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016 転生者リゾン姫

 次の日、ラシューリ伯爵をレーヴァテウルスに乗せ王城へ赴いた。


 魔族の国パラクーパの王。

 つまり魔王である。

 人間の住む地域で《魔王が現れた》という言葉がある。

 魔族の国には王様が常にいるので、魔王は常にいることになる。


 魔族差別が関係しているのだろうか。

 例えば人間と魔族が戦争になった場合、《魔王が攻めて来た》と《魔王が現れた》では意味合いが変わってくる。

 突然現れて攻めて来たと捉えられる方が、人間側には脅威度が高い。

 魔族差別主義者による工作だろうか。


 国王とラシューリ伯爵の信頼は厚いらしく、謁見はすぐに叶った。


 ガベラ・スノーク・カミールは伯爵邸にいても構わないと国王から了承は得たのだが、他の貴族の目もあるので3人には旅に出て貰うとラシューリ伯爵は言った。

 国王はそれならば一緒に一人連れて行って欲しいと言った。

 その一人とは転生者で国王の孫娘なのだと言う。

 しかも8歳児の女の子らしい。


 名前はリゾン。

 ガベラ・スノーク・カミールに俺を含めてリゾンの旅の護衛として同行して欲しいと頼まれた。

 護衛というのは大義名分であって、旅に出たいリゾンとガベラ達の都合の利害の一致である。

 強くなりすぎたガベラ達にとってリゾン姫の護衛という立場は非常に有難いものだ。

 リゾン姫も目的は無く、ただ旅に出たいだけらしい。

 俺達は謁見後、リゾン姫に挨拶をしに行った。


 リゾン姫の容姿はとても可愛かった。

 真っ白で艶やかな肌。

 長く美しい黒髪。

 整った小さな鼻。

 大きな黒い瞳。

 将来はこの国で一番の美人さんになること間違いなしの美少女だった。

 ただ、表情はどこか暗い感じがする。

 あまり感情を出すタイプではないようだ。

 年齢よりも大人びた印象を受ける。

 転生者だから大人びて見えるのは当然かもしれないけど……。


 でも、子供の体だと知識はあっても少し精神年齢下がるんだよね。


「初めましてリゾンです。これからよろしくお願いします」


 そう言って丁寧に頭を下げてくれた。

 丁寧過ぎだろ! 8歳の子供とは思えない。

 あ、転生者か。


 カミールとは知り合いだったらしく会って早々ハグしていた。

 カミールも嬉しそうだ。

 リゾンとカミールは同い年なので仲が良いみたい。


「エーデル様、少しお話ししたい事があります。宜しいですか?」


 リゾンが突然そんな事を言い出した。

 他の人には聞かれたくないらしく、場所を移すことになった。


 場所は庭園の中にある東屋。

 庭師達が手入れをしている花々を見ながらお茶を飲む事が出来るようになっている。

 席に着くと紅茶を一口飲み一息ついた。

 リゾンは話を始めた。


「エーデル様は転生者とお聞きしました。本当なのでしょうか?」


 あーそれか。

 隠すような事でも無いと思う。

 それに嘘をつく必要もない。


「あぁ、俺は…私は異世界からの転生者です。日本という国の人間でした」


 正直に答えた。

 すると、驚いた顔をして固まってしまった。

 あれっ、何か変なこと言ったかな?


「あの、どうかされましたか?」


 恐る恐る聞いてみた。

 暫く沈黙が続いた。

 そしてリゾンの口から出た言葉を聞いて衝撃を受けた。


「私と…同じですね……」


 えぇ~!!! リゾンは自分が日本人だったというのだ。

 どういうことだ!? 詳しく話を聞かせてもらった。

 さらに衝撃的な事実を知った。


 前世の生まれは戦国時代。

 尾張那古野城内で生まれた。

 名前は秀子。


 またの名をお市。

 お市の方!!

 マジかーーっ?


「旅に出たい理由は?」

「薄々感じているのではないかと思いますが…」


 俺の質問に対して言葉を濁している。

 だが、秘密にしたいというより、こちら側の気持ちも考えての事だろう。


「この世界に生まれてからすぐに感じとっていました。この世界の何処かに兄がいると。しかし、私が動けるようになる頃には繋がりを感じなくなってしまいました…」


 やっぱり兄絡みのようだ。

 ま、そうだろうとは思っていたけどね。

 お市の方が動きたい理由といえば、三人の娘達、茶々、初、江の事か、浅井長政の事か、兄の事だろうから。


「織田信長がこの世界にいると?」


 黙って小さくコクリとうなずいた。


 悪い予感しかしない。

 このフラグは悪に堕ちた信長とか、敵として出てくるパターンだよね……


 戦略に長け、固定概念を持たないイノベーシヨンの持ち主。

 柔軟な対応力はこの世界ではかなり有利になるはずだ。

 人心掌握術にも長けていたはず。

 カリスマ性もあったと聞く。

 敵に回したら厄介極まりないだろう。


 Y.U.K.Iどう思う?


『マスター。織田信長がこの世界に転生した場合のシミュレーションを行います。私のデータバンクには織田信長の性格について仮説が多数あるため、どの性格が該当するかを判断できません。ですが、現状で想定しうる可能性として、3つの可能性があり得ます』


 3つかよ……。


『1つ目、悪に染まり、人類の滅亡を目論む者』

『2つ目、悪神達と手を組み人類を滅ぼす事を企む悪の首領』

『3つ目、悪神達を配下にし、世界を支配すべく行動を起こす者』


 全部悪じゃねぇ~か!

 民衆の為とか、天下布武はどこ行ったんだよ。

 しかも、悪神達と結託してるとかなんだそれ。


『マスター。悪神達との繋がりが高確率と推測します。この世界は善神と悪神の戦いの舞台であり、悪神の筆頭が魔神アンラ・マンユと判明しています。アンラ・マンユには善神を悪神に堕とす能力があるとされています』


 ふむふむ、それで?


『アンラ・マンユには6柱の仲間がいます。その内の1柱サルワは破壊神シヴァが元になっています。サルワ=シヴァとなります』


 ふむ、で織田信長との関係は?


『織田信長と言えば第六天魔王と自ら名乗り、仏の教えを否定し、敵対する者をことごとく殲滅しました。その為、仏教の守護者である不動明王からは敵対視されます。そこから比叡山焼き討ちに到るまでの経緯は有名ですね。さて、第六天魔王とは仏教における強大な魔王で、ヒンドゥー教のシヴァ神が起源といわれています』


 いや、自ら名乗っただけで、実際信長が第六天魔王だった訳じゃないだろ。


『確かに推測の域を出ませんが、アンラ・マンユの勧誘は繋がりが強い者を連鎖的に悪の側へ引き込む可能性が高いと思われます。自ら名乗り400年以上も織田信長は第六天魔王と知られています。それは信仰など比較にならない程強い繋がりと言えるでしょう。織田信長とサルワの関連性は間違い無いと考えます』


 なるほどね。

 ついリゾンの前で頭を抱えてしまった。


「どうなされたのですか?」


 俺の様子が気になったのであろう。


「で、リゾン姫は旅に出て何をしたいのですか?織田信長を探したいだけでしょうか?」

「三郎兄様を探し、悪に堕ちているのであれば止めなければなりませぬ」


 やはりお市の方なんだな。


「私達と旅をしても織田信長と会えるとは限りませんよ。この世界は広すぎです。この魔族の国パラクーパですら日本に匹敵する領土です。世界中を探すなら何年掛かるかも分かりませんし、仮に見つけたとしても止められるかも不明ですよ」


 だが、リゾンは目を逸らさず真剣に見つめてきた。

 凛としていて美しくもある。

 これは意志の強さを表しているからだろう。

 その目を見て俺は覚悟を決めた。


「リゾン、君の意志はとても固いようだ。分かった、協力しよう。但し、約束して欲しい事がある。仲間になった以上敬語と様付けを止めて貰いたい。俺も堅苦しい言葉遣いを止める。これから一緒に行動していく仲だ、いいね」


 そう言うと少し驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔になり嬉しく思った事を素直に伝えてくれた。


「ありがとう。よろしくね。エーデル!」


 こうして、俺達はラシューリ伯爵邸に戻る事にした。

 レーヴァテウルスの背中でリゾンは大興奮である。

 空を駆ける飛竜の背中からの景色は最高らしい。

 その気持ちはよくわかる。

 俺もブレードワイスに変身すれば空を飛べるのだけど、周りの景色を見る余裕は無い。

 首を動かすとそっちに方向転換してしまうから前しか見れない。


「カミール、このレーヴァテウルスの名前は何ていうの?」


 リゾンがカミールに聞いた。


「それが、レーヴァテウルスだから略してレウスと名付けたらエーデルが駄目だと言うのです。まだ名前は付いていないのです」


 うん、その名前は駄目だぞ。

 レウスはギリシャ後で王の意味だが、レウスと言えばあっち思い浮かべる。

 見た目も似てるからな。


「テウルってどうだい?」


 するとカミールは納得してくれたみたいだ。


「じゃあ、今日から君はテウルなのです。よろしくなのです。テウル」


 テウルと名付けられた飛竜レーヴァテウルスは小さく鳴く。

 気に入ったかな? そのまま飛び続けて屋敷に着いた。

 ラシューリ伯爵もすぐに旅立たなくても、旅の目的がはっきりするまでゆっくりしていけばいいと言ってくれた。


 今日はもうゆっくりして、明日皆で旅の打ち合わせをする事にした。

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