018 綺麗なお姉さんは好きですか?
次の日、俺達は南の人間の街へと来ていた。
魔族の国パラクーパはパラクーパ山脈に囲まれている。
俺の実家の村サンパールはパラクーパの北に位置し、そのサンパールの2,000キロ北にあるのが首都マカレである。
パラクーパやサンパール、マカレは北スレカ大陸に存在している。
今日訪れたのは南スレカ大陸のソトアムヤという港町だ。
ここには、大きな港があり、様々な国の船が行き来しているそうだ。
「おい!テメーどこ見て歩いてるんだ!」
「ああっ?オメーがぶつかって来たんだろうがっ!」
目の前では柄の悪いチンピラ達が揉め事を起こしている。
冒険者だよな。あれ。
新しい街に来ると起こるトラブルの一つ、テンプレ的展開。
こういうのを見ると、異世界に来たんだと実感するよ。
「エーデル、巻き込まれると面倒だから、離れましょう」
リゾンが小声で囁く。
確かにあんな奴等に関わり合いたくないよな。
「あなた達、ここで暴れるのは迷惑です。場所を変えて続きをした方がいいんじゃありませんこと?」
揉めてる2人の冒険者に1人の女性が声を掛けた。
その女性は、金髪の長い髪を後ろで纏めた美しい女性だった。
全身鎧で覆われているが、スタイルが良いことが分かる。
身長は165センチ程だろうか。
顔立ちはとても整っており、青い瞳と整った鼻筋、赤い唇。
まるで西洋人形のような美少女であった。
際立つのは赤いメッシュの入った金髪である事。
こんな綺麗な髪の色初めて見たかも。
「なんだ姉ちゃん。邪魔すんのかぁ~。痛い目見たいようだなおいっ!!」
2人の冒険者は剣を抜き女性の方へ向けた。
ドカッ!
気がついたら俺の飛び蹴りが一人の男の腹に入っていた。
男は勢いよく吹っ飛んでいき木箱に当たって気絶した。
いゃ〜、ついやってしまった。
綺麗なお姉さんに絡んでいるのが悪いんだよ。うん。
「痛い、痛い、ごめんなさい。もうしませんから…」
もう一人は?と思ったら綺麗なお姉さんに腕を捻り上げられていた。
あんなにイカつい男が涙流して謝っているぞ……。
「エーデル!」
リゾンに問題を起こすなと腕を掴まれその場を後にする。
ガベラ・スノーク・カミールはどうしても俺に対して遠慮があるようで、リゾンが代わりに色々注意してくれるようになった。
「あ、君達!」
綺麗なお姉さんから声を掛けられたが、無視して足早に立ち去る。
「ねぇ、追いかけて来たわ」
リゾンが振り返って言う。
うわー、やっぱりか。
「影のまま散れ」
スノークが影を散らす。
「こっちへ」
スノークの誘導で街中を移動する。
路地裏に入り人気の無い場所を進む。
影で綺麗なお姉さんを感知しながら撒くという作戦だ。
面倒臭いという理由だけだが、俺達の今日の目的、魔石の換金に差し支えるといけないので仕方ない。
暫く歩いていると、やっとお姉さんの気配が消えた。
どうやらと諦めたらしい。
だが、あの綺麗なお姉さんは一体何者だったんだろう。
「あっ!」
「どうしました?エーデル様」
「いや、なんでも無いよ」
と、誤魔化すが、実は気になる事がある。
髪のメッシュが赤かったのだ。
俺の考えは可能性あるのか?Y.U.K.I
『マスター。人間と魔族に遺伝子的な違いはありません。つまり人間と魔族のハーフは理論上あり得ます』
逃げるべきではなかったかも……
「スノーク、さっきの綺麗なお姉さん、まだ感知できる?」
「あぁ、まだ念の為影で感知してる。もう追ってきていないようだが、用心のためにね。何かあるのかい?」
「そのまま暫く感知していてくれ」
「じゃあ、彼女の影に一体影を宿らせよう。強い影だと勘付かれるかもしれないから弱い影にしておかないとな。でも、どうしてそんな事を?」
「万が一の可能性だけど、人間と魔族のハーフっているのかなと思って。ほら、髪の毛に赤いメッシュが入ってただろ。あれってもしかしたら……」
俺の言葉に皆は黙ってしまった。
そしてリゾンが口を開く。
「人族と魔族の混血。もしそうならこれまで大変な生き方をしてきたのでしょう。しかし、私達の目的人族と魔族の共存には必要な人かもしれない」
確かにそうだ。
人間の街でも魔族の街でも、差別される存在だろう。
だけど人間と魔族の橋渡し役としては最高の人材じゃないか。
「影はすでに宿らせたから、あのお姉さんの行動はいつでも把握できてる。取り敢えず魔石が売れるお店に向かおうか」
魔力が宿る魔石。
エネルギー源として、様々な物に応用されている。
電池とかバッテリーのような物だ。
使った魔力は時間と共に回復するので、半永久的に使えるのである。
照明器具の電力の代わりやコンロみたいな火を使う器具のガスの代わりなど、生活用品にも使われている。
また、宝石としての価値もある為、装飾品としても人気がある。
装備品などの装飾や戦闘用魔道具。
需要がとても高いのだ。
魔石店という店もあれば、宝飾品店などで売買されている。
もちろん冒険者ギルドなどでも買い取ってくれる。
直接魔石の需要がある鍛冶職人や宝飾品の加工職人に売るのも一つの手だし、闇市と呼ばれる所で売るのもありだが、俺達は今後大きな商売をしていくつもりなので、信頼のおける店で売りたい。
まずは魔石店での売却からだ。
「すいませーん。魔石の買取をお願いしたいんですけど、いいですか~!」
店の奥に向かって声を掛けると、中年の男性が出てきた。
店の主人だろうか?
「いらっしゃ……なんだ子供じゃないか。ここは子供の来るところじゃないぞ。親はどうしたんだ?」
俺は少しムッとしたが、すぐに笑顔を作る。
「お使いで魔石を売りに来たんです。沢山あるから、ちゃんと正規の相場で買い取ってくれる店を手分けして探してるんです。ねっ!みんな!!」
と、言うと、後ろにいたリゾン、ガベラ、スノーク、カミールが一斉にうんと返事をした。
「なるほど、そういうことかい。まぁ、良いさ。どれくらいの量を持ってきたんだい?」
店主が聞いてきたので、鞄の中から小さな袋を取り出す。
鞄の中は魔石いっぱいなのだが、敢えて大量の魔石を見せつつ、一部だけを渡す。
鞄の中を見た瞬間、店主の顔が驚きに変わる。
そして、渡した小袋の魔石を鑑定してみると、確かに本物のようだと驚いている。
「こりゃ驚いたな。こんな子供がこれだけの量の魔石を持ってくるなんて……。なぁ、鞄の中が少し見えてしまったが、その鞄の中身は全部魔石なのか!?」
と、聞かれたので、
「はい、ただ同じお店で全部売らないように言われてますので、この小袋の分だけここで買ってもらいたいのですが……」と、言ってみた。
「あ、ああ、それは問題ないよ。それにしても凄いな。うちでもそんな鞄の数の魔石を扱った事がないからな。ちょっと査定に時間が掛かるかもしれないが良いか?」
本当は今すぐ欲しいのだが、仕方が無い。
他の店を回りたいので預かり証を発行して貰った。
この港街ソトアムヤには魔石店が10店以上あるらしい。
10店舗を同じように周り1店舗目に戻って来た。
金額は300万ゴールドだった。
Y.U.K.Iの想定より少し高い。
魔石は需要が有るためすぐ売れる。
他の店でも売る事を匂わせ競争を煽った事で、価格を高くしてくれたのだろう。
結果的にどの店舗でもほぼ同額の値段になったが、最後の店は他の店の結果を聞いて来た。
「他のお店はいかがでしたか?」
聞かれたので、正直に答えた。
「やはり、適正相場より少し高くしてきましたね。いかがでしょう。私の店では1割増しで買い取りましょう!その代わり鞄の魔石全部売って頂けませんでしょうか? 」
「半分までなら可能です。どうですか?」
「それならばそれでお願いします。ありがとうございます!また機会がありましたら是非当店をご利用ください」
残りの半分は感じの良かった3軒目の店に売る事にした。
10軒目は大手の魔石商で3軒目は豪商だった。
どちらもやはりビジネスチャンスに嗅覚が優れているのだろう。
交渉に熱が入っていた。
今日は23億ゴールドになってしまった。
恐るべしY.U.K.Iの作戦。
この後のプランも完璧だ。
世界中の魔石の需要を上げる為に、魔導具を開発するとの事だ。
魔導洗濯機と魔導列車を作るそうだ。
魔導洗濯機は大人気商品になる事は間違いないだろう。
魔導列車はマカレとサンパールとソトアムヤを繋いでくれるのだろう。
俺達の村サンパールが大都市になってしまうな……
だが、Y.U.K.Iでもまだ理論構築の段階で実用化の目処はまだ立っていない。
だが、絶対に出来ると信じている。
魔石は、あまり売りすぎると需要と供給のバランスが崩れ魔石の相場が下がってしまう。
ここで一旦手を引く事も重要だ。
俺達は昼食をする事にした。
「美味しい物がたべたいのです。」
カミールが言う。
「エーデル。さっきのお姉さんがちょうど昼食に食堂に入ったみたいだ。偶然装って入ってみる?」
「そうか、俺達の今日の目的は達成したし、その店にしようか」
「緊張しますね…あの状況からの再会…」
ガベラが不安げにしている。
大丈夫だよ。きっと上手くいくから。




