これからの動乱
呪詛の王 観勒……いや〖塔〗との戦いから一夜開けた。【皇帝】によって反転したルシファーについては、ブリュンヒルデが東の地へと追って行った。
俺が契約している人達の中でも、無類の強さを誇るブリュンヒルデなら引き分けがあっても負ける事は無いだろうとは思うが……戦いに絶体は無い。戦闘中、アクシデントがあるか。
そんな事を考えながら、一夜を過ごした次の日。〖火之神城跡〗で黒翼の異様な者と甲冑を纏ったの天女が、激しい戦いを繰り広げているのを焔将軍の直属配下〖御庭番集・烈火〗とか言う数名の部下が、戦闘を目撃したと報告してきた。
その後、その二人の人物達は突然居なくなり、火之神城の空には藍色の球体が浮かび始めたとか。
〖曼陀羅寺 本殿〗
「焔将軍様。改めまして……西の地の 『弐の神地 青龍』を〖青龍 蒼青〗様より承っておりました。晴明と申します。数年前、東の帝の策にはまり、死に体の存在となり過ごしていた所存です」
「……そうですか。セイメイ殿ほどの方がその様な事になっていただなんて知りもしませんでした。私側の方も東側……いえ、帝都側からの度重なる進行で西側の事は疎かになっていたせいでしょうね。長年に渡り、セイメイ殿をお助け出来ず申し訳ありませんでした」
「……いえ、こちらこそ。むさむざと帝側に体を奪われ、火之神城……〖神地 天照〗一帯を帝側に奪われる事になってしまうとは……」
「そう……ですね。それは私の油断による失態です……」
一夜明け、曼陀羅寺に集まった各々が改めて挨拶を交わしているんだが、空気が重い。
「おい。刹那……あれがウリエルの刹那ハーレムの書に載っていた。〖不知火 焔〗将軍か? 可愛いのう!」
エスフィールが鼻息を荒くさせながら、焔将軍…焔の事を見つめている。こんな重い空気の中、興奮してるとか変態か? この魔王は
「ん? ああって、昨日、ちゃんと紹介したろう? 列島大陸の」
「〖神ノ使徒〗じゃろう? そして、〖天照〗神と〖緋龍 灰神楽〗神の二神の眷属の。ちゃんと覚えておるぞ。昨日の夜、あの者と一緒に刹那にお仕置きしたことものう」
「……ああ、俺を正座させながら、その上にどこかから持ってきた石段を山の様に積んでたよな君達。一心不乱にさあ……」
「当たり前じゃろう。必死にお主を探しておったのに、見つけてみればはだけた美少女に馬乗りにされながら喜んでおったんじゃから、お仕置きして当然じゃ」
「……そうか。だから君達は挨拶もしないで、無言でずっと俺にお仕置きをしていたのか。最悪だな。君達……お陰で朝方辺りには瀕死に追いやられたんだぞ。蘇生魔法で身体を治さなきゃいけない羽目にもなったしな」
「うむ。刹那が頭の可笑しな娘と仲良くなるから悪いんじゃな。反省せい」
「いや、それを言ったら。その頭の可笑しな娘の中に君も入って……ゴホッ?!」
「黙っておれ、刹那。会議が始まるようじゃぞ」
「お、己、エスフィール……君、俺の脇腹を……」
こ、この……エスフィールの奴。誰も見てない事を良い事に、俺の脇腹にチョップして来やがった。相変わらず。俺に対して容赦ない魔王様だな。
「君。後で覚えてろよ……」
「ほう? 良いのか? あの焔将軍にアルディス先輩やアリスとの関係を暴露して?」
エスフィールはそう言うと、ウリエル自作の〖ご主人様ハーレム辞典〗なるものを俺の前に見せてきた。
「……聖魔法〖正掌〗」
俺は小声で捕縛系の聖魔法を唱え。
「ほれほれ、良いのか? 刹那~」
ガシッ!っとエスフィールが持っていた 〖ご主人様ハーレム辞典〗の奪取に成功した。ヨッシャア!!!!
「ほれほれ~……む?」
「ヨッシャア!!! この時を待っていたんだ! 君がこの頭の可笑しな本を俺の前に出す事をな……これで俺は女の子達から冷めた目で見られなくなる。これで晴れて自由の身に……」
「何じゃ? 複製本が欲しかったのか? そういう事なら早く言えば良かったろうに」
「……何? 複製本だと?」
「うむ。地球に居る時に原本を元に百冊程、学校で刷ったのじゃ」
「百冊だって? それは今、どこにあるんだ?」
「私の収納魔道具の隠し部屋じゃな」
「……何……だと?」
「それと焔将軍とやらには昨日、今回の動乱の件が済んだ時には、渡してくれと頼まれておるからのう。良かったのう。刹那」
「…エスフィール。貴様……き、君、だってタテミヤと昨日、イチャイチャしてたろう?」
「タテミヤ?……あの貧弱忍者がどうかしたのかのう?」
エスフィールはそう言うと本殿の片隅で寝かされているタテミヤを見つめた。
「貧弱忍者……君。酷い良いようだな」
「うむ。敵に精神と身体をを乗っ取られ、私に攻撃するなど貧弱でしかな……」
「コホン……刹那さんとお付きの冥土の方。今から和国の現状について整理さてお話するので発言は控えて下さい」
「あっ! 済まん。焔……君のせいで怒られたぞ。エスフィール」
「……刹那がアホな事ばかり言っているのが悪いのじゃ」
「……兄弟子とユナ姉仲良すぎ」
「ラブラブは死ねば良いの」
俺達のやり取りをサーシャと鈴が冷めた目で見ていた。
「……おほんっ(しばらく会ってない間に新しい女の子を……)……おっと。失礼しました。改めまして、列島大陸 和国が現将軍 〖火之神 焔〗です……現在、私達は東の地〖帝都〗側の進行により、〖天照〗〖月詠〗〖緋龍〗の神地は掌握され、〖樹龍〗の紫樹海以外の地帯を抑えられています」
「うむ。そして、数ヶ月前の〖火之神城〗襲撃を皮切りに〖黒龍〗〖青龍〗〖鳴神〗の神地にまで、帝側が進行を開始したのが数日前の話だ」
セイメイさんが焔の話を捕捉するかの様に説明してくれた。
「そして、昨日、青龍の支配者たる〖塔〗を倒す事で〖青龍〗の神地を解放する事が出来ました」
「ヒュララララララ! それは上々だ。ならばそこに〖黒龍〗の地は主が戻り息を吹き替えした事を付け加えよ」
……この独特の喋り方。まさか。
「?! 何者です?」
「あ?……何だ貴様? 我を知らないだと? 面白き冗談だ。首を跳ねてやろうか?」
「大蛇……帰った来たのか?」
「おお! 我が新しいき主か。我との約束をちゃんと果たしたようだな。ヒュララララ」
神人状態の大蛇が突然、立っていた。黒色の着物を着て、二人の少女を伴ってだ。
「大蛇?……刹那さん。この方はもしかして……八岐大」
「気安く。我の名前を呼ぶなよ。列島の弱気、将軍よ……我が新しいき主から〖灰神楽〗を奪って息を吹き替えしたか?……滑稽だな。〖黒龍〗と〖緋龍〗が少し列島を離れただけで、治めている和国を奪われようとするなど」
「……それは……くっ!」
焔が苦々しい表情を浮かべている。
「……〖黒龍〗様。僭越ながら申し上げますが、それは貴方様が起こした黒龍動乱の余波もあるのです」
「……西の覇者〖晴明〗か。ヒュララララララ! 痛い所を付くものだ……まあ、それも事実の一つ……なので今回は協力してやろう。我が新しき主の為にもな」
「……〖黒龍〗様が?」
「協力ですか?」
「うむ……〖黒龍の巣〗から連れてきた我が僕達。数十万の竜種を貸してやろう。そして、向かおうではないか。我が新しき主と敵対する〖神々の黄昏〗が居座る。〖帝都〗へとな。シュララララララ!!!」
「「「「「シャアアアア!!!」」」」」「「「「シュルルルルルル!!!!」」」」
「「「「「ギャオオオオ!!!」」」」」
黒龍 八岐大蛇のその一言で河川の水底より現れたのは竜、竜、竜だった。数万……いや数十万の竜がこの〖神地 青龍〗の地を埋め付くさんばかりに現れる。
「……こんな竜種が沢山。」
「で、ですが、お待ち下さい。〖黒龍〗様。現在、西南の神地〖鳴神〗には〖怪異〗の軍団数十万が向かっているとの報告が……」
「知るか……我は我が新しき主にしか興味も無いし、従わん。新しき主が東に行くというのなら、そちらに同行するだけだ」
「なに?……そんな話初めて聞いたぞ! お、おいっ!大蛇。そんな言い方。それに鳴神様は俺の恩人なんだぞ。あの方がピンチなら助けに行くべきだ!」
俺は焔達と大蛇のやり取りを静かに聴いていたが、かつての恩人の名前が出てきてつい反応してしまった。
(気分屋の神にそんな事を言っても無意味よ)
〖黄金の宝物庫〗から声が聴こえた。
「ほう……ならば貴様が行って〖鳴神〗の地の〖怪異〗共を滅しに行け。〖極神〗」
「ええ、貴方に言われなくても。そのつもり、その〖鳴神〗には私が付いて行くわ。主君。君なら転移魔法があるから、〖鳴神〗での戦いの後に直ぐにこの場所へ戻って来れるわよね」
「レヴィアタン……」
〖黄金の宝物庫〗からで出来たのは〖黒龍 八岐大蛇〗と同等の神だった。
暗黒大陸が『七終神』・〖極神・レヴィアタン〗が現れた。そして、俺は新たな戦地〖神地 鳴神〗へと向かう事に急遽決まった。