昇月決戦・〖世界は月影を赦し降ろす〗No.9 復讐と憎悪
〖蜃気楼の屋敷 最深部〗
「貴女は私の親友を……フレイを狂わせた元凶。だから私は貴女に復讐する為にここまで来た。そして、その復讐が今、叶うわ。貴女を倒して。漆黒魔法〖深海の暗底〗」
「……あの娘はこの世界の真実を知ったから狂っただけよ。フレイは好き勝手フレイヤ地方で活動して、勝手に世界の仕組みにたどり着いたんじゃない。あんな酷い真実を知って……だからアンタもこの世界のあらゆる真実を知れば、私みたいになる筈よ。月光魔法〖松明の炙り〗」
俺がオルビステラに魔力を供給しているのもあってか、お互いの魔法攻撃はほぼ互角になったようだ。
「〖代理人〗と〖愚者〗は本当に優しくて賢いわよね。。アンタ達〖神々の黄昏〗に魔法世界の仕組みを一切教えないのは……あんな知れば発狂して狂う様な世界の真実を! 太陽みたいに自分だけで抱えて狂って行くのを防いでいるんですものね」
「……発狂して狂う……真実?……まさか。本当は……フレイはそれを知って可笑しくなったと言いたいの?」
「被害妄想って知ってるかしら? あの被害妄想のフレイちゃん。自分から進んで世界の真実に近づいて精神汚染されて……挙げ句の果ては〖異界 イシス〗から今日まで、外界に一度も外出した事がない私にヤられてたと周囲に知らせて同情を買おうとする娘。それが太陽の正体」
「……は? ヘカテ。貴女が何を言っているのか分からないわ」
「フォルトゥナの奴もグルだったわね。アイツはアンタや〖神々の黄昏〗の奴等には、フレイは正常で、私が狂っているだけと言って、幻覚と記録を残す魔道具に細工して、私を悪者に仕立てあげるし」
「……ちょっと待ちなさい。貴方は何を言っているの?」
「私はフォルトゥナは言ったわ。〖私との契約と誓約で、貴女の精神の欠落を緩和してあげる。だからフレイちゃんが可笑しくなったのは、全部、貴女のせいにさせて。これは代理人ちゃんにも内緒にしておいてね~! これから狂った女の役をよろしくお願いねぇ♡〗とね」
「フォルトゥナさんがそんな事言う筈ないわ。あんなに優しいフォルトゥナが……」
「アンタ、馬鹿なの? どんな神だろうが、種族だろうが皆、仮面を付けて演技しているのよ。それが悪い奴だろうが、良い奴だろうがね。アンタからしたら、私は言動が苛烈な親友の仇に見えるかも知れないわ……けど私からすれば、狂っているのはアンタ等の方よ。こちらの話を一切聞かず、一方的に復讐。復讐と……馬鹿なんじゃないの?」
「……じゃあフレイは勝手に一人で狂ったって事? それを貴女のせいにして?」
「だから、さっきからそう言っているわ。そして、〖神々の黄昏〗の中で唯一、私を守ってくれたのが、【女帝】様だった。私の恩人。だから私はあの人の為に戦う。醜い失敗作の私でも必死戦うのよ……月光魔法〖月の三叉路〗」
「つっ!……そんなでデタラメな言い訳。誰が信じるの……漆黒魔法〖深海の槍〗」
「愛玩具の力を借りて本当に互角になったのね……ならもう良いわ。あれを使うもの……大アルカナを起動……月光魔法を放棄するわ……〖黄昏〗よ」
ヘカテのその詠唱により、黄金色の粒子がオルビステラを襲おうと迫る。
「このタイミングで大アルカナを使う……の?」
「当たり前でしょう。私の命はもうじき終わるだから、全力でいくに決まってるわよねえ!! 〖夢〗よ!」
暗闇が無くなり、擬似的な月明かりが〖蜃気楼の屋敷〗の中を幻想的に照らし始めた。
「空間が歪んで……可笑しな光が?」
「これで終わりよ。オルビステラ。所詮はアンタは私より格下だったのよ。フレイの為に頑張っていたみたいだったけど。それはあの女の自爆だっただけ。その真実を知ってアンタはこれからどうするかはアンタ次第ね………〖霊界〗よ。さあ、落ちなさいよ。オルビステラ。冥界の底へ」
満月のような円形の門が出現し、門が開く。冥界とこちら側を繋いだ門が月明かりに照らされ。冥界の案内人を呼び寄せようとする。
「これがヘカテの本当の力?……ここまで力に差があったなんて……もう。棄てるしかないわね……大アルカナ……起動……〖エンキ〗を放……」
「フレイの真実を教えてもらえたな。オルビステラ……これで君も復讐に囚われないでくれる事を願うよ……顕現しろ。〖七つの秘宝〗の『終末殲滅人形』───〖マキナ〗」
「───はい。マスター───〖鉄槌〗」
ドガアアアンン!!!
「ガァア?! な……に?……こんな軽い一撃で私の大アルカナが……弾かれる?」
「───殲滅完了しました。マスター」
終末殲滅人形は静かに俺へと語りかけた。