011 サンパールの村へ帰ろう
ラシューリ伯爵の屋敷にたどり着いた時には日が落ちかけていた。
ブレードワイスのまま屋敷に忍び込む。
あら?
戦闘は終わっているみたいだ。
俺は変身を解除して扉を開ける。
ラシューリ伯爵の偽物は追い詰めると魔人化したらしい。
そのままアリウム・ネモア・レスナ・レニュー・センカで倒したそうだ。
「いやぁ、結構ヤバかったぜ」
「でも、魔人に遭遇したの2回目だしね。何とかなったよ」
魔人化直後、レスナ・レニュー・センカが動揺したものの、アリウムとネモアがすぐに動いたらしい。
それを見て、レスナ・レニュー・センカもすぐに持ち直したそうだ。
ガベラ、スノークが本物のラシューリ伯爵の護衛となり、センカが魔人を引きつけ、アリウムとレスナが手数で攻め、レニューがサポートしネモアが大打撃を与えるといういつも通りの連携だったようだ。
最後は全員で止めを刺したんだとか。
やはりこのパーティーは強い。
だが、クーデターの全容は分からず、痕跡も途絶えてしまった。
スラム街の建物の中の心臓は魔神の心臓である事が分かった。
すぐにスラム街の建物に向かったのだが、心臓はすでに無くなっていた。
俺達が到着する前に何者かに持ち去られていたのだ。
そして、オダマの死によってクーデターの痕跡は全て消失してしまった。
クーデターの情報はオダマが全て所持していたため、オダマが亡くなった今、他に知る者はいないのである。
あの後、俺は研究室の別施設に再び訪れ施設内をくまなく調べた。
ラシューリ伯爵との会話と研究室の研究員との会話。そして施設内の資料からY.U.K.Iに分析をさせたが、クーデターの核心には辿りつかなかった。
魔法使いオダマ。
彼はシロだったようだ。
ルチカの研究成果を自分の成果にしていたのは、優秀なルチカがやっかまれない様にする為の工作であった。
ルチカに対しての日々のセクハラもルチカが同情される為に行っていたものだった。
人間の国で解放の儀式を行っているルチカは成果を出せば出すほどに妬みを買いやすくなり、その事を心配していたオダマが庇っていたのだ。
ラシューリ伯爵にだけはルチカが優秀である事を話しており、ルチカはいずれ重要ポストに就けるように手配をしていた。
さらにオダマ自身は、寝る間も削ってクーデターの情報を探り、心臓を調べる日々を送っていたようだ。
地図に関しても誤解があったようだ。
偽伯爵の策略だったようである。
その時点でラシューリ伯爵が偽物である事は知らなかったオダマは伯爵のミスと思い罪を自分で被ったらしい。
牢でラシューリ伯爵と魔人と遭遇した場面は、異変を察知しラシューリ伯爵を助けに来た所だったと推測する。
ブレードワイスに驚いて逃げてしまったようだ。
全て推測だが、何とも救われない結末だ。
オダマという人物はただ不器用だった。
ルチカとオダマ、もっとコミュニケーションを取っていれば違った未来もあったかもしれない。
いや、それは俺にも言える事だ。
オダマの事を昭和の駄目中間管理職なんて先入観を持たずに、ちゃんと話をしておけば良かったんだ。
ルチカに対してもそうだ。
もっと親身に話しを聞いてあげれば、何か変わっていたかもしれない。
俺はただ悪い奴を倒すという事しか考えてこなかったが、相手の立場になって考えるという事が足りていなかったと思う。
今回の件では、自分がまだまだ未熟だという事が分かった。
一件落着とまではいかないが、取り敢えずの脅威は防げたと判断した。痕跡も途絶えたため、これ以上クーデターの調査は不可能でもある。
ラシューリ伯爵の依頼はこれで終了である。
だが、クーデターの全貌は分からず、魔神の脅威という大きな問題がある以上、俺はこの魔族の国パラクーパとの交流を続けていきたいと考えている。
「そこで、俺に何か理由をつけてこの国と行き来する許可を貰えないでしょうか?」
俺の提案にラシューリ伯爵は少し考えてから答えた。
「文化交流や技術交流も考えられるが、我が国としては人族の国との貿易がしたい」
確かに交易をすればお互いの利益になるだろう。
しかし、国交を開くにはそれなりの手順を踏む必要がある。
「転生者とはいえエーデルは8歳なので、外交の交渉をするには無理があります。もちろん私やネモア、センカも新米冒険者です。王族でも貴族でもない平民出身のE級冒険者が外交の仕事に携われるとは思えません。冒険者であればせめて特Aライセンスが必要かと思います」
アリウムが冷静な口調で言った。
関税とかの問題もあるはずだしね。
「商業ギルドを通せば他国との取引は可能なので、魔族の国でも例外では無いはずです。誰か商人に仲介を頼むというのはどうでしょう? 大きな取引は国を通す必要がありますが、小さな商いでしたら個人間でも可能なので、そこから広げていくのはどうでしょう」
センカが提案してくれた。
なるほど、そういう方法もありなのか。
قەھرىمان
「え?ガベラとカミールが着いて来るの?」
「はい、この機会に人族との交流を深めようという事になりまして、私とスノークとカミールはエーデル様のお供をする事になっています」
ガベラはニコニコしながら答えた。
俺達の意思に関係なく勝手に決められたようだ。
確かに交流は必要だし、俺が魔族の国パラクーパと行き来するのに都合はいい。
だが、色々問題あるんだよなー…
「俺とネモアとレスナは兄妹なわけだが、俺ん家は兄妹沢山で貧乏だから一緒に暮らすのは難しいと思うぞ!」
ネモアとレスナはウンウン頷いている。
「いえ、エーデル様と同じお屋敷に住む訳ではありませんよ。以前と同様に村長様の家に住まわせていただくか、家を建てて住むつもりです」
「魔族が家を建てちゃまずいんじゃないか……」
「そうだな。人間の村に魔族の家を建てるって色々まずいよな…」
アリウムが苦笑いしている。
「それでは村の外に家を建てるのはどうでしょう」
「もっとまずいわよ。侵略してきたと思われても仕方ないわ。それにそんな目立つ事をしたら人間達から攻撃されるかもしれない。それは避けた方が良いわ」
レスナの意見はもっともだった。
「まぁ、帰ってから村長に相談するしかないかな……」
「また、村長怒るよねー」
ネモアに続いてレニューが笑いながら言った。
俺達は明日魔族の国パラクーパを出てサンパールの村に帰る。
山脈を越えればすぐサンパールの村なのだが今後この道程のことは考えなければいけない。
冒険者が行き来するならまだしも、貿易をするような道ではない。
貿易を考えると流通路の整備が必要になってくるだろう。
時期を見てブレードワイスでトンネルを掘ろうと思ってはいるが。
山脈を隔ているとはいえ、隣国である俺達の国スレカは過敏に魔族の国パラクーパを警戒してきた。
スレカ王国とこの魔族の国パラクーパがお互い容認し合って共存共栄できれば良いのだが……。
「それと、今回は私達、解放の儀式を行いたいと思っています」
「え?魔族って解放の儀式受けれるの?」
ネモアが驚いて聞いた。
「魔族と言っても魔力が多いだけで人間と変わらないからな。出来るんじゃないか?」
アリウムがそう言うと、皆納得してるようだった。
「動物でも解放の儀式を行えるのよ」
「「「ええぇーっ!?そうなのぉ~!!」」」
レニューの衝撃発言に皆は驚きの声をあげた。
レニューは巫女というジョブ特性上、神に関わる解放の儀式の知識が豊富らしい。
「ちなみに、動物を解放させるとどうなるの?」
「魔力が使えるようになって、身体能力も上がる。でも動物だからね。トレーニングしたり魔法を覚えたりしないから、調教師とか動物使いの人がいないとあまり意味はないかもね」
そうなのか?
馬とか解放させたら速く走れそうだけど…
まあ、考えてみたら、もし解放させて逃げ出されたりしたらえらい事になるか。
そんな感じで俺達は数日掛けて村に帰って来た。
「無事に帰って来たと思ったら、お前達は…」
村長は相変わらず眉間にシワを寄せていた。




