようです。ターゲットは魔力値がかなり高く、前世の悪媒我魔獣より強いと思われます』
マジかい。
確かに今の攻撃でもダメージはあまり与えていないようだ。
Y.U.K.I!稼働時間は後どれ位だ?
『無限です!』
え?なんで??無敵じゃん チートすぎるぜ。
「ならば、手加減はいらない。全力でこのブレードワイスの必殺技を!」
「ソーラーブレイド!」
『ソーラーブレイドを可動します。エネルギーチャージ完了しました。いつでもいけます!!』
左腰に付いている剣ソーラーブレイドを抜く。
テテテテ♩テテテテ♩テテテテ♩テテテテ♩
何故かソーラーブレイドを抜くと体から音楽が流れる。
「何これ?」
「なんで音楽が?」
ネモアとアリウムが何か言っているが無視する。
「ブレイド・ストライク!」
ソーラーブレイドの一閃が魔人に止めを刺す。
魔人は爆発して跡形もなく消え去った。
『ターゲットの撃破を確認しました。ミッションコンプリート。お疲れ様でした』
「今どうして爆発したの?」
「わからない…」
ネモアとアリウムが不思議そうにしている。
「さらばだっ!とうっ!」
俺はジャンプし、空へと飛んでいった。
「飛んでった…」
「飛んじゃったね…」
アリウムとネモアが呆然としている。
「おーい、大丈夫かー?」
俺は変身を解いてネモアとアリウムの所へ戻って来た。
「……」
「……」
2人とも無言だ。
「どうしたんだ?怪我でもしたのか?」
「い、いや…」
「大丈夫だ」
「異世界よりの使者って言ってた」
「絶対エーデルだっ!」
2人が何か小声で話しているがよく聞こえない。
「2人で何をコソコソと話しているんだ?」
「な、何でも無い」
「そうだぞ、何でも無いぞ」
「そっか。それじゃあ一度村に戻ろう」
「うん」「ああ」
俺達は魔族の女の子を担いで村に戻った。