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010 最悪の事態

 第二魔法研究室

 研究室と言っても研究所というべき施設でいくつか部屋がある。

 施設内は日の明かりが射さず薄暗い。

 魔石による明かりはあるが、暗い部屋でテレビやパソコンだけが点いている程度の明るさだろうか。

 オダマは施設のエントランスからすぐの大きな部屋で胸を貫かれて倒れていた。


「ウフフ……アハハハハ……アハハ……」


 どこからともなく笑い声が聞こえる。

 女性の声だ。

 声は反響していてどこから聞こえてくるのかは分からない。


『マスター。隣の部屋にもう一つの生命反応があります。向かいましょう』


 部屋のドアを開けると女性が立っていた。


 こちらに向かって女性が歩いてくる。

 紫色の髪の女性、年齢は20代前半。


 あれは?ルチカ?


 いや、違う。

 彼女はこんな邪悪な笑みを浮かべたりしないし、こんな所にいるはずがない……


 ここは魔法研究室の別施設…

 ルチカがいてもおかしくないのか?


「あら?…あなた…変な格好してるけど…エーデル君ね…アハハハハ」

「ルチカ…なのか?」

「えぇそうよ。…よく分かったわねぇ。…ウフフ…アハッ…」


『マスター。彼女は魔法研究室研究員ルチカと断定します。ルチカは魔人化しているようです。精神が不安定で自我はほぼありません。討伐ターゲットと認定しました。戦闘モードに移行してください』


 ルチカが魔人化して目の前にいる…

 ルチカが討伐対象?

 そんなバカなっ!


「お前は!お前は誰なんだ!」


 頭が混乱している。思考が追い付かない…


「あぁん…、酷いわぁ~…、忘れちゃったのぉ~…、私の事ぉ…研究員の…ルチカよぉ……。アハッ、アハッ、アハッ、アァッ、アハアァッ!!」


 彼女の体が膨れ上がっていく。

 肘の下から前腕が増えて6本の手になっていく。

 頭は猪のような牙のある巨大な口に変わっていく。


「あの時…あなたが…引き止めなければ…こんな事にならなかったのに…アハハハハ…でも…優しくしてくれたし…可愛いから…私が殺してあげるわぁ…」


 彼女が飛びかかってくる。

 速い! 咄嵯に避ける。

 避けた先に回り込まれていた。

 後ろに飛び退く。

 くそっ、なんて速さなんだ。


「アハッ、アハハ、逃げても無駄だよ。私は速く動けるんだから。……アハッ、アハハハハハハハハハ……」


「オダマを殺したのは、お前か?」

「アハッ、アハハ、殺したわ。私が……だって…わかるでしょ………私は………」『私は、神、ヴァーラーヒ。この世界では魔神として招来したようだ』


 何だ?突然雰囲気が変わったぞ。

 口調まで変わっている。

 というか言葉が直接頭に入って来る感じに変わった。

 魔神?


『マスター。魔人ルチカのエネルギー値が上昇しています。この世界で魔神と呼ばれる存在と同等レベルと推測します。注意してください』


 ヴァーラーヒってヒンドゥー教の女神じゃなかったか?


『ヴァーラーヒーはヒンドゥー教の七母天の一神です。ルチカが心臓を取り込みそのエネルギーを吸収したことで魔神化したと推測されます。精神状態が安定していないため、魔神の力を上手く扱えない状態です。そのため暴走していると考えられます』


 ルチカが魔神?

 心臓?あの心臓か?

 別施設で調べてたって…

 ここでか!


 どうする?

 戦うしかないのか。

 ルチカを殺すのか? 俺は彼女を倒せるのか?


『異質なる者よ。そなたから強い力を感知する。我と戦う気なら覚悟せよ。我が力にて葬ってくれよう』


 ルチカの6本の手が剣のような武器の形に変わる。

 まずい、思考が追いつかない!

 感情が切り替えられない!


 魔族の国を変えようと、ずっと勉強してきたんだぞっ!

 ずっとずっと差別に耐えて…

 人間から差別され、魔族からも差別され…

 それでも頑張ってきたルチカが、何故?何故こんな事にっ?


 ここまで追い詰められていたのか?


「アハッ、アハッ、アハハ、死んじゃえぇ!!……アハアアッ、アハアアアアアッ!!!!」


 俺の肩を切り裂いた。

 くそっ、考える暇もない。


「アハアアッ、アハアアアアアアアアアア!!!」


 次々と繰り出される攻撃を避けるだけで精一杯だ。

 このままじゃ殺される。

 やるしか無いっ!


「ソーラーブレイド」

『ソーラーブレイドを可動します。エネルギーチャージ完了しました』


 ソーラーブレイドを両手に持ち構える。


 切り替えろ。

 集中しろ。

 今、目の前にいるのは敵だ。

 やらなければ俺がやられる。

 倒すべき相手なのだ。


 上段から振り下ろす。

 避けられた。

 横薙ぎに振るう。

 また避けられる。


 クソっ!当たらねぇっ!


『マスター。落ち着いてください。魔人ルチカは膨大なエネルギーを所有していますが、戦い方も動きも素人です。ただ、攻撃力とスピードが高いだけです』


 そうだ。落ち着け。冷静になれ。


「アハハッ…何で私に攻撃するのぉ?…私の味方をしてくれないのぉ?アハッ、ねぇ、答えて!」


 ルチカの声に耳を貸す余裕は無い。


「アハアアアアアアアアア!!!」


 今度は下からの3本の腕が切り上げてくる。

 バックステップでかわし距離を取る。


「ソーラーライフルッ!」


 右手で早撃ちをする。


「ギャアァアアア!!!痛いっ、…熱いぃいい!!」


 命中した。

 叫び声を上げながら苦しんでいる。

 ルチカが叫んでいる…


 すかさずソーラーブレイドで袈裟斬りにする。


「アアアアアアァアアーー!!!」


 彼女の悲鳴が響き渡る中、斬撃が当たるたびに俺の心は締め付けられるように辛かった。


 ごめんよ。ルチカ。


「ブレイド・ストライク!」


 最後の一撃を彼女に浴びせる。

 爆発して消え去っていく。


 終わった。


 俺は膝をつく。


 どうしてこうなってしまった…

 何故、彼女は……


 ブレードワイスのセンサーを通して、何かを感じる。


『マスター。漂う魔力よりルチカの残留思念を感知しました。確認しますか?』


 ……あぁ、頼む。


『エーデル君、助けてくれてありがとう』


 これは!?

 言葉と共にルチカの感情が流れてくる。

 悲しみ、苦しみ、絶望、そして感謝。

 そんな想いが伝わって来た。


 この国で生まれ貧しい日々を送っていた時の辛さ。

 多くの出会いと別れを経験し、楽しかった事悔しかった事、嬉しかった事寂しかった事…

 人間の国で勉強した時の差別の苦しみ…

 解放の儀式を受けて魔族からも忌み嫌われ…

 それでも希望を持ち続けて…


 ルチカ。それでも…この世界を、この国を愛していたんだね…


『エーデル君。あのままだと、私は生まれ変わる事も出来ない闇に引き摺り込まれていた。でも、あなたのおかげで、解放された。本当にありがとう。だから、私の事で悩まないで。魔神の心臓に気をつけて…』


 彼女の存在が消滅した事を感じた。


「さよなら……」


 ブレードワイスの仮面の下で一筋の冷たい感覚を感じる。


 何故、こんなことになってしまったのだろう。

 たぶん、クーデターとかそんな次元の話しではない。

 もっと恐ろしい事が起こっている。


 魔神……

 ガベラが言っていた善神と悪神の戦い。

 それが関係しているに違いない。


 なぁ…Y.U.K.I…ルチカが魔人(ベイルスレイブ)になってしまった理由を教えてくれよ。

 お前なら分かるだろ?


『マスター。研究員ルチカは魔神の心臓を取り込み……』


 そうじゃなくて。物理的な話じゃなくて。


『……ルチカのネガティブなエネルギーを、魔神の心臓が察知しルチカに呼びかけたと推測します。ネガティブなエネルギーや悪意あるエネルギーを魔神が利用したのでしょう』


 魔神を全部倒せば、世界は平和になるのか? それとも、また次の魔神が現れるだけなのか?


『データ不足で分かりかねます。ただ、世界を平和にするには魔神だけの問題ではなく、悪意ある人間達の問題もあります。それと魔族との共存は可能と思われます。全ての生物が共存する事。それぞれが共存を理解する事が世界の平和に繋がります。ただし、魔神の脅威を取り除く事が最優先事項と考えます。以上です』


 魔族との共存…

 そうだ、魔族差別なんて無くなれば良いんだ。

 無ければルチカだって普通の女の子として生きていけたはずなんだ。

 ルチカ。

 君の夢は俺が引き継ぐよ。

 国を豊かにする。

 それ以上に。

 差別の無い世界を。


 暫く呆然として動けなかったが立ち上がる。


 皆の所に行かなければ。

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