呪詛決戦・〖呪術の王は姫を憶い〗 No.7 百足殿
俺達の前に全長二百メートルはあるであろう百足の化物が現れた。
「ギギギギキ……」
「おおぉぉお! ようこそですぞぉ! 〖蠱の山 大百足〗殿。良く来てくださりましたぞお! さあ、さあ、目の前に入る侵入者達の排除をお願いいたしますぞ!!」
ドスッ!
「……は?」
「ギギギギギギ……」
「観勒が百足の尻尾に刺された? 何だ? 契約召喚で読んだんだよな? 何であの百足は契約者に攻撃してるんだ?」
「いや、神成殿。あれは攻撃したのではないでごさるよ」
タテミヤが顔に冷や汗をかきながら俺に説明してくれる。
「攻撃したわけじゃない? どういう事だ。タテミヤ」
「……あれは呪法での修復。〖府咒〗でござる」
府咒?……もしかして、たまに大蛇の奴が使ってるあれの事か?
「府咒……こっちの大陸での回復魔法みたいなものか」
「うむ……そして、強壮の効果も付与されるでござるよ」
「ギギギギギ!!」
「オオォォォ! この毒で反転させろということですかな? なんたる非道。ですがお受けいたしましょう。それでこの身体が動くならば次に乗り移れば良いのですからな……『旋式遁甲』……〖春分〗。これより始まるは春の風邪舞う脅かしなり」
観勒が再び季節を変える。アイツが造り出した亞空間の凍える様な寒い曇天の空が晴れていく。
そして、異質な太陽が昇り、変色した粉のような物が宙を吹き荒れる春風が起こる。
「アイツ。冬から春に季節を変えたのか? しかもラグエルが与えた内部の傷が完全に治って普通に動ける様になっているなんて……あの大百足。神代の神獣か何かか?」
「あれは〖樹龍〗の神地にある〖蠱の山〗の主でござる。遥か神代時代を生きる伝説でごさるよ」
「〖樹龍〗の神地って、確か本島の中心地の樹海地帯だよな? あんな化物が住んでるのかよ」
「うむ……あれならば契約の範囲外でごさるな。神成殿。あの大百足の相手は拙者が引き受けよう。ですから神成殿は観勒殿との戦闘に集中して下され」
タテミヤはそう言うと懐からクナイと短刀を取り出し構え始めた。
「タテミヤ。お前……傷は大丈夫なのか? 観勒から受けた呪いだってあるんだろう?」
「問題ないでござるよ。直ぐに終わらせる所存……参る。風遁術・〖風月〗」
数百の風の刃が大百足に向かって放たれていく。そして、タテミヤは巻き起こした風に乗り、宙へと浮き、大百足へと向かって行く。
「ギギギ……ギチギチ!!!」
「なんたる蛮行か。樹龍の地では〖毒蠱〗と恐れられる山の主に刃を突き立てるなど。許されぬ事ですぞ……グガァ?」
「無闇の武器……【闇星剣】……喰らえ〖雷星〗」
「……いつの間に拙者の背後に? それにこの剣は…まさか? 無闇の……があああああ!!!」
観勒の身体に雷、無闇、星の力が宿る三種の力が駆け回る。
「ああ、出し惜しみ無しに使ってやる……アトスから取り上げた【闇星剣】だ。ラグエル……〖遊戯歌唱〗」
(はい………)
「LuLuLu………♪♪♪」
「「「「「LuLuLuLu………♪♪♪♪」」」」」
先程の合唱の音調とは全く違う音調が、ラグエルと楽団や歌唱者達から紡がれる。その〖聲〗が観弥が造り出した亞空間に再び響いていく。
「……これは?……精神が侵されていくですと?……拙者は大百足殿の毒であらゆる耐性を得た筈ですが?」
「それとは違う概念だ。上の世界のな……未知の攻撃に震えろ。呪詛の王 【闇星剣】・〖聖星剣〗」
ズパンッ!!!
俺は容赦なく身動きが鈍くなった観勒の身体に容赦なく【闇星剣】で切付けた。
その瞬間。未来のソフィアの件が脳裏に甦る。怨みの矛先をこの〖神々の黄昏〗の〖塔〗へと全力でぶつけた。
「グオオォォ!! 節操の右腕が……己。貴殿はあぁぁ! よくも! よくもおおぉぉ!!」
そして、西の覇者の悲痛な叫び声が俺の耳に聴こえて来た。