疑似魔神ジャズ No.1 新魔神は剣聖と相対する
フレイヤ地方『蜃気楼の屋敷』
「ジーンさん。アイツ。俺達の魔法を吸収しやがるぜ」
「そうそう。それで大きくなってる」
「……お二人はキャラバンの方々と共にお逃げ下さい。私はその間にジャズさんを抑えておきますので」
【無駄だぞ。魔神前任者のジン。お前はあの御方の思想に惚れ込みながら、土壇場で逃げた裏切り者。〖魔神〗の資格を俺様に譲りさっさと消えるのだ】
「それは御断りしましょう。この力は歪んだ貴方には過ぎたる力。それに私はギアートル殿を裏切ってなどいません。ギアートル殿は私に……」
【黙れ。ロキ殿は俺様に言っていたぞ。前任の魔神は七聖側に寝返り。魔神の力が奪われたとな。だから俺様が貴様の力を吸収し、新たな〖魔神〗へとなるべきだともな。そして、俺様はお前が護るフレイヤ地方を蹂躙してやるわ】
「魔神の力は……七死霊の力は本来。魔法大陸を守護する力。破壊する力ではありません」
【知った事か。俺様は俺様がやりたい様にやる。そして、終末を成就させるのだ。それがこの新〖魔神〗ジャズの役目である】
「ロキに踊らされました……彼は悪戯の神。あんな御方の戯れ言に耳を貸すなど」
【五月蝿い。元魔神……さあ、貴様の力を俺様に差し出し。俺様を真の魔神へと昇華させろ】
「確かに魔法の攻撃すればその魔力が吸われる……これではいずれ私の全ての力を吸われ私は死に至る……」
「ハハハ!! そうさせぬ為に。拙者は来た! 見つけたぞ! さあ、さあ、やり合おうか。魔神なる悪しき者よ。このフレイヤの眷属にして、現代の剣聖グレイ・オルタナティブと! 地形魔法〖天変・地殻〗。暴れろフレイヤの地形!」
突然の剣聖の登場に伴い、アラビア農地の地形が偽造魔神ジャズへと襲いかかる。
【お前は……現代の剣聖だと? 何故、こんな場所に剣聖がおるのだ?】
「西からの青き爆発を見ていなかったのか? ならば良い。何も知らぬまま逝け。そして、先ずは喰らえ! 拙者の地形の槍をな」
万を越える土の剣がジャズへと突き刺さる。剣聖の容赦なき攻撃が始まった。
【おのれ。おのれ。突然、現れ。高貴な俺様の身体に穴を開けおって! 貴様の魔力など全て吸収し、俺様の力に変えてやろう。偽魔神法〖魔印〗】
───偽造魔神ジャズはロキから与えられた仮の〖魔神〗の力を使ったが、発動しなかった。
それもその筈だった。剣聖グレイが放った地形魔法にはグレイ自身の魔力が一切使われていなかったたのだ。
ジャズがフレイヤ地方の地から吸収した魔力は、〖魔神〗にとっての毒となる―女神―フレイヤの魔力を直接吸収してしまったのだった。
【……これは? フレイヤの汚れた魔力? 何故、俺様の中に……おのれ。この魔力は俺様に取っての毒と同義ではないか】
「ジャズさんの身体が赤く染まっていく……あの方が剣聖グレイさんですか。とても頼もしい方ですな」
「おお! そこに居るのは拙者の母に赤き宝石を託したジーンとやらだな。拙者はグレイ。神成殿のメッセージを受け取り馳せ参じた。安心されよ! 拙者が来たからには、そこの偽造魔神とやらは討伐する。剣聖の名においてな」
「貴方が《紫》の魔女シエルさんのご子息でしたか。ならばあれ程の大規模な魔法を扱えるのも納得です」
「ハハハ! 挨拶も済んだ。では戦いを済ませるとしよう。地形魔法〖土壇の外壁〗」
【貴様……よくも俺様に毒を飲ませたな。許さん! 許さんぞ! 貴様! 偽魔神法【吸闇】】
鋭利な地形が偽造魔神ジャズに迫る。その攻撃に対し、闇を解き放ち応戦する。
「……ほう。地形事全てたいあげるか。時間もおしい故、長期戦は不要……あれを喚ばせてもらおう。きたれ! 拙者の契約者〖トゥナ・ロア〗よ」
剣聖グレイの剣〖地帝剣〗が竿と銀鉤へと変化し、その釣糸が地形の底、地殻へと垂らされ……現れるは神代の巨鰻トゥナ・ロアである。
「ブォアアアア!!」
【……これは? 巨大な土の魚だと?】
「滅してやろう。この魔法大陸を脅かす者よ。拙者の相棒と共にな」