モルジアの王女とジーン
〖アラビア商業区〗
「あー、あー、裏路地に引き込んで派手に暴れてるわ。まあ、〖陸の獣〗様の時みたい時の騒ぎじゃないから良いけど。あれって確か、〖試練の巣立ち〗で家出した貴族や商人のご子息達よな?」
「〖試練の巣立ち〗で家出した? それはどういうなのですか? モルジア王女」
彼女は聖女様のエリス。〖死の大地〗とアテナ地方の丁度境目にある国。〖七聖教会〗の総本山〖ソラリス・ラウス聖国〗が認めた魔法大陸唯一の聖女様。
「それはね。エリスちゃん。ここは元々、盗賊が興した国……〖盗賊王・アリババ・アラビア〗様が腐敗しきった政治をしていた〖パトラ〗って言う悪女が支配していた国を奪って、今の〖火と盗賊の国・アリババ〗を建国したの」
「国を奪ったですか。それはなんとも物騒な話ですね。その悪女と言われた〖パトラ〗という方はいったいどんな事をだったのですか?」
「うーん……神代時代の頃の事だから、あんまりその頃の文献とかはもう残っていないんだけどね……あらゆる種族の男だけを奴隷にしてたりとか。フレイヤ地方のあらゆる王族を誑かして、ヘファイストス地方やアテナ地方の国々と戦争をさせて裏で操っていたと書かれているわね」
「奴隷に戦争を裏で操るですか。まるでかつて〖死の大地〗で魔神達を虐げていた〖アセト〗女王が行っていた行為と酷似していますね」
「〖アセト〗女王? ●●地方にそんな人が居たの? どこの地方にも似た様な異常者が居たのね。流石、魔法大陸。昔からとんでもない人達が生きていたのね」
「似た様なですか……パトラに……アセト……駄目ですね。こんな時に勇者様が居てくれれば、私が知らない知識で答えを導いてくれるのですが」
「……いや、居るじゃない目の前に。メチャクチャ暴れ放題やってるじゃない」
「はい?……何処にですか?! まさか私に会いに来てくれ……てっ……あれは勇者様の弟君ではありませんか。嘘を言わないで下さい。モルジア王女。何を言っているんですか? 頭、大丈夫ですか? 治療してあげましょうか?」
「いや。貴女こそ何、言ってるのよ。何、馬鹿な事を……」
「フム……モルジア様。このお方。七聖―女神―と何かの契約をされていますね。その代償に超越した力を行使できる様ですが」
「エリスちゃんが七聖―女神―と?……てっ! 新大臣のジーンさんじゃない。何でここに居るの?」
「はい。モルジア様。実はですね……」
「は?……以前から予想していた事が現実になりつつあるですって?」
「はい。現在、魔法大陸に〖神ノ使徒〗が不在と勘違いしているらしく……蜃気楼の扉を通り、疲弊した我々の国とフレイヤ地方を奪い返す様ですね」
「モルジア王女。それよりも勇者様はどこに……」
「少し待ってて。エリスちゃん……今、凄く大事な事を話し合っているから」
「は、はい。ごめんなさい」
「……それで。ジーンさん。その侵略までの猶予は後、どれ位なの?」
「はい……後、三日程かと」
「は? 三日? そんな急に過ぎよ。これからフレイヤ地方の五大列国に知らせたとしても、各国が軍を編成するのに数週間はかかるのよ」
「ええ、ですから。モルジア様には、これから私と共にアリババ王の元へと来て頂き、先遣隊として、王国の精鋭を率いたキャラバンの編成の許可を頂ける様に進言してほしいのです」
「……ええ、行くわ。エリスちゃん」
「は、はい。お話は終わりましたか。では勇者様の事を……」
「貴女も私達と一緒にアリババの宮殿に一緒に来て。この事は……〖異界〗からの進行はフレイヤ地方だけの話で収まらない。魔法大陸全体に影響する事……〖神々の黄昏〗と関係が深いお話だから」
「〖神々の黄昏〗!……そうですか。ギアートル様が居る組織ですか……そうですか。なら私にも関係がありです。魔法大陸の聖女の地位を持つこの私が……」
◇
エリスとモルジア王女達がそんな話しをしていたというのは、その日の用事を全て終えて王宮へと帰って来た時に二人に聞かされた。
そこには盗賊の屋敷で出会ったジーンさん何故かモルジア王女と共に居たのだが。何故、一緒に居るのかと話を聞いてびっくりした。以前、人族に化けてこのアリババ国を支配していた大臣事、魔神・〖ジャズ〗の後任として、数ヶ月前から王宮に使えて居るのだとか。盗賊の屋敷での執事の様な振りも、裏世界の情報を知る為に行っているらしい。
どうりで身のこなしや、高度な魔法技術を有しているわけだ。そして、昨日だが……正直。疲れた。
次の旅での備品の準備。〖月〗への対策としての魔道具集めたり。盗賊達をシメて物資とアジトを手に入れ。そこでオルビステラと今後の動きや、今の魔法大陸の動向について話あったりと昨日は忙しい一日だった。
そんな事があってか、王宮に戻り、各自に用意された部屋に入った瞬間。俺は寝間着を用意し、転移魔法で王宮自慢の大浴場に転移し、一番風呂と洒落込もうとした。
だが転移した場所が運悪く女風呂で、エリス、オルビステラ、モルジアが三人仲良くお風呂に入っていた。
そして、俺は急いで謝り転移で逃げ様としたのだが、エリスに腹パンされその場で悶絶、素っ裸のまま女性三名にボコボコにされた挙げ句、意識を失いその日を終えたのだった。そんな多忙な一日が開けた次の日の朝、俺達はアリババ王が居る王の間へと集まっていた。
一日後の〖アリババ王宮〗
「……痛えよ。色々な箇所が」
「皆の裸を見たんだから、当然の報いだけど……少し可哀想とも思うわ」
「……そうか。そう言ってくれるのは君だけだよ。オルビステラ。ありがとう」
「………本当。そういう無自覚な所で滴し込めるのかしらね……この人って……複雑」
「何か言ったか?」
「……いいえ。何も言ってないわ」
「?」
オルビステラは頬を少し赤めながら、俺から顔を背けた。
「ホホホ……〖異界〗よりの侵略者達のう。まさかよご先祖様の言い伝えが本当だったとはな」
「予言ですか?」
エリスがアリババ王に向かって聞く。
「ホホホ……ああ。ワシ等のご先祖。盗賊王様からのご忠告でのう。『悪辣な女王から国を奪い平和にしたが。奴は常に機会と準備をしている。アリババをまた奪い返えさんと思案する。注意せよ。我が子らよ。奴等は悪意と復讐を糧に生き延び、再びこの国に害を成す為、現れる〖異界〗を越え、扉から……ならば逆に迎え撃て、奴等の悪意が全土に撒かれる前に……』と少し長いご忠告じゃ」
いや、メチャクチャ長いご忠告だった。
「……お父様。どうなされますか? フノスやアダマス等の隣国援軍を要請して……」
「ホホホ……いやそれでは間にあわんじゃろうな。ジーン大臣は言っておった。後、二日程で扉を越えるとのう。〖異界〗から来るのならば各国の援軍は間にあわん」
俺は昨日の風呂の件があってか、余り発言をしていない。何より何か喋れば、聖女エリスの鉄拳が即座に飛んで来そうに思えたからだ。それだけ彼女の力は強いんだ。
「……なら、この都市で迎え撃つしかないのですか? 貴方」
「いえ。昨日もモルジア様と話し合いましたが……ここは我が国の精鋭達を率いてのキャラバンを編成し、『ジンの蜃気楼』で扉の開門を未然に防ぐ事が最善と思います」
「ホホホ!! 扉の開門を未然に防ぐですか。成る程のう。それならば、扉から大群が来るまでの時間稼ぎにもなるのう……その間に五大列国に連絡を送り、軍の編成のをしてもらおう。じゃがキャラバンの準備には最低でも一日以上はかかるのう」
「いいえ。お父様。準備なら昨日の昼頃から、宝石商のルルカメ家が中心となってやっていてくれた様です。今からでも出発できると今朝、朝早くに魔鳥で連絡を頂きました」
モルジア王女がアリババ王にそう進言した。
「ホホホウ……それは何とも行動が早いのう。しかし、我が国だけの精鋭達だけで〖異界〗からの扉を防ぐのは困難を極めるのう……どこかに強力な協力者は……おお、そういえば。お主には以前、魔神・ジャズの侵略からこの国を救ってもらった事があったのう。婿殿」
アリババ王が俺に嬉しそうに話しかけてた。何とも裏表が無い善人の顔をしている王様だろうか。人の良さが滲み出ていいるな。
「……俺ですか、アリババ王」
「ホホホ。ウム……そうじゃな。お主がキャラバンに動向してくれるならばのう……ワシが昔、〖ジンの蜃気楼〗で手に居れた〖空間の書〗を授けよう」
「はい! やります! 是非、行きます! 行かせて下さい! アリババ王!!」
「……何で即答なの?」
「渋ると思ったのに」
「……声は勇者様に似ているんですよな。この子」
オルビステラ、モルジア王女は俺の態度に困惑し、エリスは何故か俺の顔を見て不思議そうにしていた。
俺のテンションが上がるのも当然だろう。だってアリババ王がくれる代物は俺が、長年フレイヤ地方を拠点として探していた物なんだからな。