昇月決戦・〖世界は月影を赦し降ろす〗No.8 満月の時、真なる話し合いを
「担い手さん……ヘカテと何を話し合っていたの?」
「……オルビステラ。君は……いや、君達〖神々の黄昏〗は仲間同士でちゃんと話し合ってきたのか?」
「貴方は何を言っているの? 私は今、貴方に質問したのよ。質問を質問で返すなんて、何なのかしら?」
「……敵対している俺が言うものでもないんだろうけどな。君達〖神々の黄昏〗はもっと〖月〗という一人の人物の欠点や情緒の裏側をちゃんと認識してあげなければならなかったんだ。そして、それはヘカテにも同様に言える事だった」
「……貴方はヘカテの何を知ったのかしら?」
「彼女の侍女〖エリーニュス〗さんからヘカテの過去を見せられた。そして、〖女帝〗だけは彼女の欠点を深く理解し、救おうと足掻いていたんだ。だから彼女と共に〖異界 イシス〗に引き込もっていた……こんな世界が崩壊寸前にまで耐えていた。君達が彼女達の痛みに気づいてくれる様に長く待っていてくれていたんじゃないのか?」
「……彼女達の痛み? 本当に何を言っているの? 担い手さん」
「神造実験で創られた架空の神々の痛みだよ……君、フレイ、フォルトゥナ、ヤマトタケルは成功体。エキドナ、バァフォメット、ヘカテは失敗……ロキと〖博士〗とか言う奴等は本当にろくでもないんだな……オルビステラ」
「……何かしら?」
「ヘカテともう一度。一対一で本気で戦って来い。そうすればヘカテが何故、歪んでいるのかも分かるだろからな」
「貴方、私との約束を無かった事にする気? 貴方はティアマト地方での戦いの時、私の復讐を……フレイの仇を取る為に一緒に協力してくれると言ってたじゃない?」
「ああ、協力はしてあげよう。ヘカテと対等に戦える力を君に与えてな……聖魔法〖不屈の闘志〗」
俺はオルビステラに身体強化の聖魔法を付与してあげた。
「……これは? あらゆる力が上がっている」
「その状態でヘカテと戦うんだ。そして、〖神々の黄昏〗の仲間同士として一度ちゃんと話し合って見てくれ。可哀想なヘカテとな」
「可哀想なヘカテ?……」
「お話は終わったかしら? 愛玩具に世界! 話が終わったんなら! さっさと戦いを再開させなさいよお!!」
ヘカテは変身し、変貌していた。足は蛇の様になり、顔は犬と狼が合体した様な顔。背中には球根の様な根と球体が不気味に生え、右手には錫杖を持っていた。
「……ヘカテ。その姿。まるで化物ね。可哀想」
「成功体が何をほざいているのかしらね? 失敗作達の事も知らされない。何も知らない奴等。私はだからアンタやフレイが許せなかった。何の犠牲も払わず。他者から与えられる《愛》を無神経に貪り喰らうアンタ等が心底嫌いだったのよお! 月光魔法〖月影の怨み〗」
「知らないわ……そんな事! 漆黒魔法〖深海の闇〗」
ズバアアアア!!
月明かりの闇と深海の深き闇、異なる二つの闇の力ぶつかり合い、辺りに飛び散る。
「……(力が相殺した? さっきまであれだけ押されていた私の漆黒魔法が? 担い手さんは本当に私に力を貸してくれているのね。これならヘカテに勝てる!)」
オルビステラは何故か余裕そうな表情を浮かべている。どうやら、ヘカテと対等に戦える事を理解したらしい。これで復讐が出来ると勘違いしたのだろうか?
「……〖神々の黄昏〗……黄昏。盛が過ぎるか……その前に君達という組織は、もっと仲間同士として認識し合っていれば良かったんだ。そうすれば過去にあんな亀裂は生まれなかっただろう。〖女帝〗や〖月〗が君達〖神々の黄昏〗に不信感を抱かなかった」
俺はヘカテにあらゆる事を聞いた。その過去についてはいつか会うであろう〖代理人〗や〖愚者〗とか言う奴等と対峙した時にでも聞いてやるとしよう。
「……今はこのまま戦い(話し合い)の決着を見届けてやらないといけないな。そして、それが終わったら、エリスを迎えに〖異界 イシス〗に向かわないといけないか」
俺はそう告げて〖異界 イシス〗へと通じる扉を一瞬見た。さっきまで扉から勢い良く、入って来ていた兵士達は現れなくなっており、ジーンさんが扉の修繕を開始し始めている。
……流石、ジーンさんが選んだ人選か。扉から大量に入って来られる前に先遣隊の進行をちゃんと食い止めてくれていた。
扉を越えて来た奴等は殆んど意識を失って地面へと倒れていた。
「後はオルビステラ次第だな。ヘカテとの話し合でヘカテへの復讐を許すか赦さないかの……な」