聖女を救いに〖異界イシス〗へ
〖蜃気楼の屋敷 扉〗前
「新兄貴。あの赤髪女が扉を潜ったら、兵士達がどこ消えて行くぜ。これからどう動くんだよ?」
「うん……下から変な魔法陣が現れて消えたよ。新ボス。お宝でも持って帰る?」
あれ程の戦闘後だというのに、傷一つ見当たらないアラムとディアスが俺に話しかけて来た。
「そうか。なら、君達は〖蜃気楼の屋敷〗の扉に不振な奴が来ないか見張っててくれ」
「見張っててく? 何だよ。新兄貴はどうするだよ?」
「……何処かに行く気?」
「ああ、〖異界 イシス〗に行ってしまった〖聖女エリス〗様を迎えに行って来る……ジーンさん。ここの守りをお願いしても良いですか?」
「ええ、新ボス様。お任せ下さい。先程、扉の修繕時の契約と誓約も完了しましたので、こちら側からしか〖異界 イシス〗との出入りは出来なくなりましたので、守りは完璧かと。ですので〖赤き指輪〗かモルジア様が居なければ今後は開く事はありません」
「……そうですか。じゃあ、帰る時は」
「はい。ヘファイストス地方からの帰還になります」
「ですよね……では俺は聖女様を救いに行ってきます」
「ちょ、ちょっと待って! セツナさん。私とオルビステラちゃんも連れて行って!」
「……ええ。行くわ……この世界の真実を〖女帝〗さんに聞く為に……それで知りたいのフレイとヘカテが可笑しくなった原因を……」
傷だらけのモルジナ王女とオルビステラが俺に話しかけてきた。先程の戦闘でかなり無茶をしたのが見ただけで分かる。
「モルジナ王女……駄目だ。あっちは敵の本拠地。中途半端な戦力は連れていけない。ましてはさっきの戦闘で君もオルビステラもボロボロじゃないか」
「それでも行きたいのよ。エリスちゃんとせっかく友達になれた。助けてあげたいの」
「……全てが終わるまでの間。〖最果ての孤島〗の中で大人しくしているから、連れていって……担い手さ」
俺は懇願してくる二人話を静かに聞いた後……
「……〖女帝〗を倒し終わるまで、絶対に外に出て来ちゃ駄目だからな。〖最果ての孤島〗よ。彼女達を休憩の島へ」
ズズズ……シュンッ!
「これは? あ、ありがとう。セツナさん」シュンッ!
「本当に……復讐の手伝いをしてくれて感謝しているわ。担い手さん。そして、私の過ちを……復讐するなんて過ちを正してくれて、ありがとう」シュンッ!
「……ああ、オルビステラ。今はゆっくり休んでおくんだ。本番は〖異界 イシス〗での戦いの後、なんだからな。じゃあ、ジーンさん。キャラバンの子達をよろしくお願いします」
「新兄貴。どこ行くんだよ?……グヘェ?」
「うん。付いて行くよ……グォ?!」
「……駄目ですよ。アラム様、ディアス様。私はともかく、今の傷付いた貴殿方では足手まといになってしまいます……新ボス様……〖異界 イシス〗での戦いが終わりましたら、もう一度お会いしましょう。その時はお茶でもゆっくりと」
「ええ、楽しみにしておきます。ジーン……では、〖赤の指輪〗よ。扉を開けろ」
俺がそう唱えると。人、1人が通れる位の扉が現れた。
「……成る程。この大きな扉ではあちらから入れても、こちらからは入れないって事か、さっきは壊される前だからエリスは入っていたけど。ジーンさんが新しく造り変えたんだな……じゃあ行くか」
キイィ……ガチャ……
俺は目の前に現れた小さい扉を開き向こう側の世界へと潜った。
◇◇◇
◇◇
◇
〖異界 イシス〗
ギイィ……ガタンッ……
「無事に着いたか……何の妨害も無しか……さて、この異界はどんな世界何だろう……な? 何だこりゃあ」
俺は辺りを見渡し驚愕した。それもその筈、目の前に広がる光景がとても悲惨だったからだ。
〖墓所の街〗
「ゴオオオ!!」「ブオオ!!」「グルル!!」「グロロロ!」「ブビイイ」
「黙れ。醜きオークやトロール共。この盗賊王に刃を向けたのだ。殺されても文句は言えぬだろう? ガハハハハハ!」
魔獣達の死骸が山の様に積まれ、その頂点に若き男が座っていた。
〖宝石の大広場〗
「囲んで殺せ! でなければ勝てん!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
「ハハハ……そんな万の人数で僕の相手が勤まると本気で思っているのかい?」
決闘場の広場のような場所では数万の軍隊を一人で相手取り、次々となぎ払っていく男が、白い槍を持ち振り回しながら大立ち回りを繰り広げる。
〖崩壊したイシスの城〗
「ウオォォオオオオ!!!!」
「ホルス様……イシス様の側近数百名の死亡が確認されました……全てはあのフェンリルが原……」ザスッ!
「ひ、ヒイイ?!! 噛み殺されたあぁ?!」
「喧しいぞ。三下よ……お前も同じ末路を辿れ」
ドスッ!
白き神獣が次々に敵対者達を的確に始末していく。
〖異界門前〗
「アアアァァ!! こんな事になるなんて……何なの? 貴女は……●●!! なんでこんな事をするのよ!」
「……私はエリスですよ。〖女帝 イシス〗……審判の時が来たのでしょう。お覚悟下さい……」
そして、俺の目の前には白き修道服を赤い血で染めた聖女エリスが居た。
エリスは一人の少女に詰め寄ろうとし、息の根を止めようと金色の杖を振り下ろそうとしていたのだった。