ジーン大臣との会話
『神成 刹那 〖火炎と落雷〗時代』
「ギャオオ!! 刹那よ。アリババ国の〖アルカディア〗火山地帯に着いたぞ」
「予定よりも早く着いたな。サンキュー! スヴァローグ。まさかお前が着いてきてくれるとは思わなかったぞ」
「見張りだ。お前を単独にすると何かしらの騒ぎを引き起こすからな」
その時のスヴァローグの表情はやけに嫌そうな顔だった事を今でも覚えている。
「……お前だって放っておいたら騒ぎを起こして孤児達を救いだそうと躍起になってるだろうが」
「今は我の事などどうでも良い」
「コイツ。自分が言いくるめられると思ってこの話を終わりにしやがった」
「……そらよりもだ。刹那よ。何故、お前は異常なまでにこの戦争尽きぬ。フレイヤ地方で活動したがるのだ? 危険な依頼を受け自身の名を世間に広め様ともしている。何か目的があるのか?」
「……まあ、相棒のお前になら教えても良いか。俺は〖空間の書〗が欲しいんだよ。スヴァローグ」
「〖空間の書〗? 何だそれは?」
「あらゆる空間や次元を越える術が書かれた本だ。それを読み身に付けた魔法使いは、世界の次元を超えて別の異世界に行けると言われる……セフィロと言う賢者が書いたと言われているんだ」
「……あらゆる空間や次元……異世界に行けるだと? 刹那よ。それはまさか」
「ああ、俺は地球に帰る為にその本が欲しいんだよ。それともう一つの目的の為にもな。だから、魔法大陸のあらゆる富と財が集まるフレイヤ地方に拠点を置いてそこら中を行き来きしているんだ」
「………そうか。お前は元の場所へと帰りたいのだな。ならば手伝おう。相棒であるお前が笑顔でこの世界から帰れる様に、我はお前の帰る為の手伝いをさせてくれ。刹那……」
「スヴァローグ……ああ、ありがとう。感謝するよ。魔法世界の相棒さん」
◇
〖アリババ国 郊外〗
かつてのスヴァローグとのやり取りを思い出しつつ、俺はアリババ王から前金として譲ってもらった〖空間の書〗を読んでいる。
かつて地球へと帰る為と更なる力を得たいが為に死に物狂いで探し回った書物が今、やっと俺の手元にある。やっとこれで長年の取得したかった〖匣〗が取得できる……
「おーい! 新兄貴。舎弟達は皆、砂足鳥に乗ったぜ」
「新ボスもジーンが用意した砂馬車に乗って、乗って。出発するんだから」
突然、俺の目の前にエフエ●の大人チョコ●の様な大きな鳥に股がった。アホ二人が現れた。いや、この二人だけじゃない。数百人いる舎弟全員が肥満体型の鳥に股がったっていた。
「「「「「グエエエエエエ!!!」」」」」
鳴き声がとても汚かった。その肥満鳥達の後ろには茶色の馬の様な魔獣が馬車を引いていた。数としては五十位の数だろうか。アリババ国を上げてのキャラバンというのもあってか、大所帯である。
「アリババ国の精鋭達って君達の事だったのかよ」
「新兄貴。何で嫌な顔してんだよ」
「新ボス。嬉しそうにして」
「……ジーンさん。コイツ等。チョンジで。別の精鋭を呼んで下さいよ」
「「何でだよ!」でよ!」
「いや、君達。アホだからな……昨日の行動を見て確信したんだ」
「ハハハ!! 新ボス様は手厳しいですね。大丈夫です。アラム様も。ディアス様も盗賊王の血筋受け継いだ。優秀な方達ですから、新ボス様の役に立って下さいますよ」
「……スリを使用として逆にカモられたコイツ等がですか?」
「おう! 任せておいてくれ。新ボス」
「今回のキャラバンの旅で一番の手柄を取るよ」
アホ二人はそう言うとキャラバンの先頭へと駆け出して行った。そして、俺はジーンさんが乗っている馬車へと乗った。因みに、エリス、オルビステラ、モルジアの女性陣は三人とも同じ馬車に乗っている。昨日の風呂の件で女の子同士の結束が高まったのだとか。オルビステラが密かに教えてくれた。
要はそれって俺があの女性陣三名の共通の敵になってるって事ではないだろか? そんな事もあってか、俺は一人寂しくジーンが居る馬車へと乗った。
「しかし、アイツ等だと不安しかないんだがな……そういえば。向かう先は〖アラビア農地〗……そこにはランプの魔神が守るという〖黄金の洞窟〗があるそうですね」
俺はそう告げながら〖空間の書〗の続きを読み始めた。
「ええ、そこに〖ジンの蜃気楼の屋敷〗もございます。この首都からですと明日の夕方……満月が出る頃には、キャラバンの半数以上は到着出来るでしょうね」
「………明日は満月ですか」
俺は〖空間の書〗に読み進めながら、ジーンさんに聞く。
「ええ……最悪な事に……〖月〗が最も力を発揮する時ですね」
「そうですか……でもあちら側を裏切って良かったんですか? ジーン(・・・)さん。貴方、〖神々の黄昏〗に殺されちゃいますよ。アリババ王を通して、俺に〖空間の書〗まで渡したりしたら余計に……」
俺は〖空間の書〗から目を離しジーンさんの方へと顔を向けた。
「…………新ボス様はこの世界の行く末について、どれだけの事を知りましたか?」
ジーンさんは俺に質問する。この世界の行く末の真実を……
「……白くなるという所まで見てきました」
「白く……そうですか。やはり未来ではもう……フレイヤ地方も失くなっているのですね」
「……ジーンさん」
ジーンさんは疲れ果てた顔を浮かべていた。俺のただの〖白くなる〗という発言を聞いただけで、凄い変わりようである。
「新ボス様。今から私がお伝えする〖単語〗を良く覚えておいて下さい」
「〖単語〗ですか」
「ええ……〖不死騎士〗〖婦人〗〖英雄〗〖博士〗〖機甲〗〖●●〗です……もしも今回の騒動が終わりましたら、遂に始まります……終末が」
「……そこに〖魔神〗ははいってないんですか? ジーンさん……」
「……………ええ。〖魔神〗は裏切り者らしいですよ。裏切り、世界の未来を見たいそうです」
「そうですか。それ安心しました……ではその心優しい〖魔神〗さんが用意してくれた最後の力……大切に使わせてもらいますと伝えておいてくれますか」
「……………ええ。必ずお伝えします。新ボス様………感謝していたと必ず」
「そうですか。ありがとう。ジーンさん……」
俺は彼にそう伝えると〖空間の書〗を読むのを再開した。
ヘファイストス地方〖異界・イシス〗
「明日は満月ね。ヘカテ。準備は出来ているの?」
「はい。サード様。完璧です」
「アハッ! それは素敵ね……情報は?」
「列島大陸の〖塔〗と〖皇帝〗が死にました。例の〖救国の担い手〗とかいうの仲間に殺られたみたいですわ……ですから今、この魔法大陸に〖神ノ使徒〗はいません」
「そう! そう! 最高ね。邪魔者が居ないなんて最高よ。剣技大陸に居る御姉様も動き出したみたいだし……お馬鹿さん達が魔法大陸中で暴れてくれて、様々な国々が疲弊仕切っているもの」
「そして、明日は満月と新月が折り重なる。最高の夜ですわ。サード様」
「そうね。そうね。ヘカテ……最高よ。だから。もう我慢しないの。命令するわ。ヘカテ、行きなさいあの赤い扉を潜って……私の祖国を奪還しにね」
【●●●●●● ………?】
「はい……サード様。始めましょう。楽しい仕返しの進行を」
〖大アルカナ No.18 〖月〗〗
あらゆる終末の時は刻一刻と迫っていた……