乖離決戦・列島を想いし皇天は未来を願う No.3 双曲と白剣
以前、ロマ・テレシアの戦いの時、〖鵺の双曲〗はセシリアが使っていた。〖鵺の双曲〗は使い手の力によって武器特性を変える。セシリアの場合は速度と切れ味だった。
では俺の場合の〖鵺の双曲〗の武器特性は……雷撃と攻撃の変則性である。
「……畳み掛けろ。〖白鵺・短刀 五月雨〗」
黒の短刀に続き、俺は白の短刀を帝に向かって投げつける。その刃の起動は歪かつ、刃が帝に近付くに連れて分裂し、奇妙な振動を振るわせる。
「ハハハ……容赦ない。攻撃をするね。漿神(すいじん)魔法〖白の扇〗」
帝が白い長剣を軽く一振する。すると剣の先から青色の水柱が彼の周りを守る様に現れた。そして、白鵺・短刀の刀の動きがその水柱の前で止められてしまった。
「〖神秘〗を帯び短刀の攻撃が止められた? それに漿神(すいじん)魔法?……神明魔法じゃない魔法か?……帝。お前何者なんだ?」
俺はいとも簡単に攻撃を封じられて驚いたが、それとは別に疑問が浮かんだ。俺の目の前に立つ少年の様な姿の人物。
髪色は大和男子の様な黒髪が艶やかに肩辺りまで伸び、童顔で今の俺の年齢に近い位の……日本の中学生位の背丈だろうか。
その姿が逆に異質さを際立たせている。なんせ黒髪だった髪色が、白い長剣を持った瞬間。白の髪色へと変わり、彼は全身に神聖を帯びたのだから。
「僕かい? 僕はこの列島大陸を〖七原龍〗から奪い。動乱を終わらせ、天下を統べる者……天上天下唯我独尊を成すもの……武の統一者〖武皇〗に成るのさ」
彼は自信満々にそれが当たり前だろう。と言うような口振り俺の問いに応えた。
「貴方のそんな身勝手な発言……許されると思っているんですか! 不知火神術〖火霧雨〗」
焔は〖火龍刀・灰神楽〗を十字切った。するとマッチ棒の用な大きさ程の小さな火矢が現れ、帝へと迫って行く。
「ハハハ!! 地球から帰還した不知火家の守り神が戻って、自分が強くなったと思っているのかい? 焔将軍……いや、〖七原龍〗の奴隷君。漿神(すいじん)魔法〖白川の一閃〗」
帝の掌から白色の液体が、焔が放った火矢へと飛んでいく。
「……この臭いは……硫黄か? 焔。その攻撃を中止しろ! このままじゃあ、俺達もその攻撃の巻き添えを喰らうぞ!」
「ハハハ……それが狙いさ」
「……これは? 私が放った火矢が爆発し始めた?」
俺は焔に向かって咄嗟に叫んだが遅かった。列島大陸の動乱の元凶である帝と対峙して、冷静さを失ってるのか……不味い。転移できる俺ならまだしもこのままじゃあ、焔が大爆発に巻き込まれる。
そんな事を考えている間に硫黄が火矢に着火し、強烈な爆発を生んでいく。
(雷様よう。慌てんな……まだそんな場面じゃないだろう。ここは俺に任せな)
「鵺様?……いったい何を?」
「ふざけた。ヤろうにお仕置きするのさ。神話・回帰‥‥‥‥‥雷火の法『鵺の伏魔殿』………囲め‥‥‥‥‥『獣幻跋扈・鵺の魔園』」
ドガアアアアンンン!!!!バリバリバリバリ!!
「ゲラゲラ!!!」「ギリギリ!!!」「ゲラゲラ!!」「アハハハ!!!」「ゲラゲラー!!」
鵺様が放った異空間が帝を巻き込み拡がっていく。神獣の力が現実に侵食する。
『鵺の伏魔殿』
「……へー、これは神話の力。具現化の力かい? 鵺……」
「〖列島大陸〗が誇った神代の大英雄が、現代の〖将軍〗を煽って殺そうとするじゃなねえよ。タケル……」
「その呼び方……やっぱり。君が何もせず、ここまで来たって理由は」
「かつての仲間の暴走を止める為に決まってるだろう……これから始まるは数千の獣のによる狩りだ」
「君にできるのかい? 現代まで恥ずかしく生き残った元、僕の仲間よ」
「たりめえだ。だからこの『鵺の伏魔殿』
にお前を迎え居れたんだからな」
身体全身に傷を負った帝が現れるのは、その数分後の事だった。
〖神帝区画 帝守閣〗
「馬鹿やろう! 何で火炎の攻撃を途中で止めなかった? 〖灰神楽〗なら直ぐに出来ただろう! 鵺様の機転がなければお前が焼け死んでたんだぞ」
俺は焔の着物の胸ぐらを掴み、激怒した。
「……つっ! それは……ごめんなさい」
しどろもどろになり、俺と目を合わせる焔。
「……帝と対峙して、頭に血が上ったんだろうが。少しは冷静に戦うんだ。焔……君はこの列島大陸の主なんだ。帝に勝って、列島大陸を救わないといけない」
「……はい。すみません。刹那さん……私、周りが見えていませんでした」
「ああ、次は冷静に戦うんだ。そうじゃなきゃ、さっきみたいに虚をつかれて策にはめられてしまうからな」
「……はい」
この不知火 焔は、まだまだ精神的に冷静さをかける。昔、〖黒龍動乱期〗に出会った時もそうだったが……まるで心の成長期が成されていない。
列島大陸の統治は〖七原龍〗達が、将軍家を手厚く補佐し、共にやっている為の弊害なのだろう。その為に焔、自身の成長を妨げているのだろう。
「……後、少ししたら、あの異空間から帝が出て来る。その時は状況を間違えない様に技を放つんだぞ。久しぶりに〖雷火の殺陣〗をやろう。あれで一気に帝を追い込む」
「……はい。次は冷静に立ち回ります。刹那さん」
俺は焔の胸ぐらを離し、彼女の肩を優しく叩いた。そして、次の攻撃の準備を整え始めた。




