戦乙女と堕天使の相違 No.1 最上の戦乙女
〖火之神城跡地〗
「黒龍討伐、セルビア国での戦い……貴女はこの二つとの戦いしかあの子に協力していないわよね。繋がりが薄い貴女が、何故そんなにあの子に協力的になのかしら?」
「それはあの方と大冒険を乗り越えた為ですよ。あの方の少年時代を知らないお方」
「ムカつくわね。その言い方……あの子との付き合いは私の方が……」
「ええ、このブリュンヒルデの方が圧倒的に長いでしょうね」
「……貴女、ムカつくわ。神代魔法(金)【黄金の黒翼】」
七聖―女神―の杖〖ルシファー〗が反転した事により、ルシファーは自身の力〖ルキフェル・タスク〗が使用出来なくなったが、その代わりに本来の力である神代魔法(金)という極めて希少な色彩の力を使用する。
「神代魔法ですか。しかも極めて珍しい〖金〗の色。それではこちらは神明魔法で対抗させて頂きます。神明魔法〖グンナル〗」
ブリュンヒルデの武器〖グンナル〗は数多の神明が宿る。それは神人、武器、逸話、物語、地名等のあらゆる可能性と力を秘めた神明武器。
「嫌な気配がする槍ね。それに神明魔法なんて……貴女、〖幻想大陸〗の関係者だったりするのかしら? 【黒翼の鳥】」
ルシファーの黒い翼から黄金と黒色が交ざる無数の鳩が、ブリュンヒルデに向かって飛び出して行く。
「さあ、どうでしょう。あの方の敵になってしまった貴女に教える必要はないかと私は思います。神明魔法〖ヴォルスンガ・サガ〗」
ブリュンヒルデが登場する物語はブリュンヒルデについて最も充実した書かれた物語であり。今回の戦闘……〖抑制〗ルシファーに対して最も最適な物語(神明)が紡がれる。
「語りましょう。〖ヴォルスンガ〗のお話を。神明魔法《戦乙女少女》」
鎧に身を包んだ少女が幾人もブリュンヒルデの周りに出現する。その少女達は〖抑制〗ルシファーが放った黄金と黒色の鳩の群れを切り裂いていく。
「……神明魔法はあらゆる力を秘めている。〖神話魔法〗〖神代魔法〗〖現代魔法〗〖大アルカナ〗〖無闇の力〗〖神殺しの力〗等のあらゆる力と異なる力。名前の力……厄介ね。私が制約で使えない力を使うなんて」
「それは貴女が〖大アルカナ〗を選んだからではないですか? 〖抑制〗ルシファー、その力は刹那殿にとってマイナスにしかなりません。何故、棄てなかったのですね?」
「……この力は一度でも得たら、次の大アルカナの選抜までは失う事は出来ないわ。〖大アルカナ〗に何も知らない者が、私に上から目線で語らないでくれるかしら?……語りたいなら私より強い事を証明してからにしなさい。神代魔法(金)〖堕天の金光〗」
金色の光が火之神城跡地を包み込む。生きとし生きる生命の眼を、視覚を奪う為に広がっていく。
「安い挑発を……私の視覚を潰しにきますか。神明魔法《魔法の羽衣》」
〖抑制〗ルシファーが放つ金光がブリュンヒルデへと迫るが、それに対してブリュンヒルデは魔法の衣を纏う。それはありとあらゆるモノからブリュンヒルデを護る羽衣、ルシファーが放った黄金の光さえ遮る。
「……無数の分身に私の金星の光を防ぐなんて、貴女の神明武器はいったい何れだけあるのかしら?」
「貴女の方こそ。何故、今までの戦いで〖大アルカナ〗の力を使用しなかったのですか? テレシアでの戦いも貴女が〖大アルカナ〗の力を行使していれば、犠牲はもっと少なく済んだのではないのですか?」
「大アルカナの力には何かしら代償が伴うものよ。私の場合は彼との契約の放棄か、〖ルキフェル・タスク〗の放棄……どちらも失うわけにはいかない力。豊富な神明を持つ貴女には分からないわよね」
「分かりますよ。だって私は神話の時代〖正義〗の大アルカナとして席を置いて下りましたからね」
「……貴女。今、何て言ったのかしら?……こんな戦闘中にそんな冗談を言うなんて」
「冗談ではありませんよ。〖抑制〗ルシファー……私は元〖神々の黄昏〗の〖正義〗……貴女よりも上の大アルカナです。後輩の〖抑制〗ルシファーさん」
「……現代の〖正義〗の大アルカナは〖淡水の神・アプス〗だった。その先代が貴女ですって?……〖正義〗の大アルカナに認められる条件の一つは神である証〖神核〗を有している事……貴女、まさか…」
「ええ、持っておりますよ。〖神核〗を……三つ程ですが」
「……持ちすぎよ。元〖正義〗ブリュンヒルデ」
「これが差というものですよ。〖抑制〗ルシファーさん」
ブリュンヒルデとルシファーはお互いそう告げると、次なる技を放つ為の詠唱を開始した。