呪詛決戦・〖呪術の王は姫を憶い〗 No.11 呪詛の王と西の覇者
〖鳴神の神地 鈴生り浜辺〗
浜辺に少女が一人海岸に打ち上げられた枯木の上に座っていた。
「ウゥゥ…何で……私だけ。こんな目に合わないといけないの? 孤児って存在はそんなにいけない事なの?」
「おおぉぉ!! どうかされましたかな? 鈴の音の様な綺麗な声のお嬢さん」
ドス黒い霧の様な〖怪異〗がその少女に語りかける。
「……誰? アナタ。何で身体が黒いの?」
「節操は遥か昔、西の地に呪詛を広めた王ですぞ。そして、その対価と言うか、消されたというか……まあ、色々ありまして失いましたな」
「呪詛を広めた王?……それって〖観勒〗って、神代に沢山の人を救う為に頑張ってた人の事? 色んな人の為に沢山良い事をしたって村の長様もいっていたわ」
「……いやいや。節操は極悪にですぞ。呪いを使いすぎて〖呪い〗そのモノに堕ちた悪しき者で」
「でも、アナタは泣いている私に話しかけてくれた……私を心配して話しかけてくれたんでしょう。優しい呪いさん」
「……いや、節操は本当にただの呪いの堕ち人なのですぞ……」
▽▽▽▽▽
……この走馬灯は数年前のあの少女との思い出ですか。そうだ。節操はあの少女の……鈴殿の話し相手になってあげなければ……この堕ちぶれた呪いの堕ち人と話してくれたあの娘の話し相手に……
(黙れ。〖心側〗お前はただ帝に従い。〖観勒〗を演じろ)
おぉ……貴殿は誰です? 何故、節操の心の中に居るのです?
(良いから従え。意思と身体の統括は俺……〖塔〗が担い。心の傷は貴様、〖観勒〗が行い。身体の傷は〖晴明〗が受け、俺達三位一体は存在出来きる……従え、従え、従え……全てはこの俺、〖塔〗の為に……その全ては帝の為に繋がるのだからな。だから俺に従え、この〖アシヤ〗に従え)
節操が貴殿に従う? いや、この身体は……晴明殿の身体は最早、限界ですぞ。早く、この場から逃げ治療を施してあげねばなりません。
(ちっ! 他大陸の異能の能力に当てられ、正常に戻りやがったか……良いから従え。今は目の前の〖節制〗を確保する事に全力をかけろ。これは帝の願い……)
そんな存在などどうでも良かろう。今は目の前の傷付いてる者を救わねば。だから……
(……黙れ。心の傀儡が……)
〖数年前の陰陽殿〗
「セイメイ様。セイメイ様。西の地の覇者様。今日は私に何を教えて下さるのですか?」
「滝夜叉……今日は陰陽の基本たる五属性について教えよう。私の優秀な教え子よ」
「はい。セイメイ様に救われて、滝夜叉は色々な事を教えてもらっています。人を慈しみ、尊ぶ優しさを……」
「ああ、君は変わった。優しくなったよ。だから私の身体が病で終わる前に色々な事を覚えておくれ」
……おお、これは死ぬ前の思い出が駆け回る。走馬灯か。そうか私は死ぬのか……滝夜叉はいや、今は七綾姫か? 元気でやっているだろうか。身体を奪われ、数年前……病からは解放されたが意思は眠らされ、肉体だけが強制的に動かされる……
(黙れ肉体。貴様もただ、ただ帝の為に動くのだ。無意味な感情はいらん。動け、動け、死ぬまで動け。さすれば俺がまた、お前を動かそう〖統括〗の〖塔〗の俺が指示をしよう)
……それはただの道具ではないか。そんな事を私は望まんよ。ただ、ただ望むのならば、お前が縛る滝夜叉の心だけ……お前は色々な意味で邪魔なんだ。だから……
(……黙れ。肉体の奴隷が……)
「「だから(節操)(私)達中から出ていけ。余所者よ……」」
(……黙れ)
〖曼陀羅寺 宮内〗
「黙れ……黙れ…黙れ。心も肉体も波長を乱すな」
「何だ? 観勒の身体が歪み始めた?」
「……何にか交ざっているわね。人格、心、身体……」
「己、己、己……節操の心が……私の肉体が……俺の命令がコイツらに効かなくなってきたのも、全てはお前達がいきなり現れたせいだ。責任を取れ、責任を……俺を苦しませた責任を!! 帝の天下の為の礎となる為に」
「……帝。そんな奴がどれだけ偉いんだよ」
「この列島大陸の全ての頂点だ。覚えておけ……そして、帝の為に〖節制〗と〖世界〗を俺達に返して死ね。ガキ……〖観勒〗の心と〖晴明〗の肉体を放棄する……大アルカナ〖塔〗を発動……正位置へ……〖神の塔〗」
ゴゴゴゴゴゴ……!!!!
突然、〖曼陀羅寺 宮内〗全体が揺れ、真の異空間と化す。そして、〖観勒〗だった。何かは数百メートル程の黒色の化物へと変化した。
「……無理矢理の大アルカナ発動では、この程度よ力しか得れないか。だが良い……これで目的も果たせよう。さあ、来い異邦人共。節操と、私と、俺との……最後の戦いを始めようぞ」
〖雷塔のお念 アシヤ〗
塔の様に大きな化物はそう言って。俺とルシファーを見上げていた。