『ジンの蜃気楼の屋敷』再び
夕方〖アラビア農地最新部 黄金の洞窟前〗
「新ボス様。無事に〖黄金の洞窟〗に着きました」
「ええ……貴方の加護のお陰です。ジーンさん」
「いえいえ。私は何もしておりませんよ。モルジナ様。首都出立前に立てた予定通り、第一精鋭百名で内部へと向かいたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「ええ。それで良いわ。私も同行するしね。エリスちゃん。一緒に行きましょう」
「はい。モルジナ王女」
モルジナ王女はエリスと共に俺達よりも先んじて黄金の洞窟の中へと入って行った。
「アイツ等。勝手に先行して……まあ、エリス隣に居るから何があっても大丈夫そうか」
「……新ボス様はあの聖女様をとても信頼されているのですね」
「ええ。数年間同じ旅をした仲間ですからね。オルビステラ! 君の目的地に……『ジンの蜃気楼の屋敷』着いたぞ。行こう!」
俺はオルビステラに向かってそう叫ぶ。オルビステラは静かに空を見ていた。曇り一つ無い満月を。
「………ええ。遂に復讐の時が……フレイの仇と再会できるわね。〖月〗と」
「………オルビステラ」
彼女からは静かな怒りを感じた。月に対する怒りを……俺も魔法世界の未来を知り、ソフィアの仇である〖神々の黄昏〗に対して、復讐すると誓った一人である為、彼女の気持ちは痛い程分かる。
この洞窟を潜り、際奥へと向かえば扉がある。その扉からとても強い力を感じる。洞窟の外に居ても感じる力は恐らくは〖月〗の力を持った誰かだろう。
彼女はそう告げて、黄金の洞窟中へと入って行く。
「復讐心による行動原理ですか……オルビステラ様は……〖世界〗様は大変な人生をお歩みなってらっしゃいますね」
「そうでしょうか。俺はそれが正しい衝動だと思いますよ。実際に俺も今はそれが俺の行動原理の糧の一つになっていますから」
「……そうですか。人という種族は何とも複雑な方々ですね」
「ええ……俺もそう思います。ジーンさん」
俺とジーンさんは夜空の満月を見上げながら会話し、黄金の洞窟の中へと入って行った。
◇
〖ジンの蜃気楼の屋敷〗
この場所へは昔、〖豊穣の巨獣〗を静める為に一度訪れた事がある。洞窟の中は黄金で出来ており。洞窟の半分まで進むと突然、巨大な屋敷が蜃気楼の様に現れる。
そして、その屋敷の中には数多くの金銀財宝が眠っていると言うが、その中へは〖ジンの魔神〗に認められた者、意外は決して入る事は許されないと言われている。
「……ここまでスムーズに進めさせてもらって良かったですか? ジーンさん」
「ええ。これも魔法世界の未来の為ですから」
「でもこれだけの人数を無条件で屋敷の中へと招いて良かったんですか? 金銀財宝や宝物を盗まれたりとかは」
「それは大丈夫でしょう。キャラバンの第一陣の方々は、位が高い貴族や商会のお若い方々で構成されています。なので目の前の財宝よりも、国を救ったという名声を欲する方々ばかりですから」
「……成る程。それで盗賊集団〖アリバの末裔〗を監視して、キャラバンの精鋭として育てたんですか?」
「ハハハ! 流石、新ボス様。慧眼ですね。あの臆病、人嫌いで思慮深いベヒーモスが懐くのも、何だか分かる気がします」
ジーンさんはとても嬉しそうに笑っていた。
二度目の〖ジンの蜃気楼の屋敷〗への旅、一度目は〖赤い(フレイヤ)の指輪〗も無くモルジナ王女も居なかったが。今回は違う。指輪も彼女も同行してくれている。本当はもう少し時間が経ってから、〖異界 イシス〗の準備と攻略を進めたかったが。仕方ない。今、ある武器や能力でどうにかやり繰りしていこう。
そして、急遽始まった今回の旅は過去最高の戦力が揃っている……もしも俺に何かあっても彼女ならどんな状況でも対象してくれるだろう。
ガコンッ……ギイィィ!!
「………着きました。新ボス様………あれがこの〖蜃気楼の屋敷〗の際奥……外界と異界を繋ぐ扉。〖ヘファイスの門〗でございます。ここはジンの案内がなければ決して辿り着けない大部屋になります」
その門はまるでフランスのパリにある凱旋門の大きさの扉だった。そして、煌びやかなデザインで装飾されていた。
「あの扉を潜れば、ヘファイストス地方の際西……蜃気楼地帯〖イシス〗に辿り着けるんですね」
「ええ。必ずに……」
「………そうなの。ここで待って居れば。いずれ、〖月〗が扉を開けてやって来るのね」
いつの間にか俺とジーンさんの隣に立っていた。
「ああ、だから今から奴等を迎え撃つ為の準備を……」
ガコンッ………ドガアアンン!!!
「なっ? 扉が爆発した? 赤い指輪も使っていない……モルジナ王女も扉に触れてさえいないのに」
「……まさかあちら側で扉を破壊するなど」
「来たのね。〖月〗」
ドササッ!っと言う音が俺達の近くで聴こえて来た。
「キャアアア!! 何で? エリスちゃん! 待って! それじゃあ。貴女があっち側に!」
「モルジナ王女?……何で君がここに?……まさか。エリスが扉の向こう側に連れてからたのか?」
「アハハハ! あら? 罠にかかったのは一人だけなの? もっと沢山あっち側に送れると思ったんだけど。残念ね……でも良いわ。七聖―女神―の聖女を殺せるならおつりが来るものね」
「……この声は……〖月〗……」
「あら? あらあらあらあら? その声は裏切り者の〖世界〗ちゃん?……そう。行方不明とあの方には聞いていたけど。まさかここに現れるなんて思わなかったわ」
破壊された扉の間の奥から赤髪の女性が数人の部下を引き連れて現れた。
「………お久しぶり。〖月〗」
「〖月〗さんよ。〖世界〗。相変わらず。生意気な言葉使いね。アンタは」
「そういう貴女は相変わらず。五月蝿い声ね。貴女は……」
「………私よりもNo.が低いくせに本当に生意気ね。良いわ。アリババ国攻略の第一歩として先ずは裏切り者のアンタを殺してあげるわ。オルビステラ!!」
「……なら、私は、フレイの為に貴女を妥当するわ。ヘカテ」
〖異界 イシス〗からの突然の来訪者が現れ、因縁深い〖世界〗と〖月〗の戦いが今、始まる。