昇月決戦・〖世界は月影を赦し降ろす〗No.5 月の眷属と神ノ使徒
神代時代〖異界 イシス〗
「ヘカテ様。アマゾネスの方々が果物を分けて頂きました。後でお昼の食後にお出ししますね」
「ヘカテ様……ムルル様から絹を頂きましたので、これで新しい衣服を御作りします」
「姉様。スルグラ族の族長が私達の勉強にと、魔法書を献上してくれました……」
「御姉様。御姉様。バリオキュラス様が日頃のお礼と、茶菓子を私達に配って頂きました」
「「「「ですから。後で何かのお礼品をお渡ししておきます」」」」
「……はぁ? 意味分からないわ。ただで貰ったのに何でお礼をしないといけないのよ。頭おかしいんじゃないの? アンタ達は……そう。頭おかしいの……どいつも。コイツも。私と同じ第一世代の欠落品のくせに……強くもないくせに愛想と世間体だけは保とうとする。クズ! クズ! クズ! クズ!」
ドスッ! ザスッ! スパンッ!
私は自身の気が収まるまで侍女達四人を好きなだけ、切り裂き遊んだ。
「ヘ、ヘカテ様。や、止めて下さい……三人が死んでしまいます」
「皆をこれ以上傷付けないであげて下さい。どうかヤるなら。わ、私だけに」
「……皆だけは生かしてあげて。私が犠牲になるから」
「ごめんなさい。ごめんなさい...…私が死ぬから皆にこれ以上酷い事はしないで」
「…………どうして、どいつもコイツも自分を一番大切にしないのよ。何でこんなに切り刻まれてるくせに、そんな必死に相手の事を救おうと懇願しているの? コイツ等は」
理解できない。理解できない……神の心が理解できない。アンタ達。欠陥品の理解が………できるわけないじゃない。何で他人の事を思い合えるのよ。
そんな事、神には不要でしょう? いらない感情でしょう? だって私達は魔法世界の未来を救う為に造られた神々なんだから。
「………そうだ。こんなに欠陥品なんて壊してしまえば良いのね……アンタ達の身体は散々、切り刻んだし。今度は心ね。早速始めないと……アンタ達の心を私、みたいに正常にしてあげないとね」
「……ヘカテ様?」
「何を?」
「……それは精神変化の魔法?」
「その道具で何をなさるのですか?」
「……何を? 決まってんでしょう。壊れたアンタ達を私、みたいに治してあげるのよ。光栄に思いなさい……失敗作共」
▽
「「「アアアアアア!!!!」」」
「こんな……三人の心が……精神崩壊……してしまうなんて……」
「アハハハ!! エリーニュス。流石、私の筆頭侍女だけあるわ。アンタだけはこの欠陥品のまま終わるなんてね。でも、そのツギハギだらけの美しい姿お似合いよ。化物みたいでね。まるで魔獣のラミアみたいだもの。アハハハ!!」
「つっ!……ヘカテ……様……」
◇
〖蜃気楼の屋敷〗
まるで走馬灯の様にヘカテや目の前のツギハギだらけの女性の過去を見ていた。ヘカテによるあらゆる虐めとそれにいしたげられる彼女達の過去語りを。
「……この魔法は幻術ですか?」
「いいえ。全て現実に起きた事です。その結果。私はこんな身体に、他の侍女達はあの様に精神を壊され廃人と化してしまいました。」
「廃人? あれは魔獣じゃないんですか? それに俺はてっきりヘカテに言われて、攻撃をしてくるものと思ってましたが。明らかに敵意がないですね?」
「ええ、全く………お願いがあります。異国の方」
「……お願いですか?」
……この流れは恐らくあれで間違いないだろう。
「はい。ヘカテ様の侍女である私達を殺しては頂けませんか?」
「………」
やはり、こういう展開になったか。彼女〖リーニュス〗とヘカテに呼ばれていたこの人の目は虚ろで、疲れきっていた。それもこれもヘカテによる長い拷問の日々のせいなのだろう。
「ヘカテ様は今、対峙した女性との戦いに夢中です。ですのでその隙に私達を自由にして下さいませんか?……もう辛いのも痛いのも嫌なんです」
リーニュスさんは虚ろな瞳から一筋の涙を溢した。
「貴女は……分かりました。貴女達を救いましょう。聖魔法〖精聖護〗・蘇生魔法〖不全の再生〗」
俺は精神を癒す〖精聖護〗、あらゆる身体の傷を治す〖不全の再生〗の魔法を発動し。リーニュスさんと近くでジーンさん達と混戦していた三人に向けて放った。
「……あの?……これは?……あれ? 私の身体の傷が治ってる」
「アアアア………私……の爛れた顔が元に戻って……」
「私は……ここはどこ?」
「二人共……正気に戻ってるの? ヘカテ様は?」
「……そんな。三人も正気に戻っているなんて?……あ、あの? 貴方はいったい? 何でこんな奇跡を?」
「それよりも今は〖最果ての孤島〗の中に入って休んでいて下さい。鵺様」
「おうよお! ずっと寝てたから元気になったぜ!
話は聞いてた。べっぴんさん達苦労したな。もう大丈夫だ。何せ、この人が戻ってきたんだからな……魔法大陸の〖神ノ使徒〗様。神成様がな」
「魔法大陸の……神ノ使…徒?」ガクッ……
「おいっ! 確りしな。アンタ達も行くぜ。安全な場所によう。ホレ! 乗りな」
「へ? 魔獣?」シュンッ!
「……襲われる」シュンッ!
「外界は怖いです」シュンッ!
「行ったか……まさか、ヘカテのあらゆる過去を視させられるとはな……」
正常な心を持っている奴が欠陥品か……精神の齟齬と軋轢……それが魔法世界側の女神ヘカテを歪ませた最大の原因という事か……俺は魔法世界の未来を知って、〖神々の黄昏〗に復讐すると強く誓った……誓ったが、あちら側にも何かの事情がある。一人一人、それぞれの事情が……
その事をもう一度考えて、ヘカテや他の〖神々の黄昏〗との戦いを、復讐心だけで動くのではなく、どう解決すれば良いのか冷静に考えて今後の戦いをしていかなくちゃいけないのかもな……
やっぱり憎むだけでは駄目だ。オルビステラ……それじゃあ。今、君が戦っている。ヘカテの様に堕ちていってしまうからな。