001 俺の名前はエーデル。変身ヒーローだ。
俺の名前はエーデル。
この世界に来て8年になる。
この世界に来たというのは、異世界転生という奴だ。
信じて貰えるだろうか。
前世で俺は《変身ヒーロー》をやっていた。
更に、前世の前世、前前世は《魔王》だったのだ。
前前世の事はよく覚えていない。
とりあえず、魔界から人間界に侵略したのだが、勇者に倒されてしまったらしい。
おのれ、勇者め! だが、今度はそうは行かないぞ!! という気持ちは全く無い。
だって覚えて無いんだもん。
前世は、地球と呼ばれる星で暮らしていた。
日本という国で自分の家の庭にプレハブ小屋を作って、そこで整体のお店を開業していたのだ。
ある日、奇妙な事件に巻き込まれた。
隣の家に住む双子の女子高生がストーカー被害にあった。
隣の家とは昔から付き合いがあったし、双子とは小さい頃から遊んでいたので、よく知っていた。
常に在宅の俺に隣の親父さんが相談してきて、見張りをしてたんだ。
そうしたら、なんと犯人は教師だったというわけ。
そして、双子がその教師に誘拐され監禁された。
それを知った俺も必死になって助けようとした。
しかし、その教師には敵わなかった。
だって、変身して豚みたいなモンスターになったんだよ。
豚といっても筋肉ムキムキで身長も2メートルくらいあった。
そして、軽々と自転車を棍棒代わりに振り回わす。
殺されるーっと思った時、突然頭の中に声が聞こえたんだ。
『我が力を受け入れよ』
その瞬間、頭にイメージが浮かんだ。
右手を突き出すと火の玉が出る。
ええぇ? 何これ?
豚教師に火が付いた。
でも、俺の手も燃えてるんだけどーーっ?
俺は魔王の生まれ変わりだったらしいが、人間の体では魔法に耐えられなかったようだ。
折角魔法が使えるのに、耐えられないなんて残念過ぎるーっ。
だが、更にとんでもない事が起こった。
一緒に連れて来た我が家のハスキー犬が喋った!
実は科学者の爺ちゃんが作ったロボット犬だった。
そしてウスユキが『マスター!変身してください!』って言ったんだ。
はい?
犬が喋るわ、ストーカー教師は豚の化物になるわ、俺は魔王の生まれ変わりだとか、もうまったく思考が追いつかない上に変身ってなによ?
『マスター。右手と左手を十字に交差させ、右手を前に突き出し、左手を天にかざし、チェーンジ・ブレードと叫ぶのです!』
「……」
そんな恥ずかしい事をやれだと!?
と、いつもなら思うのだが、その時は思考が追いつかず言われるがままに。
「チェーーンジ・ブレーードッ!!」
光に包まれ、体中から力が溢れる。
光が消えると、全身白銀の鎧で覆われていた。
スーパーヒーロー・ブレードワイスの誕生だ。
俺は爺ちゃんに改造手術をされていたらしい。
なんて鬼畜なマッドサイエンティストジジイなんだ。
まぁ、高校生の時にバイク事故で死にかけた時に、改造手術をしたので命を助ける意味もあったらしい。
なにしろ格好いいから許した。
右腰にあるソーラーライフルは破壊力抜群の光線銃。左腰にあるソーラーブレイドは切断力抜群の高温プラズマの剣。
魔王の力も使えるこの体。
チートすぎる!
「ブレード・バーニング・ナックル!」
魔王の力を拳に宿らせブン殴る!
そして、ブレードワイスは豚教師を倒したのだった。
豚教師は新たな魔王の配下だった。
新たな魔王が人間世界に侵略してきて、秘密結社と手を組み世界を混乱に陥れようとしていた。
魔王の配下達を秘密結社の科学力で改造した悪媒我魔獣が日本を襲う。
何気ない日常がカオスな世界に激変。
俺は長い戦いの末、新たな魔王と秘密結社を倒した。
なんかしらんが敵と戦うたびに美女と出会う。
何故かみんな俺の彼女になるというウハウハ謎展開。
ハーレム生活を堪能しつつ、平和が訪れたのであった。
大変な事も沢山あったが、最終的に楽しい人生だったと思う。
そして、俺は愛する人達に囲まれながら息を引き取ったのだった。
قەھرىمان
気がつくと転生してた。
名前はエーデル、さっき言ったか。
この世界は魔物がいる。
言い伝えでは、《絶対悪》が存在するらしい。
この絶対悪を倒す事が使命なのだろうか。
さて、この世界では5歳になると《解放の儀式》というのを受ける。
儀式と言っても大袈裟なものじゃない。
教会や学校などにある解放の間という場所でお祈りをするだけ。
すると《ジョブ》というステータスが解放され魔力が使えるようになるらしい。
ジョブは戦士とか魔法使いとか商人とかいろいろある。
解放の儀式を行う為に教会に来た。
儀式を行う解放の間は何でもない空間に柱が6本立っている。
何でもない部屋だけど、澄んだ空気で心が落ち着く。
窓からは日が差し込み、室内を明るく照らしていた。
神々しい雰囲気がある。
これから力を授かるというのだから、気持ちが昂ってワクワクする。
俺の解放されたジョブは……
《スーパーヒーロー》だった……
え?マジで?
家族が多くて一人になる事少ないし、出来ると思って無かったから試してなかったんだよ。
前世の変身。
そもそもブレードワイスは肉体を改造してるから、前世と違う体で変身出来るわけないだろ。
どうしよう……とりあえず試してみるか。
恥ずかしいので、誰もいないところでこっそり試す。
「変身!」
シーン……何も起こらない。
もう一度やってみた。
「変っっ身っ!」
シーン…… やっぱりダメみたい。
違う!変身どうやるんだっけ?
右手と左手を十字に交差させ、右手を前に突き出し左手を天にかざしチェーンジ・ブレードだっ!
俺の体は光に包まれ全身白銀の鎧に覆われている。
身体中から力を感じる。
おおぉ、変身出来た。
理屈はまったく分からない。
まぁ、前世でも分かっていなかったけど。
ブレードワイスになったの何年振り?
魔王倒してから人生の後半あまり変身してないから、20年振りくらい?
でも、この世界では変身しない生身の体でも結構チートすぎる程チートなのに、その上変身出来るなんて反則だよ。
なるべく人に見られないようにしよっと。
そして俺は8歳になった。
俺はこの世界に転生した使命を探すために将来冒険者になろうと思っている。
冒険者とは各地にある冒険者ギルドという所で仕事を受けてお金を稼ぐ人達のこと。
俺は世界を救わなきゃならないんだ!
ん?使命が世界を救う事なのか? よく考えたら、俺別に世界を救う為に転生したと決まってないな。
まぁいい、とにかく冒険者になって世界を回る。
世界を旅して色々な所を見て回りたい。
前世は基本東京からあまり出なかった。
ビルのジャングルにアスファルトの大地。
整備された空調に整備された交通機関。
そして、電気とガスで快適に動く家具家電。
俺がいた前世は便利な物が沢山あった。
けど、出来上がったシステムの中で生きるのは窮屈でもあったよ。
道行く人たちも疲れた顔をしてた。
この世界なら自由に生きられる。
もちろん自由には大きな責任がある。
守ってくれる人はいないのだ。
だが、俺は自由を選びたい。
早く冒険者になりたい。
旅をして戦う事なら今でももう出来るのだが、お金が稼げない事には生きていけない。
なので、冒険者になる事は決定事項だ。
10歳になると冒険者になれるチャンスがある。
通常、冒険者は15歳からだが、特別な功績を残すと10歳でなれるらしい。
後、仕事をするにはA級ライセンスの冒険者に帯同してもらう必要がある。
後2年。
そろそろ何か功績を上げておきたい。
さて、どうやって功績あげる?
冒険者クエストを受注するのが一番早いけど、クエストを受注するには冒険者になる必要がある。
俺は冒険者になる為に功績を上げたい。
詰んでるではないか。
A級ライセンスの冒険者なんかもコネが無い。
どうしたものか。
生まれた家は貧乏子沢山で兄妹沢山。
一番上の兄ネモアが15歳になって冒険者になった。
俺より弱いのに。
ネモアは金髪で天然パーマ、顔はそこそこカッコいいけどニキビ面でちょっと残念。
もうちょっと年齢重ねてニキビが消えればモテそうなんだけどな。
筋肉質で背も高く優しい性格。
俺の自慢の兄だ。
ネモアの一つ下の姉ちゃんレスナも14歳で来年冒険者になるらしい。
レスナは金髪ロングヘアで美人。
俺の自慢の姉ちゃんだ!
身長は普通だがスタイル抜群。
性格も男っぽくてサバサバしてるけど、実は優しい奴だ!
ネモアは《木こり》レスナは《剣士》
木こりのネモアはどうか分からないが剣士のレスナは冒険者になっても大丈夫だろう。
俺が鍛えてA級にすればいいじゃないか!何故それに気づかなかった!
「という事で、ネモアとレスナは俺が鍛えてあげよう。感謝するように。」
「エーデル、突然何を言っての?」
「そうだよ。あたし特訓で忙しいの」
家族に転生者である事を告げていない。
面倒臭いから……。
なので、普通の子供を演じていた。
「フフッ、実は俺、転生者なんだ。」
ドヤ顔で言ってみた。
「……」
「……」
あれ?反応無し?
「エーデル、夢と現実の区別がつかなくなったんだね。可哀想に」
ネモアが生暖かい目で見ながら呟いた。
えぇー?
信じてもらえないだと……。
「じゃあ、実際戦ってみようぜ」
2人に模擬戦を挑んでみる。
「いいぞ。返り討ちにしてやる!」
ネモアがノリノリで承諾する。
「仕方がないなぁ。相手してあげる」
レスナもやる気満々。
俺は庭に出て2人と向かい合う。
そして、構えた。
「いつでもかかって来な。エーデル」
ネモアは斧を構えながら言う。
俺は一瞬でネモアの斧を叩き落とす。
「え?」
ネモアは状況が飲み込めず呆然としている。
次の瞬間、レスナの剣を蹴り飛ばす。
「はい。終わり」
「えぇっ?嘘だろ。何が起きたんだ?」
ネモアは混乱しているが、レスナは冷静だった。
「今のはどうやったの?」
「素早く動いただけだよ。」