帝の判断
『神地 天照 火之神城跡』
「私と〖八岐大蛇〗様で揃えた神具の〖神秘〗が失われている……どうやら〖天照〗様は復活された様だ。良かった……」
「晴明様。西より。復興隊の第一団が到着致しました」
「君は曼陀羅寺の呪詛師殿か……了解した。数刻後、〖天照〗様により、西の地に結界が張られる予定だ。火之神城塞都市の復興を開始しよう」
「復興ですか?……ですが資材等がまだどこにもありませんが」
「〖鳴神〗の地で起きた大戦で敗れた〖怪異〗達が、取り憑いていた木材や資材がある。それを私が清め神聖を帯びさせ供養とする……彼等を呪いではなく。この火之神城下の守り神として奉るのだ」
「……りょ、了解しました。晴明様のお考えは良く分かりませんが、復興の準備を開始させて頂きます」
「ああ、頼む……鈴殿、鈴殿は私の近くに……おや? 鈴殿。どこに居る?」
◇◇◇◇◇
〖帝都 〖神帝区画〗 神帝塔〗
「帝様……下位区画を守らせていた〖山本五郎左衛門〗が倒されたようです」
「ハハハ……まさか。一撃で殺れるとはね。しかも潜伏していた〖七原龍〗の〖月詠〗と〖樹龍〗が顕れるなんてね。面白い! これは凄いな。同じ場所に列島大陸の六神が揃うなんて。素晴らしい! 最高の舞台に成ったじゃないか! それにこの〖神帝塔〗に向かって来るのが〖神ノ使徒〗二人にユグドラシルの眷属かい」
「どうされるので? 帝様……迎え撃ちます?」
「いや、待とうか。大嶽丸君は〖中級区画〗に向かったかな?」
「あい……先程、西の遠征から戻ってきたと思ったら、怒りの表情を浮かべながら戻って来たでありんす」
「ハハハ。本当は〖黒龍〗の地は攻略出来ていなかったかな? 〖七原龍〗の誰かにでも無理やり契約でも交わされて、口封じされていたみたいだね……空には〖天照〗も入るか」
「私が止めを刺した筈なのにまさか生きていたとは思わいもよらなかったです」
「いやいや。あれは〖新生〗したんだろうね」
「〖新生〗でありんすか?」
「ああ、バラバラにされた身体を神託でもして戻したんだろうね……〖塔〗君の身体は、神代の陰陽師 晴明が使われていた。それを復活させたのかい。あの異邦人は……やってくれるね」
「帝様は私は〖上級区画〗に向かいましょうか……帝様?」
「うん。そうだね……〖鳴神〗の地に向かわせていた滑瓢君と彼に預けた怪異の大軍の気配も西から感じられない……こんな短期間で〖黒龍〗〖青龍〗〖鳴神〗〖天照〗の四つの神地を抑えてくるかい。彼の実力を侮っていたね。うん、うん……そうだね。鈴鹿、〖上級区画〗に行ってくれるかい? 僕はここに残って〖七原龍〗の六神を殺す儀式の準備に入るからさ」
「……了解でありんす。ですがそれでは帝様の護衛が居なくなります。〖五大怪異〗のうち残って入るのは私と大嶽丸さんしか居ませんが?」
「その護衛は我々がする」
「ええ……ええ……お嬢は〖上級区画〗の守りを固めて下されや」
「大天狗様に……天邪鬼様……いつの間に雪国と樹海から来られたのでありんすか?」
「うん。僕がさっき呼び寄せたんだ。この二人が居れば、ここの守りは万全になるからね」
「そうですか。流石、雪国と樹海の支配者様方。ご到着がお早いですね……では、帝様。行って参ります」
「ああ、あちらの作戦は短期決戦だ。こちらはじっくりと籠城し。一人、一人始末していけば僕達の勝ちだ……〖七原龍〗の六神を殺しさえすれば、おのずと〖列島大陸〗は僕のモノに……〖神々の黄昏〗の元へと落ちるんだからね。ハハハハハハ」
〖帝都 中級区画〗
「ギャアアア! 竜の群れが?!」「〖下位区画〗の奴等が殺されているぞ」「呪われの民だろ? 別にあんな奴等が死のうが……」「隣の住民が殺られたぞ」
突然現れた。〖七原龍〗に帝都に住まう住民達が混乱している。怪異に取り憑かれていない住民達が騒ぎ始めている。
「帝都中が騒がしくなってきたのう」
「〖黒龍〗様が通った場所から大量の竜が帝都内に入って来ていますからね。混乱するのも当然かと」
エスフィールと焔が辺りを見渡してそんな会話をしている。
「シュラララララ!! 順調だな。このまま〖中級区画〗を抜け。〖上級区画〗に突入するぞ」
「突入するって! 大蛇! 目の前に壁があるんだぞ」
「ああ、だから破壊しよう。神話魔法〖蛇龍の剣〗」
ザスッ! ドガゴオオォォン!!
〖黒龍 八岐大蛇〗の神話魔法の攻撃で、中級区画と上級区画の間にあった壁が粉々に砕かれ、道が出来た。
「……何だ? この大蛇の力は? これが神地の力を取り戻した大蛇の力なのか?」
「そうだ……そして、我が新しき主を運べるのはここまでの様だな」
「……大蛇?」
大蛇は崩壊していく上級区画の壁を見ながらそう告げた。
「〖黒龍〗!! 貴様!! 帝様の帝都を破壊するとは何事かあぁ!!」
「シュラララララ!! 来たか。大嶽丸……近くに入るな。裏切りの鵺。鳴神の僕の蓬莱よ!!」
大蛇がそう叫ぶと俺のフードの中で大人しくしていた鵺様と蓬莱様が顔をひょっこりと出してきた。
「……黒龍様。お久し振りです」
「……何であの恐ろしい〖黒龍〗様がここに居るんだ?」
「裏切りの鵺よ。昔の事は忘れてやる。お前は我が新しき主とその仲間を連れて先に行け。我はこの闘いに集中するのでな」
「…はっ! 畏まりました。〖黒龍〗様。神成様達。俺の背中に乗りな。先を急ぐぞ!」
「……あ、ああ、大蛇。良いのか?」
「うむ……先に行ってくれ。今から向かってくる相手は浅き因縁があるのでな」
大蛇がそう言った瞬間だった。その瞬間。魔猿の様な異形が俺達の前に飛び出して来た。
ドゴオオンン!!
「オラアアア!! 侵入者共があ! これ以上行かせるか! ボケ共がぁ!!」
「「「「「「「「ジュラララララ!!! 興奮して変異したか? 大嶽丸。良いぞ! 最高の舞台は整えた。さあ、殺ろうか! 我々の楽しき余興を! 殺し合いな! シュラララララ!!!」」」」」」」」
〖黒龍 八岐大蛇〗は高らかに笑い。この帝都短期決戦は幕を開けた。