虹霓決戦・〖豊饒の女帝は真実と共に〗No.5 盗賊王アリババ・アラビア
かつて、神代時代のフレイヤ地方は、豊穣の地と莫大な富があることにより争いが耐えず、悲しき悲劇が繰り広げられる場所であった。
そして、それを憂いた一人の奴隷の少年が立ち上がり、勢力を広げ、フレイヤ地方に数百年ばかりの平和をもたらした人物がいた。
それが臨界突破者。アリババ・アラビアその人である。
火と盗賊の国 アラビアの建国者〖盗賊王・アリババ・アラビア〗は、フノス、イグニッション、アダマス、レッドローズの四人の仲間と共にフレイヤ五大列国の礎を築いた偉人であった。
そんなアリババは《建国した国が安定した。そんな世の中にワシは入らんだろう。去らば》と突然、言い出し忽然と姿を消したのだった。
だが、そんな偉大な彼には幾つかの難点があった。それは傲慢な性格と、魔法を使用した際の魔力枯渇である。
◇
『亜人居住区』
「寄越せ! 寄越せや! 貴様等の魔力を……数百年分の枯渇を寄越せ……魔力強奪〖暴虐吸〗」
「ギゴブォ?! 身体の魔力と栄養が……吸い取られる?」
「な、何でこんなば、化物が……異界に存在する?」
アリババの固有に所持する魔法は〖強奪〗。そして、保有する《資格》は〖盗賊王〗である。
彼はその二つの異質な力を併用し、自身の食と魔力補給の糧とし、そのエネルギーを敵対者へとぶつける。
「ほれ。還してやるぞ。貴様等の栄養を……〖強奪破棄〗」
アリババが着る黒きローブから赤き光が放たれる。その赤き光が亜人兵の身体の中へと入り、一斉に魔力暴走を起こし爆散する。
グシャッ! グシャッ! グシャッ!
「ガハハハハ! 器が耐えきれず。暴発したか。よいよい。それ程までにワシは力は強力という事だからのう……この魔法世界の平和の為に消えよ。亜人兵」
「止めろ貴様! 何故、地上に入る? どうやってあの地下牢獄から脱獄した?」
ドゴオオン!!
「………大型の猪型の亜人……貴様かフレデリカよ。久しいな。ワシを捕らえた張本人の」
「アリババ……オレの部下を目の前で肉塊に変えやがって、許さねえぞ」
〖亜人の女王 フレデリカ・オーバン〗
「それはこちらの台詞よ。フレデリカ。数百年。貴様はワシに言ったな? 一度だけ次元を渡る魔道具がこの異界には存在すると。そして、それが欲しければ女帝の城へと侵入し。奪えと……そして、貴様に言われた通りに、あの地下牢獄の中に入った瞬間、ワシは閉じ込められ。この首都の魔力維持として、長年こき使ってきたろうに」
「……全てはこの世界を存続させる為に必要な事だ。第一、男はオレ達にこき使われる為に生きているんだ。それが名誉だとお前は思わないのか?」
「思わんな。この魔法世界は力ある者が統べる過酷な世界。あの様な卑劣な策でしかワシを相手にできん貴様等など滅びるべきだとは思っておるぞ……魔力強奪〖魔滓暴露〗」
亜人居住区の空の上に炎の球体が突如として現れた。その球体は地上に入る亜人兵達のあらゆるエネルギーを吸い取り肥大化していく。
「盗賊王! 貴様、何をしている? あの巨体な魔力の塊は何だ? それにそんな魔法見たことも聴いたことも無いぞ」
「当たり前であろうよ。これは〖資格〗を持つ者が覚醒を経て至る世界の境地。ただの引きこもりの亜人共には理解できぬ。世界の理……数百年間。ワシから奪った力返してもらおう。貴様等の死をもってな……〖崩壊爆破〗」
「や、止めろ! お前は今、自分が何をしたか分かっているのか? そんな強大な魔力の塊を地上に放てば、亜人居住区の殆どの者が……」
「力無き者は滅ぶ……それに貴様等の所業は、あの女を通じ聞いた。ワシが建てた国を奪い、フレイヤ地方を滅ぼす気なのだろう? そんな事をワシが見過ごすとでも思ったか? 無礼な畜生共よ……死して詫びろ。〖魔力暴来〗」
「ブガァ?! や、止め……ろお?!!」
肥大化した赤き火球は亜人居住区の真ん中へと落とされ大規模な爆発を起こした。亜人の女王フレデリカが率いる亜人兵の約八割が跡形も無く姿を消したと、拳王姫 セシリアは語った。
「〖魔力孔吸〗……ガハハハハハ! これで全盛期の力は全て奪い返せたか、後はあの女の弟とやらに頼み、この魔法世界から旅立つだけよ……新たなる世界へとな」