呪詛決戦・〖呪術の王は姫を憶い〗 No.10 新生の天使
「ゴオオオオ!!」「グオオオオ!!」
二体の歪な形の鬼が俺とルシファーを睨み付けている。
「それで? 私のお相手はあの赤色と青色の子達で良いのかしら?」
「ああ……それよりもロマ・テレシアの戦いの傷はもう大丈夫なのか? 起きて来てくれたのは良いんだが、〖アフロディーテ〗や〖ロンギヌス〗はまだ『黄金の宝箱』で眠っているのに大丈夫なのか?」
「私の傷はアフロディーテ様やロンギヌス程は深く無かったのよ。それに〖世界〗……オルビステラの魔力を勝手に吸収させて貰っていたから、治りも早くすんだわね」
「同じ〖大アルカナ〗の力を勝手に吸収って……良いのかそれ?」
「バレなければ良いのよ。バレなければね。それにあの娘、〖黄金の宝物庫〗の中での暮らしを凄く満喫していて、魔力が満ちているのよ……」
「おおぉぉ!! 楽しげな会話もそこら辺にして頂きたいたいですぞ。この裏切りの〖抑制〗殿! それもただの裏切りではない。〖悪魔〗殿〖隠者〗殿〖教皇〗殿が敗れた原因の一端を担った重罪をしでかした裏切り者! 貴殿のせいで、〖皇帝〗様がどれ程お辛い目にあったか考えなかったのですかな?」
「……知らないわよ。そんな事、それよりも私が眠っている間に〖神々の黄昏〗はどれ位減ったのかしら?」
「それをこの緊迫した状況で聞くのか? ルシファー、目の前の鬼達を見てみろよ。いつ俺達に襲いかかって来ても可笑しく……」
「ゴルルルル!!」「グロオオオ!!」
俺がそう言った瞬間。赤鬼と青鬼は俺達目掛けで突っ込んで来た。
「おおぉぉ!! 殺してさしあげなさい!! 〖牛頭〗〖馬頭〗達よお!」
「煩いわ。私は起きてきたばかりなの。騒がないでくれるかしら?……『ルキフェル・タスク』‥‥‥『明けの明星』」
ルシファーが魔法を放つと〖曼陀羅寺〗の宮内全域に金色の輝きが広がった。それと同時に牛頭と馬頭と観勒に呼ばれていた鬼達の身体にひびが入り、彫刻の様に動きを止めてしまった。
ヘファイストス地方の〖悪魔〗との戦いでも使用していた『明けの明星』と言う技は何度が目にしていたが、ロマ・テレシアの地下神殿で新しく得た力せいなのだろうか? 以前よりも規模と威力がかなり上がっている様に見える。
「それで?……主君は私が眠っている間に〖神々の黄昏〗を何人位倒したのかしら?」
涼しい顔で聞いてくる。観勒の奴もルシファーの先程の攻撃で、鬼達同様に身動きが取れなくなっている。口をあんぐりと開けていて、何とも可笑しな表情をしているな。
「ん? そんなに知りたいのか?……えっとな。〖太陽〗〖正義〗〖力〗〖運命の輪〗〖吊るされた男〗。そして、〖世界〗はルシファーと同様に……」
「寝返った……そんなに減ったのね……そうなのね。そして、今回、〖塔〗を倒せば残りの大アルカナは六つになるわけね。終わりが近いのね……」
「……おおぉぉ!! 『旋式遁甲』 〖夏至〗そうはいきまんぞ……減ったのならば増やすまでの事……ですから大アルカナをお持ちの存命の方々にもう一度、その座に立って頂き働いてもうわねばなりませぬ……ですな?〖抑制〗殿」
「あいつ……いつの間に動ける様になったんだ? それに失った筈の両腕もいつの間にか復活してるし」
「……季節を進めたわね。この宮内の季節がいつの間にか春の暖かさから、夏の猛暑の様な環境に変わっているわ。それにあの両腕は、別の誰かの……下で何かを唱えている子達の腕でしょうね」
ルシファーがそう言って、額の汗を拭った。俺はラグエルの歌唱の補助を受けて入る為、気づかなかったが……確かに宮内の庭園の池が干上がり初めているな。
「……戦果に犠牲はつきものですぞ。さあ、さあ、〖抑制〗殿。貴殿は〖世界〗殿の居場所も知っているのでしょう? ならばあの裏切り者も連れてくるのです。さすれば後は、拙者の呪いで救ってあげようではありませぬか」
「そんなの結構よ……私や〖世界〗はこの子に付くって決めたんですもの。貴方達も数をだいぶ減らして焦っているのは分かるのだけど……取りあえず貴方を倒して更に減らしてあげるわ。魔法世界の子供達の未来の為に。『ルキフェル・タスク』・〖金星の礫〗」
ルシファーの背後に異空間の穴が出現し、その中から金色の礫が幾千と現れ、観勒、牛頭、馬頭へと向かって行く。
「おおぉぉ?! これは……受けたら不味いですな。牛頭と馬頭よ。拙者を守り逝くのですぞ。そして、更なる召喚で拙者だけでも生き延びる……『旋式遁甲』 〖大暑()〗……来たれり、来たれり……海の大怪異……〖海坊主(うみぼうず〗殿」
「オオオオオオオンンンン!!!」
観勒が何かの印を結んだ瞬間。魔法陣が展開され、その中から海水が現れる。そして、〖曼陀羅寺〗の宮内に大量に流れ込み、その海水の中から、人面の巨大な化物が現れた。
「何だあれ? 変な顔の化物が……」
「関係無いわ。全て貫くもの……〖タスク〗」
ルシファーのその一言で〖礫〗が弾丸の様に速く動き始め、敵対対象全ての身体を貫通させたのだった。
〖曼陀羅寺 鳥居〗
「お、お主、その身体でどこに行くつもりじゃ……先程の戦いの傷も癒えていないのだぞ」
「……離して下さい。このままだと私の恩人の身体が死んでしまうんです」
〖黄金の宝物庫 極神の部屋〗
「……どこに行くの? 鈴」
「行かして下さい。サーシャ……このままだと私の恩人の心が死んじゃうんです……」
〖曼陀羅寺 宮内〗
「おおぉぉ!! オォォオ! 拙者の身体に大穴があぁあ!」
「……〖塔〗。貴方、身体と心が別種なのね。不思議な人で可哀想な人」
ルシファーはそう言って更なる攻撃を、観勒に向けて放ち続けた。