〖英雄〗サテュロス No.3 騎士は未来を語る
焦土と化した始まりの大森林の中に赤き竜が暴れていた。巨大な妖精竜がサテュロスが産み出した獣達を蹂躙する。
「神代魔法(赤)〖赤き竜〗……〖赤き延髄〗」
焦土と化した地中から竜の骨が出現し、サテュロスに襲いかかる。
【赤き妖精竜……始祖の龍の力をこうまで自由に使えるなんてね。私が産み出した子供達を全て殺してしまうなんて思わなかったよ。妖精の騎士さん】
「だから何かな?……あれだけ緑豊かだった始まりの大森林をこんな更地にした君を此方は許さない。だから君の子供達が暴れるなら私は容赦なく全てを殺し尽くす」
【容赦がない娘……だから妖精種は嫌いなんだよね。君達。妖精種は獣種を見下しているからね。〖氷獣の群〗】
氷を纏う獣がサテュロスの影から出現し、メリュジーヌへと襲いかかる。
「氷属性の攻撃?……君は本当にどれだけの属性を使えるの?……多すぎると思うんだけど」
【私は獣の始祖……私から産まれた子供達が使える属性なら全て使えるのよ。そして、子供達も無限に産み出せるのに対して貴女は一人。最初から勝ち目のない戦いに身を投じるなんて馬鹿な娘。個では群れには勝てないのにね。〖黒獣の群〗】
「(また獣達を身体から分離し始めた。体力はまだまだあるし。このままの状態で半年は戦い続けられる自信はあるし、そうする様にセルビアの事件以来、修行してきたつもりだった)……完全に此方を弱いと思って油断している……そう。今が〖英雄サテュロス〗を倒す好機……ギャオオオオオオ!!」
赤き竜メリュジーヌが空に向かって咆哮を上げた。
【……あまりもの劣勢に可笑しくなってしまったのかな? まあ、それも仕方ないよ。私はユグドラシル地方をたった一人で手に入れた勝者にして、獣の始祖サテュロス……神話神獣サテュロスなんだから。貴女が負けるのは当然のこ……】
ドスッ!
【……と?……私のお腹に槍?】
「メリュジーヌの呼び声を聞いて馳せ参じた。妖精国の円卓の騎士ガウェイン」
「トリスタン。馳せ参じました」
「パーシヴァルがここに」
【……妖精国の騎士が何でここに】
「それだけではありませんよ。幻獣の楽園、セルビア、魔法族の里などユグドラシル地方のあらゆる国々から、メリュジーヌ卿の呼び声を聴いて、始まりの大森林にやって来たのです」
【ユグドラシル地方のあらゆる国々?……そんなのあり得ない。だってユグドラシル地方に住む種族はいがみ合って仲良くなんてなれる筈がないもの】
「サテュロス。それは遥か昔、原初の時代の話でしょう?……今はもう現代なんだ。時代は変わってきているんだよ。良い方向に……平和な時代へとね」
【平和な時代? 馬鹿を言わないでよ……それは彼が決める事。魔法大陸が良くも悪くも決めるのは彼が決める。私を闇から救って側に置いてくれた。ギアートル・ホーエンハイムが未来を決めるのよ。それを邪魔する奴等は許さない。私はそれを認めないわ。獣神魔法〖英雄獣跋扈〗】
サテュロスが強大な魔法陣を出現させた。その中からあらゆる属性の力を纏った数千頭もの獣が現れる。
【私の可愛い子供達。今のユグドラシル地方を汚す子達を倒しなさい。それが彼の願い……それが私の願いでもある。全てはギアートルの願いの為に、ラグナログの完遂を】
「……妖精軍の全兵に告げる。敵対対象は獣の群れである。ユグドラシル地方を脅かす敵に容赦するな」
「「「「「オオオオ!!!」」」」」
ガウェイン卿が雄叫びのような声を上げると、始まりの大森林の奥地から数万もの兵士が姿を現した。
【……成る程ね。妖精の騎士の娘。貴女は私があの子達に気づかせない為に、ずっと私と対峙していたのね?】
「ギャシャアア!! 今更気づいてももう遅いよ。ユグドラシル地方の全ての戦力は君を倒す為に集結してくれた。そして、やっと此方は君に集中できる……獣の始祖サテュロスとの戦いにね」
【ムカつく子。私達の終末を大人しく受け入れなさい! ユグドラシルの民達】
ユグドラシル地方の全勢力と〖英雄サテュロス〗との戦いは、終末が訪れる寸前まで続いていく。
そして、メリュジーヌとサテュロスの戦いは苛烈を極め、決着は最後の時の瞬間までもつれ込む事になるのだった……
英雄サテュロス編
終