盗賊の商業街
〖アラビア王都内〗
アリババの王宮から転移で脱出した後、俺は一人と神獣一匹で首都アラビア内にある商店を巡っていた。
「おっとゴメンよ。兄ちゃん」トンッ……
「しかし、鵺様。俺に勝手に付いてきて良かったんですか? 鳴神様にバレたら怒られますよ。天雷魔法〖針雷〗」
「ギャアああア!! 何で? 身体が痺れて?」ドサッ!
「ん? ああ、良いんだ。タケルが逝っちまって、今の列島大陸には居たくなかったしな。それに鳴神様にはちゃんと許可はもらってるんだぜ。雷様よう。面倒ごとは蓬莱に任せて、行ってこいだとよ」
「ちょっ! どこ見て歩いてんだい。気を付けなよ」トンッ……
「へー、鳴神様がそんな事を……あの黄龍様は本当に色々と気にして見てますね。天雷魔法〖針雷〗」
バリバリ!
「なっ? 身体から雷が?! キャアアア!」
「ああ、多分、鳴神様は休みをくれたんだよ。傷心している俺を気づかってな……しかし、さっきからやたらとスリが多いな。この国は、どうなってんだ?」
「あー、休みですか。まー、確かに〖イシス〗の国に行く事がなかったら。休みになったかもしれないですね……本当だったら。あそこにはもっと時間をかけてから行く予定だったりしたんですがね。巻き込んでしまってすみません」
「いやいや、良いんだ。それにその〖いしす〗って所にも居るんだろう? 〖神々の黄昏〗がよう」
「……ええ、まあ。恐らくは〖月〗だけだと思います……多分。もう一人の情報は未だに掴めないんで解りませんが」
「そうかい。なら丁度良いじゃねえか。列島大陸の奴等を短期間で倒したんだ。奴等も今頃、大慌てだろうしよう。こっちから仕掛けて、畳み掛けるように倒してやろうぜ」
「ですね……しかし、本当にスリが多かったですね。黒いフードを着て観光客だと思われたからでしょうか?」
「まあ、異邦人は格好のカモにされやすいからな」
「ええ、何で逆にカモにしてやりましたよ。俺にスリをしてきた奴等の財布がこんなに……お陰で自分の資金を使わずに度の準備が出来そうですよ」
「……雷様も大概だな」
「彼等の自業自得ですよ」
俺と鵺様そんな会話をしながら、その場を立ち去った。
「……ディアス。アイツに金、スラれちまった」ドサッ!
「……アラム。うちもだよ。ゆ、許さないから……」ドサッ!
〖商業街〗
「おっちゃん。ラムルの角、リリクナの薬草、フタクラムの顎髭をあるだけ全部くれ」
「おっ! 若い兄ちゃん。ツウだね。上級ポーションでも作るのかい?」
「ん? ああ、長旅に行ってて帰ってきたばかりで、予備がなくてな。でも、また直ぐに別の場所に行く事になって、急いで素材を集めてるんだ」
「ほーう。そんな若そうなのに長旅ねえ。わけありかい……ソーマの実だ。これも持ってきな。それとクリラの木の実もくれてやるからこれ食って栄養つけな」
「おっ! フレイヤ地方のごく一部でしか取れない貴重な実かよ。サンキュー! おっちゃん」
「おうよ! 沢山買ってくれてあんがとよう。またなんか。買ってくれや!」
〖魔法石店〗
「オーナー、リュシ鉱石、ミュウの聖霊石、コルカラの石、ホルステの緋昌をあるだけ貰えるまふか」
「は、はい? あるだけでございますか? お、お客様。お客様がお求めになられました四種全て、とても貴重な魔法石でして……見た所、お客様はまだまだお若く見えますし、ほんの少しランクを下げた魔法石をお求めになられてはと個人的に思いますが……」
「ん? ああ、金の心配ですか……」
「……大変お応えヅラいですか。そうなります」
「はいこれ。さっきスッた……そこら辺で手に入れたお金とこっちが俺の分ですけど。これだけあれば足りますかね」
チャリンッ………(スリ達から巻き上げた分)
ジャラジャラジャラ……(俺の所持金)
「何でとおぉぉ! 最初の小汚ないズタボロ袋はフェイク。本命はミスリルを使用したギルが何枚も……失礼致しました。お客様。直ぐに在庫全てをかき集めて参ります」
「ええ、よろしくお願いします」
「はい! 速やかに!」
魔法石店の店長はそう告げると店の奥へと走って行き、俺が言った魔法石を急いで集め出した。
「……雷様って、案外金持ちだったんだな。少しビックリしたぜ」
「え? 何ですか? いきなり……」
「いやだってよう。雷様ってけっこうケチじゃねえか。数ヶ月前のロマ・テレシアの旅の時も、ラインバッハって奴に旅費の全てを負担させてたんだろう? 俺はてっきり一文無しの甲斐性なしかと勘違いしてたぜ。あの新都市の開発もアイツが全額出したと思ってたしな」
「ああ……あの時ですか。あれはですね。わざと貧乏だと見せてたんですよ」
「わざと貧乏に見せる?……意味が分からんぞ」
「いや、それはここいら一帯の治安の悪さのせいですよ。フレイヤ地方の西部やヘファイストス地方で金持ちアピールすると……」
「あっ! アイツ! あんな所に居たぞ。ディアス」
「本当だ。それに大金も持ってるよ。アラム。奪っちゃおう」
「だな!」
「うん!」
「「盗賊の民の末裔である我々に金を寄越せえぇ!!」」
「……ああやって盗賊行動をするアホがいるんですよ。聖魔法〖真聖の罰〗」
「「ギャアアアア!!」」
「ああ、成る程な……」
「お買い上げありがとうございました♪ またのお買い上げをお待ちしておりま~す!」
俺は魔法石購入後、丸焦げの少年二人を引きずりながら魔法石店を後にした。
〖商業区 裏広場〗
そして、裏広場まで連れてくると軽い躾を行い、俺の言う事なら何でも聞くお利口な兵士となってくれたのだった。
「担い手さん。俺達の舎弟、全員集めました」
「兄貴、商業区を仕切ってる盗賊達もです」
「んだ? やんのか?」「オラッ!」「あん? ただの子供じゃねえか」「お母様と離れて? 迷子か? 子供君」
躾がいがある奴等だな。
「………そうか。良くやった。天雷魔法〖痺れの雷行〗」
「「「「「グォギャアアアア!!!」」」」」
「「ギャアアアア!! 何でこっちまで?!!!」」
「……容赦なさすぎだろう!」
「先に手を出してきたのはあっちですよ。だから、ちゃんと本気で戦ってあげないといけません。オラッ! 王都中の商業区の土地の権利書、裏資金、魔法大陸の最新情報、貯め込んでる金銀財宝を昼過ぎまで全部持ってこい。盗賊集団〖アリバの末裔〗共。じゃないと更に電撃を喰らわすぞ」
「「「「「ヒイィィィ!! すいやせぇん!!」」」」」
「俺達の正体……いいいい!!」
「何でバレてるるるる!!」
「誰が勝手に喋って良いと言った。さあ、早く今、言った事を実行に移すんだ。じゃないともっと強い電撃を……」
「「「「直ぐにやります! ボス!」」」」
こうして俺はここに来て、半日も経たずに、商業区の土地の権利と莫大な金銀財宝、情報、忠実な部下をゲットしたのだった。
「……やり方がエグ過ぎて引いたぜ」
そして、この騒動終了後に鵺様にそんな事を言われたのだった。