呪詛決戦・〖呪術の王は姫を憶い〗 No.13 反転と魔笛
〖曼陀羅寺 本殿〗
「ハハハ…まさかここまで力の差があるなんてね。流石、極西の大陸の魔王さんだね。借り物の身体では太刀打ちできないとはね」
「……ならば、早急にタテミヤの身体から出ていけ、卑怯者。他者を操り、澄ました顔でおるなど。貴様、相当に性格が悪いのだな」
「そうだね。側近の子達には良く言われるよ。いやー、でも参ったね。タテミヤ君の身体はもう使えないし……次は君の後ろの少女を利用させてもらうとしよう。回収……〖明鏡〗」
「がぁ……何かに意識が…乗っ取られる?……」
「後ろじゃと? 突然、貴様は何を言って……七綾?! お主が何故、ここに置るのだ?」
曼陀羅寺の入口近くに拘束していた七綾姫が私の後ろに立っていた。
「……どうやらこの娘は君を心配して追って来たみたいだよ。いや、それとも君を追いかければ、その先に観勒君が入ると思ったのかな? もう手遅れだと思うけどね……まあ実際に再会させてあげるんだけ感謝してもらおうかな」
先程までの七綾姫の喋り方ではない……身体を乗っ取られていたタテミヤと同じ喋り方をしている。
「お主……今度は七綾姫の身体を乗っ取ったのか?」
「うん。そうだね……それじゃあ、極西の魔王さん。君がもしこの先、生き残っていたらまたどこか出会おう。僕は回収しないといけない物達がいるからさ。さようなら……〖無闇の落葉〗」ズズズ……
「な? 七綾が自身の影に沈んでいく? い、いや、それよりも貴様、どこに行く? 待たぬか!」
七綾姫の身体を乗っ取った何者かは、黒い影を造り出し、その中へと消えて行ってしまった。
〖曼陀羅寺 焔の岩戸前〗
黒き〖塔〗と化し、身動き一つしなくなった観勒を俺達は眺めていた。
「……いつの間にか曼陀羅寺の本殿まで来ていたんだな」
「飛ばされていたの間違いではなくて?……それよりも早く、この黒いタワーとなった〖塔〗を倒してしまいましょう。そして、この西の地を平和に……」
「うんうん。平和が一番だよね……神明召喚〖白鳥〗 〖真神〗」
「ピュルルル!!」
「ガァ?!……何だ?」ドガンッ!
「ルオオオオ!!」
「くっ……いきなり。何?」ドゴオオォン!!
俺とルシファーが観勒に止めを刺そうとした時だった。白色の鳥と狼に攻撃され、焔が逃げ込んだと思われる岩戸の扉へと身体を叩きつけられたのは……
突然だ。その存在は俺達の前に突然、現れた。あれは確か外でエスフィールと戦っていた七綾姫だ。
「成る程。羅針の廻りが周り切る前に三位一体を解いたのかい。馬鹿な事をしたね。観勒君……いや、この場合はアシヤ君……辛うじて意識はあるだろうし、新しい肉体をあげればまだまだ使えるね」
話し方が七綾姫と全然違う……それにコイツからは強い〖神秘〗を感じる。
「くっ……お前、誰だ? 何で七綾姫の身体と心を乗っ取ている?」
「迎えに来たのさ。色々とね」
「迎えだと?……まさか?! ラグエル! 頼む! 準備をさせていた〖魔笛〗の詠唱を始めてくれっ!」
(yes………set………)
「おっと。変な事をされる前に用事を済ませてもらうよ……先ずは〖抑制〗君。君は〖神々の黄昏〗へと戻ってきてもらおうか。〖無闇の白夜〗」
いきなり現れた存在は、スッと消えたかと思えば、ルシファーの前に立っていた。
「……貴方、まさか……」
「やあ、久しぶりだね。〖抑制〗君、君の事は皆、探し回ってたんだよ。まさか〖神ノ使徒〗側に付いているなんて、〖代理人〗が教えてくれなかったら分からなかったよ……さあ、【反転】してこちら側に戻っておいで……【●●●●】」
七綾姫の身体を操るそれは掌から白い靄の様な何かをルシファーへと向けて放った。
「貴方……それは……何で貴方がそれを使えるの?」
「ハハハ、驚いたかい? 全てはあの御方の為だろう?」
「……何を今更、そんな呪いの様な言葉……未来に……必要……ない……アアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!」ズズズ………
「ルシファー?! おいっ! お前!ルシファーに何をした? つっ! ラグエル!! 〖魔笛〗を叫べっ! 対象は〖塔〗〖抑制〗……【皇帝】だ」
「yea……Aaaaahahahahahahahahahahahaha♪♪♪♪ Aaaaahahahahahahahahahaha♪♪♪♪……… 」
独奏……ラグエルただ一人の呪詛浄化の歌声が〖曼陀羅寺〗周辺……いや、和国の西の地側全領域を対象として、響き渡っていく。
「へえ、僕の大アルカナを知ってるとはね。良く調べているね。それに〖曼陀羅寺〗でずっと騒いでいた子達は……周囲の粛清浄化の祝詞かい? 厄介な事をするね。まあ、君を招いたのは僕が考えた事だけどさ」
「何?……お前が俺を招いた?」
「そうそう。君が来ればそちら側に付いた〖抑制〗と〖世界〗を取り戻せるからね……おっと長話をしている時間は無いんだったね。〖抑制〗君の方も生まれ変わりが終わりそうだしそろそろ退散する頃合いかな」
「ルシファーが生まれ変わる?……お前はいったい何を言っているんだ?」
「見てれば分かるよ……少年」
〖天使反転〗
◆
◆ ◆ ◆
◆
【堕天使正転】
「………」
ルシファーの翼が黒翼に変わった? 何なんだ? あの姿は?
「ルシファー?」
俺はルシファーに話しかけるが……
「………【皇帝】……付いていくわ。案内しなさい」
「ハハハ。どうやら反転は無事に成功したね。良かった。良かった……それじゃあ次は……」ズズズ……
「ルシファー……お前、何を言って……」
俺が今の状況に困惑していると、目の前に七綾姫が現れた。
ズズズ……
「親友の大切な剣にして、あの御方の所有物なんだ。悪いけど返して貰うよ。盗人君……」
奴はそう告げると俺が右手に持っていた。【闇星剣】を奪い取ろうと近寄って来た……
(………触るな。世界の澱みが……)
スパンッ!……ブチッ!
どこからか声がしたかと思えば、何かを叩き斬る音が〖曼陀羅寺 宮内〗に響き渡った。
「………これは……まさか。その子を……気に入ったいうのかい? 何の対価も奪わずに守ったと? 気まぐれにも程があるよ。……お陰で右目の〖神眼〗が潰れたじゃないか。仕方がない……ここは〖赤の神ノ使徒〗だけでも殺して……」ズズズ……
七綾姫を操る何者かは、そんな独り言を告げると俺の前から姿を消し、焔が逃げ込んだ岩戸の扉の方へと現れた。
「アイツ。こんな一瞬であんな遠くまで移動したのか? 転移魔法も無しに?」
矢継ぎ早に色々な事が起こる為、俺は困惑していた。そんな中、俺の首元にかけている〖灰神楽〗の首飾りから声が聴こえて来た。
(それよりも……あのままでは、不知火家の者が殺されるね……全く休んでいたいというのに……少年。少し君から離れて不知火家の者を助けに行くよ)
「灰神楽?……こんな時にどうした……てっ! 灰神楽の気配が首元から消えた?」
ガコン………!
〖岩戸の門 前〗
「〖天照〗という自身の護り手を失ったのに良くここまで逃げ延びたね。さあ、終わりの時だよ。無力な焔く……」
七綾姫を操る奴はそう言うと意図も簡単に岩戸の扉を簡単に開け放ち。
「……まさか〖緋龍〗様がご帰還なさるとは思っても下りませんでした」
(少年の為だから仕方なくだよ。放ちなさい)
「畏まりました……」
………ボッ!
「(不知火神術〖炎天下〗)」
ボッ………ゴオオオオオオオ!!!!!!
岩戸の扉からいきなり大炎が舞い上がる。
「………何故、ここに行方知れずだった〖緋龍〗が入るんだい?」
「さあ? これも運命ではないでしょうか? 偽りの帝殿」
列島大陸の〖神ノ使徒・赤〗《不知火 焔》
『七原龍』〖天照〗と〖緋龍〗のニ龍の眷属………