〖大魔女〗マギア・アル・マロ No.2 マーリンの追憶
「数千年の間、何処に行っていたんですか? マギア! 《白銀の鉄槌》」
【ええ、ええ、ええ!! 旅を、長い旅をしていたのよ! マーリン!】
「ルオオオオオ!!」
【アハハハハハ!!】
マーリンとマギアは地形を変える程の大魔法をぶつけ合い。
オアシスの空では白銀の獣と奇怪な夫人が戦い始め、周囲の幻獣達は白銀の獣に加勢する。
「まさにどこもかしこも終末……混沌の世界へと変えられていく。これが神々の黄昏の奴等が目指す未来の世界か……」
俺はそう呟き、《黄金》の魔女の力を貯め始めた。
神代時代〖魔術院〗
「マーリン、ライン、マギア母は何処に居るの? 探しに行くの」
「ルア様。駄目です! その扉を開けてしまっては!」
「ルア……戻りな。今はマギア先生とギアートル様が密会中なんだよ」
ギイィィ……
「……それじゃあ。最果ての向こう側には、もう魔法世界を維持する魔核がないの?」
「ああ、この眼で全てを確認して来た。このまま時が経ちあらゆる種族が増えれば世界は崩壊へと向かうだろう」
「だから神々の黄昏を創設して神話の時代から神選を選抜してきたの? あんなに途方もない時間をかけて……全能神に目をつけられてまでして」
「そうだ……我は魔法世界を救いたい。だからエクシスとイヴには我とマギアの記憶を消して安全な別世界へと向かわせたのだ」
「……三番目の子は?……私と貴女の子供のルアちゃんはどうする気なの?」
「ヘスティア地方の知人に匿わせる。安全な大龍脈へと避難させ、全能神に見つからないようにしよう」
「ギアートル。貴方は馬鹿。相変わらずの大馬鹿よ」
「……マギア。分かってくれ。これも魔法世界の未来の為で」
「それで子供達の記憶を消して別世界に飛ばすの? そんなの可笑しいわ! 貴方は最低の親よ!」
「……分かっている。分かっているがこれが最善の選択なのだ。マギア」
「ギア父! マギア母! 居たっ! ルアと遊べー」
「ルア様! ここへ入ってはいけません!」
「そうだよ。ここはギアートル法王とマギア理事長の大切な部屋……で……お二人共……あのこれは……お二人の会話は……あの」
「マーリンとラインバッハか」
「……どうするの貴方。魔法世界の真実を聴かれてしまったわ」
「君の教え子だ。君が決めろ。我はそうなる様に記憶を操作しよう」
「そう。それならこの子達はまだ生きられるわね………三人には役目を与えるわ。マーリンはこの魔術院の新たな理事長に、ラインバッハはあらゆる場所を旅しながら逃げなさい。ルアちゃんは……」
「マギア母?」
「ルアちゃんはヘスティア地方に行きなさい。そうすれば貴女だけは幸せになれるから……三人の記憶は貴方と魔法世界の記憶は消去してギアートル」
「ああ、任せろマギア……ルア。済まんな。力無き父で……イヴやエクシス……にも謝らねばならん。不甲斐なき父で済まん……《無闇の追憶》」
「……ギア父?」
「……マギア様。これは……記憶が……」
「私の記憶が書き換えられていく……」
▽
「マギア……先生。私の記憶は貴女と最後に別れた後、曖昧になった。たまに昔を思い出そうとしても記憶の所々に欠如が見られる様になった」
【……そうね。そうね。そうしないと貴女達が不幸になるもの。全能神は容赦がないのよ。魔法世界の真実を知れば壊されるの。私の様に壊れるのよ……マーリン……これが、これが世界を救う為の犠牲なんですもの】
「それで今を生きる子達の命を犠牲にしても? 《白の楽園》」
【………それが魔法世界を救う為なら仕方ないのよ。それがギアートルと決めた事だもの……《無の魔天》】
▽
神代時代〖黄昏の花園奥地〗
「神々の黄昏の者達と七大大陸を落とす」
「待って。その中には貴方と私の子供達。イヴとエクシスも居るのよ……結局。全能神のせいで因果が曲げられてあの子達は貴方の元へとやって来た。私達の全ての記憶を奪われて」
「……分かっている。終末の時、あらゆる世界が繋がり始める。その繋がりを利用し、あの子達をリアースに逃がす。あの世界ならば魔力が無い故、平和に暮らせるだろう」
「そう。その言葉を信じるわ。私は終末の準備があるから魔法世界から去るはこの世界の真実を知ってしまったから……ギアートル……また会える時は終末ね」
「……ああ、マギア。お前にばかり負担を押し付けて済まない」
「そんなの今に始まった事じゃないでしょう。敵対関係にあった七聖教会と魔術院同士のトップが駆け落ちして……愛し合って子供まで作って……終末の為に全部犠牲にしようとしているのに私は今も貴方を愛しているのギアートル……」
「……ああ、我も愛している。マギア……我が最愛の妻、マギア……」
「ええ、その言葉を聞けて満足よ……私は徐々に狂っていくけど。それでも愛してね。ギアートル」
「……永久に愛しているさ。マギア」
▽
「《黄金のラインバレル》」
ドスッ!
【あら? あら? あら? ギアートルから貰った神核が壊れてしまったわ……マーリンにラインバッハ……懐かしい教え子に会ったせいでついつい昔の事を思い出してしまっていたのが隙を与えてしまったかしらね】
「……私がマギア……先生を引き付けてラインバッハに止めを任せていたんだよ」
「……マギア先生」
【あらあらあら……二人共。悲しそうな顔をしているのね】
【アハハ……アアアアアアア??】
【私が造り出した。ワルプルギスも幻獣達に容赦なくやられている……けど目的は達成したわね。希代の魔術院の魔女と黄金の放浪者ラインバッハをこんな西地に釘付けにできたんですもの。後はギアートルに任せて私は大人しくしてあるわ】
「……流石、《無色》の大魔女マギア先生。神核を破壊した位では、身動きを封じるだけだったか」
「だけど。殺さずには済んだよ。ライン……終末が終わったら魔術院に連れて帰ろう。そして、ゆっくり療養してもらおう。マギア先生には」
「ああ、俺もそれが最善だと思う。各地で生き残っている魔女達にも手紙を送って先生の呪いも解くとしよう」
「呪い? この情緒不安定のマギア先生のこの状態がい?」
「そうだ。ナルカミの少年が居れば何とかしてくれるかもしれんしな……俺も共に行くよ。懐かしい魔術院へとな」
俺はそう告げてると、胸を貫かれて身動きが取れなくなったマギア先生を見つめた。
【あらあらあら……敵である私の事なんて放って置けば良かったのにね。本当に神代の時代から優しい教え子達ね。貴女達は】
マギア先生はそう告げると大粒の涙を流し泣き出したのだった。
〖大魔女〗マギア・アル・マロ
終




