疑似魔神ジャズ No.2 剣聖の相棒
フレイヤ地方の地殻より巨大な鰻が釣り上げられた。トゥナ・ロアが地表へと姿を現した。
「久しいでござるな。トゥナ・ロア。さぁ、始めようぞ。フレイヤ地方を脅かす者の排除を。地形魔法〖地殻の泥鰌〗」
【大魚を釣り上げて何を嬉しがっている。そんな魚。俺様の敵ではないわ。偽魔神法〖影の吸印〗】
剣聖グレイの剣から泥水が偽魔神へと放たれ視界を奪おうとしたが避けられてします。
そして、偽魔神ジャズは奇怪な手を大きく肥大化させ、吸い込みを始めた。するとトゥナ・ロアの身体が吸い込まれ始めた。
「ブオォアア!」
「ウム。こちらも反撃しよう。地形魔法〖酸鰻〗」
トゥナ・ロアは大口を開け口内からあらゆる物を溶かす酸を放出させた。
【そんなのろい攻撃が当たると思っているのか? こんなもの全て飲みほし、俺様の新たな力にしてやろう。〖吸光網〗】
「ハハハ! 出来るものならやってみよ。後悔する事になると思うがな。地形魔法〖地剣聖陣〗」
歴代の剣聖達はそれぞれ専用の適正属性魔法を保有していた。そして、現代の剣聖の適正属性魔法は《地》であった。
剣聖の持つ属性魔法は通常の現代魔法とは異なる能力を有している。それは保有する剣その物に直接、魔力を注ぎ込むことで、あらゆる魔法効果に斬撃の効果を付与する事ができるのだ。
【なんだ? 泥魚を相手させている間に貴様も俺様に攻撃するのか? 剣聖と名乗っておきながら卑怯な戦法を取るのだな。良いだろう。貴様のその斬撃も一緒に吸収してやるわ】
「……ほう。随分と余裕だな。それを吸い込んだ瞬間。お主は終焉を迎えることになると思うぞ」
剣聖グレイの警告を無視し、偽魔神ジャズはトゥナ・ロアの放った酸とグレイが放った斬撃を吸収した。
【おお! これは……なんとも上質な力か。神代から生きる魔魚の濃厚な魔力……そして、剣聖と名乗るだけはある小僧の全てを切り裂く魔力を取り入れ……俺様は更に強くなる。これはそこのジンの力を吸収しなくてもよくなる程ではないか………標的をジンから貴様に変えよう。その剣聖とやらの力を全て俺様に寄越せ。小僧!!】
「………お主。気づいておらぬのか? 自身の身体が内側から溶かされ、切り刻まれている事が。何故、そんな高揚しているのだ」
「剣聖グレイさん。彼は一度新ボス様……神成様に一度敗れ消滅した身なのです。ですがロキ殿により無理矢理甦らされ、現在は魔力暴走に陥っています」
「ほう。成る程、だから自滅している事にも気づかぬのか。では……奴を飲み込め。トゥナ・ロア。地形魔法〖光口鰻〗」
「ブオォオオオ!!」
【あ? 何? 大口を開けて俺様を食べる気か? 良いだろう。貴様の身体の内側から吸収し、貴様の力を我が物にしてやるわ。偽魔神法〖魔神吸〗】
ゴクンッ!
「……馬鹿な。魔神め。トゥナ・ロアの腹の中は遥かした冥界へと繋がっているというものを」
「冥界……やはりあの方冥海底の魔獣でしたか」
「うむ。拙者が幼少に冥界に紛れ込んだ時、出会ってな。それ以来無二の相棒になったでござる」
「ブォアアアア!!」
『トゥナ・ロアの腹の中』
【ここは何処だ? 俺様は確かに魚の腹の中にいた筈だぞ】
「ここは冥界よ。魔神……そして、冥界に来たということは貴方は死を選んだという事、ならば逝きなさい壊れたアグナの廃棄炉へ、そして、一生輪廻に囚われるのよ。この極悪人」
【がぁ?! や、止めろ! 俺様はやっと復活出来たのだ。なのにこんな最後などあり得な……】
スパンッ!
「……内側から切り刻まれた。グレイの仕業ね。上は終末が近づいているのね。この冥界も忙しくなりそうだわ……」シュンッ!
冥界の番人エレシュキガルはそう告げると姿を消した。
◇
「ブォアアアア!」
「うむ。来ただな。トゥナ・ロアの! ではな。ジーン殿。そなたはこのフレイヤ地方の護りを頼む。拙者は北の地ソロモン山脈へと向かうとする」
「了解しました。剣聖グレイさん……ギアートル殿をどうか止めてあげて下さい。新世代の貴方や新ボス様のお力で」
「ああ……任された! ではな。行こ! トゥナ・ロア」
「ブロオオオ!!」
剣聖グレイはヘカ地方・死の大地に向けて移動を開始し始めた。
疑似魔神ジャズ
終