戦乙女と堕天使の相違 No.2 ヒルデとロキ
〖神話時代 無闇の部屋〗
「何だって? 大アルカナの〖正義〗を止めて。 〖神々の黄昏〗を抜ける?……なんでさ。ブリュンヒルデ」
「言葉通りですよ。遊び人の〖ロキ〗」
「何故だい? 今後の時代、神代以降は面白い子達も産まれてくるんだよ。強者達が来る。【皇帝】や【女教皇】の様なデタラメな強さを持った子達が現れてくれるんだよ?! 楽しくなると思わないのかい?」
「何も思いませんよ。私はヴァルハラへと帰還します。未来を待つ為に」
「……君。いい加減に」
「……ならば。何かしらの対価を提示しろ」
「どなたですか? アナタは?」
「【愚者】……君、何を勝手に外に出てきてるんだよ」
「……黙っていろ。ロキ。それよりも対価を提示しろ。〖神々の黄昏〗を抜けるというのならば、それ相応の対価を我々〖神々の黄昏〗に提示しろ。さもなければこの〖無闇の部屋〗からの退出も許さない」
「〖愚者〗……私達が知らない大アルカナの方ですか。では、私の逸話の一部を対価として失いましょう。そうすればあの子も自由になれますから」
「はぁー? 待ちなよ。ブリュンヒルデ、そんな事すれば君はボクと離れ離れになるんだよ」
ロキは怒りの表情を浮かべながら〖愚者〗とブリュンヒルデを交互に見つめる。
「……そうか。ならば叫べ終わりの時を」
「ええ……これより大アルカナ〖正義〗を放棄します。〖クリームヒルトの物語〗を対価に……大アルカナ〖正義〗を放棄します」
「ブリュンヒルデ?! 君、何て事をするんだ! これじゃあ、ボクの計画がパァーになるじゃないか」
「そうですね。その方がアナタの為にもその方が良いでしょう。アナタの為にも……」
「……対価は確かに提示された。元大アルカナ〖正義〗 ブリュンヒルデ。お前の〖神々の黄昏〗脱退を認めよう。そして、契約しろ。我々、〖神々の黄昏〗の事は関係者以外に一切の口外は許さない。良いか。必ず守るように」
「はい……必ず。それでは私はヴァルハラに帰ります。それではさようなら。ロキ。〖神々の黄昏(ラグナログ〗の活動を陰ながら見守っております」
「つっ……待てっ! 待てって……待つんだ! ブリュンヒルデ!! ボクを残してなんでヴァルハラに帰るんだよ」
「……遠き未来に幻想へと旅立つ仲間を待つ為です……ですがそれは貴方には関係の無い事。さようなら」
ギイィィ……ガコンッ!
▽▽▽▽▽
「神話時代振りの大アルカナとの対峙……ふと昔を思い出してしまいましたね……神明魔法〖ヒンダルフィヤル〗」
ブリュンヒルデは巨体な岩肌をルシファーの頭上目掛けて召喚した。その岩はとても神秘的な神聖を帯びる山脈の岩である。
「私の身動きを止めるつもりなのかしら? 神代魔法(金)〖黄金の黒撃〗」
天使族特有の……いやルシファー独自の魔法陣が展開され、その中から大量の黄金と黒色の羽根が現れる。それらの羽根は二つの色を併せ持つ球体の形をし始め、ブリュンヒルデを包み込もうと動き始めた。
「神代時代、天使族が使っていた天紋章ですか。それだけの力を隠し持っていたのなら、〖曼陀羅寺〗で身体を反転させられた時、抵抗が出来たのではないのですか? 神明魔法〖兜のヒルド(フリュムダリル)〗」
彼女は青色と藍色の甲冑鎧を出現させ、それを装着した。するとブリュンヒルデの周囲に球体のシールドが創られ。ルシファーが放った黒翼の球体を抑え、無力化していく。
「神聖の力を宿した岩は武具をそんなに躊躇無く扱うなんて、貴女、神明武器をどれ程所有しているのかしら?」
「……沢山と言っておきましょう。〖神々の黄昏〗に対価を払っても自由に動ける程には持っていますよ。〖抑制〗ルシファーさんが止めたいと願う〖神々の黄昏〗を簡単に抜けられる程の力を私は持っております」
「つっ……これだから。神話初期から生きる存在は苦手なのよ。私達が知るあらゆる常識を簡単に凌駕してくるのだから……」
〖抑制〗ルシファーのその言葉は確かに正しかった。ルシファーの〖抑制〗は大アルカナNo.14そして、ブリュンヒルデがかつて所有していた大アルカナ〖正義〗はNo.11。
数字を見れば、一見実力に差は余り無いと思われるが、ブリュンヒルデは〖神々の黄昏〗の創設者メンバーの一人にして、〖神々の黄昏〗の裏の事情知る数少ない生き残り……他の大アルカナの弱点も知り尽くした者である。
大アルカナを持つ者が対峙して、最も相手をしたくない者の一人に数えられる……