祭り夜明け前に西方へ
〖帝都 神帝区画 高層塔〗
「自身の魔力を込めれば直ぐに発動する。やってみてくれ。焔」
「はい! 発動せよ。『写しみの虚像』よ……」
高層塔の一角で俺は焔と共に一緒に居た。昨日、渡した『写しみの虚像』の発動の仕組みが分からないと言われたので、発動を手伝う事になったんだ。
「おお、焔君が二人になっていくね」
赤ムササビの〖緋龍 灰神楽〗が驚きの表情を浮かべる。
「……いや、二人になるというより、聖霊が依代になって、焔を鏡の様に写しているだけなんだよ」
「へー、そうなのかい。知らなかったね」
「……焔様。今後の帝都復興はお任せ下さい」
「凄い。本当に私が二人になりました……では、これで……」
「ああ、焔は魔法大陸に来れるな。だが、その前にそっちの焔には色々と今後の予定はちゃんと伝えとけよ」
「は、はい! では、分身の焔さん。あちらで今後の事を話し合いましょう」
「畏まりました。焔様」
二人の焔はそう言って俺と灰神楽から離れて行った。
「……祝勝祭が終わったら、魔法大陸に帰るのかい? 少年」
「……ああ……灰神楽……今まで護ってくれて……」
「列島大陸を助けてくれてありがとう。少年……感謝するよ。君にはね」
灰神楽はそう告げて、俺の肩に乗っかった。
「……俺も感謝しているよ……灰神楽には……幼少の時からずっとさ……それだけじゃない。ティアマト地方の時だって君が助けてくれた」
「……そうかい。そう言ってくれると護っていたかいがあったかもしれないね……少年。済まないが君とはここでお別れする事にするよ……」
「……そうか」
「おや? 驚かせないのかい? 以外だね……自分はこの列島大陸を再生する事に尽力するよ」
「……そうか」
俺は灰神楽の話を静かに聞き、頷く。
「君達と離れるのは寂しくなるけどね……自分はここに残って列島大陸の子達を強くし、彼等に託し。天界に帰るとする」
「……うん。灰神楽ならそうすると予想していたよ。君は子供を大切にする七原龍だからな」
「ハハハ……流石、一番長く君と時を過ごした『始祖・神集九煌』っといった所だね。君は自分の事をちゃんと理解してくれていたよ」
「……ああ」
その後、俺と灰神楽は数時間程、今までの思い出を語り合った。
〖帝都 帝守閣〗朝明け前
帝都都心部は、帝都郊外から戻って来た人族や、〖黒龍の巣〗の竜族、七原龍の配下達が祝勝祭を楽しんでいるのが聴こえて来る。
「……よっと! 神成殿。お土産として、お主には列島大陸の各国の名物や素材、希少素材を、この収納魔道具とやらには入れておいたでござるよ」
「流石、建宮。数日前にいきなり頼んでおいたのにもう用意してくれたんだな。サンキュー」
「うむ!……神成殿!」
「ああ、建宮!」
パンッ!!
俺は建宮と右手を勢い良く叩き合い。その後、握手を交わした。
「……お主にはまた助けられた。感謝するでござる。少しの間でござるが焔様を頼むでござるよ」
「……ああ! こっちこそ。裏で色々と動いてくれて助かったさ。それじゃあ……また、会おう。建宮!」
「うむ!」
ギイィ……!!
〖天の門〗
「済まん。少し遅れた」
「刹那……来たか」
「……兄弟子。挨拶周りは終わった?」
「転移魔法陣を繋いだら直ぐに戻りますね。写し身の焔さん」
「はい! 焔様」
「少しの間こちらの事は任せるでござるよ。焔様」
「……良し。挨拶も済んだ。晴明さんの情報で、各国の姫達がこの帝都に向けて復興支援しに押し寄せるとか言っていたし。朝明け前には立ちたかったからな。それが叶って良かった……では〖七原龍〗の神々よ。力を貸して頂きありがとうございました。また、どこかでお会いしましょう……転移魔法〖海路転移門〗」
青色の転移もんが俺達の前に出現する。
「……帰ろうか。俺達の場所……〖魔法大陸〗へ!」
「うむ!」「……うん」「は、はい! 初めての……別の大陸……」
「また来るでござるよ~」
「さようなら~! 此度の動乱鎮圧。本当にありがとうございました」
ガゴンッ……!
海を渡る為の海路転移門が開かれる。
「開いたぞ! 礼の花火を上げよ!」
「ハハハ! あの堅物鳴神が祭りを仕切ってるね」
「少年……また会おう」
「各国に帰した筈の姫達が来ますね」
「大蛇の奴! また何処かに行ったんですか?」
「……好きあらば逃げますね」
〖帝都〗の夜空に六色の華麗な龍が舞っていた。
魔法大陸からやって来た、来訪者の〖神ノ使徒〗に感謝を伝える為に舞っている。
動乱を終わらせてくれた彼に心からの感謝を伝える為に。
その夜明けの時、〖七原龍〗達は帝都から上がる数多の花火と共に、喜び舞ったのだ。
列島大陸の未来の平和を願う為に。彼等は舞い続けた。
動乱終わりし、この列島の明るい夜明けの為に。
六匹の龍達は舞い続ける。
第五部『和国動乱』編
終
これにて第五部〖和国動乱〗編は終了になります。
そして、数話後。第六部〖異界創造〗編が始まりますので、よろしくお願いいたします。